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特別企画 循環器デバイス治療の いま

第6回
潜因性脳梗塞における植込み型心電計による
早期心房細動の検出と治療
—循環器医の立場から—

 東京女子医科大学 循環器内科 教授・講座主任 萩原 誠久 先生

脳梗塞 第4の病型・塞栓源不明脳塞栓症(ESUS)概念の提唱

脳梗塞はラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳梗塞の主要な3病型に分けられる。しかし,これらに属せず,原因疾患や病態が明らかでない脳梗塞は, 潜因性脳卒中(cryptogenic stroke)と呼ばれている 1
 潜因性脳卒中,なかでも潜因性脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke)は, 塞栓性の機序に基づくものが多く含まれている。近年では, 脳卒中専門ワーキンググループにより,塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)という概念が提唱された 2

ESUSと潜在性心房細動

ESUSは高リスクの心内塞栓源が存在しないことが前提であるが, 原因の一つとして未診断の心房細動(潜在性心房細動)が重要と考えられている。脳梗塞患者においては,入院後の12誘導心電図やモニター心電図で初めて心房細動が検出されることが少なくない。
 心房細動の既往を有さない149例の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)患者を対象とした研究では 3,入院時に12誘導心電図で初めて心房細動と診断された患者の割合は2.7%であった。しかし,その後に繰り返し行われた心電図,24時間ホルター心電図および7日間の携帯型心電図検査により,あらたな心房細動が各々,4.1%,5.0%および5.7%検出された。
 したがって,心房細動の既往を有さない潜因性脳梗塞患者においては,検査を繰り返し行うこと,測定時間を延長することの重要性が示唆された。

心臓デバイスと潜在性心房細動の検出

同様の結果は,心房細動の既往を有さない572例の潜因性脳卒中またはTIAを対象に行われたEMBRACE試験でも示された 4
 30日間のイベント検出型レコーダーと通常の24時間ホルター心電図の心房細動検出頻度を比べた同試験では,90日以内に30秒以上持続する心房細動の検出率がイベント検出型レコーダー群で有意に高かった(16.1% 対 3.2%)。
 したがって,潜在性心房細動の検出率は心電図モニターの観察期間に比例して高くなることが確認された。
EMBRACE試験と同時期に植込み型心電計(implantable cardiac monitor:ICM)の有用性を検討したCRYSTAL AF試験の結果が発表された 5。心房細動の既往がない,発症後90日以内の潜因性脳卒中またはTIAと診断された40歳以上の患者441人を,ICM群と対照群(ホルター心電図を含めた従来の標準的心電図検査)に分けて観察した。6カ月以内の, 持続時間が30秒以上の心房細動の検出率はICM群が8.9%に対して,対照群は1.4%とICM群の検出率が有意に高かった(6カ月時点で6.4倍)。さらに観察期間12カ月における心房細動検出率は12.4% 対 2.0%で, ICM群の検出率は7.3倍有意に高く,36カ月の長期観察結果では30.0% 対 3.0%と, ICM群の心房細動検出率は8.8倍高かった。
 また, 脳梗塞およびTIA患者における新規の心房細動診断率を解析した50試験,11658例のメタ解析では,「救急処置室における入院時心電図:1相」,「入院中の心電図モニタリングやホルター心電図:2相」,「外来での携帯式ホルター心電図:3相」,「外来テレメトリー,体外装着型記録計および植込み型心電計:4相」の各期間で測定することにより,心房細動があらたに,各々7.7%, 5.1%, 10.7%, 16.9%で診断された。さらに,4相すべてを合わせて23.7%の患者で心房細動が検出された 6

検出率向上に貢献したICMの進歩

このように,長時間監視が可能な心電図モニターやICMの進歩に伴い,潜因性脳梗塞に伴う心房細動の診断率は格段に向上した。
 実臨床における1247例の潜因性脳梗塞患者のICMによる心房細動検出率の報告では 7,2分以上持続する心房細動が30日後は4.6%,約6カ月(182日)後は12.2%であり,CRYSTAL AF試験よりさらに高率に心房細動が検出された。
 以上の結果から,潜因性脳梗塞患者においては, 年間約10~15%の頻度で潜在性心房細動が検出されると考えられる。
 日本では, 2016年から潜因性脳梗塞患者の心房細動検出にICMが保険適用されるようになった。また, ガイドラインでも潜因性脳梗塞患者に対して,非侵襲的長時間心電図モニターとともにICMを施行することが“クラスIIa”として推奨されている 8
 一方,脳梗塞発症後,1年以上経過して検出された心房細動が潜因性脳梗塞の直接的な発症原因であるか否かの検討は今後も必要である。

ESUSに対するDOACの効果

このように,潜因性脳梗塞患者における早期心房細動の検出は,その後の抗血栓療法の方針を決定するうえでも重要な情報となる。
 非弁膜症性心房細動(NVAF)では,危険因子が集積すると心原性脳梗塞の発症率が上昇するため, リスク評価を行ったうえで適切な抗凝固療法を選択することが重要である。
 ガイドラインでは, NVAFの脳梗塞予防として新規開始の第一選択薬はワルファリンよりも直接阻害型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)を用いることが推奨されている 8。したがって,潜因性脳梗塞患者において潜在性心房細動の合併頻度が高いのであれば, 抗凝固薬, とくに頭蓋内出血の少ないDOACが抗血小板薬のアスピリンより脳梗塞再発予防に有用なのではないかという仮説が成り立つ。
 この仮説を検証する目的で, 潜因性脳梗塞患者, とくに塞栓性機序が主因と考えられるESUS患者を対象とした2つの大規模臨床試験が行われた。
 しかし,7213例のESUS患者を対象に, リバーロキサバン15mg1日1回投与群とアスピリン100mg1日1回投与群を比較したNAVIGATE ESUS試験 9では,中間解析の結果,リバーロキサバンの有効性が確認されず(ハザード比1.07; P =0.52), さらにリバーロキサバン群で大出血が有意に多く発現したことから早期中止となった(ハザード比2.72; P <0.001)。
 また, 5390例のESUS患者を対象に, ダビガトラン150mgまたは110mgの1日2回投与群とアスピリン100mg1日1回投与群の効果を比較検証したRE-SPECT ESUS試験 10でも, 脳卒中再発において, ハザード比こそ0.85とやや少なかったものの, P 値は0.10で有意差を認めなかった。さらに, 大出血は両群間で有意差を認めなかったが, 臨床的に重要な非大出血はハザード比1.73と有意にダビガトラン群で多かった。
 したがって, これら2つの臨床試験の結果は,いずれもアスピリンを上回るDOACの有用性を示すことができなかった。これらの結果からは,2つの試験に登録されたESUS患者の主因が潜在性心房細動でなかった可能性も示唆されたのである。
 しかし, NAVIGATE ESUS試験のサブ解析では, 左房径が4.6cmを超える症例では, リバーロキサバン投与がアスピリン投与に比べて有意に脳卒中再発を減少させた 11。また, RE-SPECT ESUS試験のサブ解析でも, 75歳以上の高齢者ではダビガトランの脳卒中再発率が減少している。さらに, 投与後1年以降からダビガトラン投与群が有効性を示す可能性も示唆された。
 “左房径の拡大”や“高齢者”は, 心房細動発症のリスク因子でもある。CRYSTAL AF試験などから得られた1年以降の潜在性心房細動発症率が高いことから推測すると, 潜因性脳梗塞やESUS患者においては, 厳密な心房細動の検出・診断を行うとともに, 抗凝固薬を投与する際は, CHADS2スコアを含めたリスク評価や左房径なども考慮して検討することが望ましいのかもしれない。

心臓デバイス植込み患者における心房細動の検出

潜在性心房細動やその多くが心房細動と考えられる高頻度心房興奮(atrial high rate episode:AHRE)は, ICMのみならず,ペースメーカや植込み型除細動器(ICD)植込み患者においても, 心内心電図で検出可能である。
 ペースメーカまたはICDを植込まれた2580人を対象にしたASSERT試験 12では, AHRE(心房レート190/分以上が6分以上持続)が3カ月間で10.1%確認された。また, その後2.5年の追跡調査では, AHRE検出群では非検出群に比べ, 有意に脳梗塞・全身性塞栓症の発症率が高かった(ハザード比2.49; P =0.007)。とくに,24時間以上持続するAHREでは, 脳梗塞・全身性塞栓症の発症率が有意に高かった(ハザード比3.24; P =0.003) 13
 したがって,デバイス植込み患者でAHREが検出された場合は, 潜在性心房細動の有無を確認するとともに,心房細動が診断された場合には持続時間や脳卒中リスクに応じて治療を開始することも重要である(ガイドラインの推奨クラスは, “クラスI”) 8, 14

参考文献
  • Mohr JP. Cryptogenic Stroke. N Engl J Med. 1988; 318: 1197-1198. PubMed
  • Hart RG, et al. Embolic strokes of undetermined source: the case for a new clinical construct. Lancet Neurol. 2014; 13: 429-438. PubMed
  • Jabaudon D, et al. Usefulness of Ambulatory 7-Day ECG Monitoring for the Detection of Atrial Fibrillation and Flutter After Acute Stroke and Transient Ischemic Attack. Stroke. 2004; 35: 1647-1651. PubMed
  • Gladstone DJ, et al: Atrial fibrillation in patients with cryptogenic stroke. N Engl J Med. 2014; 370: 2467-2477. PubMed
  • Sanna T, et al. Cryptogenic stroke and underlying atrial fibrillation. N Engl J Med. 2014; 370; 2478-2486. PubMed
  • Sposato LA, et al. Diagnosis of atrial fibrillation after stroke and transient ischaemic attack: a systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol. 2015; 14: 377-387. PubMed
  • Ziegler PD, et al. Real-World Experience with Insertable Cardiac Monitors to Find Atrial Fibrillation in Cryptogenic Stroke. Cerebrovasc Dis. 2015;40:175-181. PubMed
  • 日本循環器学会, 日本不整脈心電学会 他. 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版). https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2020_Ono.pdf
  • Hart RG, et al for the NAVIGATE ESUS Steering Committee and Investigators. Rivaroxaban for Stroke Prevention after Embolic Stroke of Undetermined Source. N Engl J Med. 2018; 378: 2191-2201. PubMed
  • Diener HC, et al for the RE-SPECT ESUS Steering Committee and Investigators. Dabigatran for Prevention of Stroke after Embolic Stroke of Undetermined Source. N Engl J Med. 2019; 380: 1906-1917. PubMed
  • Healey JS, et al. Recurrent Stroke With Rivaroxaban Compared With Aspirin According to Predictors of Atrial Fibrillation: Secondary Analysis of the NAVIGATE ESUS Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2019; 76: 764-773. PubMed
  • Healey JS, et al for the ASSERT Investigators. Subclinical Atrial Fibrillation and the Risk of Stroke. N Engl J Med. 2012; 366: 120-129. PubMed
  • Van Gelder IC, et al. Duration of device-detected subclinical atrial fibrillation and occurrence of stroke in ASSERT. Eur Heart J. 2017; 38: 1339-1344. PubMed
  • Hindricks G, et al. 2020 ESC Guidelines for the diagnosis and management of atrial fibrillation developed in collaboration with the European Association of Cardio-Thoracic Surgery (EACTS). Eur Heart J. 2020 Aug 29; ehaa612. doi: 10.1093/eurheartj/ehaa612. [Online ahead of print]. PubMed
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