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Dr. 必読! 循環器疾患のガイドラインを読み解く デバイス編
第1回 ペーシング治療][第2回 植込み型除細動器(ICD)][第3回 心臓再同期療法(CRT)
2019.August

第2回 植込み型除細動器(ICD)

近畿大学病院 心臓血管センター 栗田 隆志 先生

はじめに

2019年3月に発表された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」(以下, 本ガイドライン)は,近年の不整脈に対する非薬物治療(心臓電気デバイス治療,カテーテルアブレーション,心臓外科手術)の発展を背景として,本ガイドラインの旧版「2011年改訂版」(以下, 旧ガイドライン)および「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン2012年版」を統合する形で作成された1-3)

今回の改訂に至るまでの7年間で達成された医療電子技術の進歩は目覚ましく, ICDの領域では皮下植込み型ICD(Subcutaneous ICD:S-ICD)が新たに登場した。
 また, 今回のICDに関するガイドラインの特徴として, ① ICD適応を判断するフローチャートの作成, ② 虚血性心疾患と非虚血性心筋症を別項目として記載, ③ わが国で示されたRegistry研究によるクラス分類の裏付けなどが特徴といえる。

本稿では, ICDの適応に決定に関して, 新旧, 内外のエビデンスがどのように評価されたかを中心に述べていきたい。

1. 冠動脈疾患(CAD)に対するICDの適応

1)2次予防

① 冠攣縮性狭心症(VSA)に起因する心室頻拍(VT)/心室細動(VF)

旧ガイドラインでは, 急性の原因によるVT/VFであっても, 再度その環境に曝露される可能性がある場合にはクラスIIbの適応とされていた。これは, VSAによるVT/VFなどを意図してのことであったが, 本ガイドラインでは, わが国から発信された2つのエビデンスを根拠に適応を明記することができた。

Japanese Coronary Spasm Associationからの報告によると, 院外心肺停止を経験したVSA患者の主要な有害心臓イベントの5年発生率はそれ以外のVSA患者に比して有意に高く(92% vs. 72%, P <0.001), ICDを適応した14例のうち2例でICDショック作動が生じ, 救命に成功している。また, 適応しなかった21例のうち, 1例で突然死が発生した4)。さらに, Matsueらは, 院外心肺停止を経験した連続VSA患者23例にICDを適応し, 平均2.9年の追跡期間中にカルシウム拮抗薬を内服中であるにもかかわらず4例にVFに対する適切作動を認め, 全例が救命されている5)

これらの試験から, 当該患者のVF年間発生率は3~6%と推定され, ICDの適応を積極的に判断する根拠となった。本ガイドラインでは, 薬剤抵抗性の場合にクラスIIaとしたが, 薬剤抵抗性であるかどうかの判断が難しい場合もあり, それ以外をクラスIIbとしている。

② 心筋梗塞後の2次予防

心筋梗塞発生後急性期(48時間以内)のVT/VFは, その後の不整脈基質の変化により自然消退することが知られている。AVIDなど心筋梗塞後患者のICD 2次予防を確認した臨床試験は発症後3~5日以上経過した患者が登録されており, 発症後3~5日までに発生したVT/VFに関するICDの有効性についてはエビデンスがないのが実情である6-8)。しかし, 海外のガイドラインでも発症後48時間以上経過して発症したVT/VFの基盤は固定化したと考えられており, これにならって本ガイドラインでもこの基準を用いた。

平たく言えば, 心筋梗塞発生後48時間以上を経過し, VT/VFの主要な原因が虚血による場合を除いて, ICDはクラスIIa以上の適応である。

③ 心筋梗塞後の1次予防

わが国において, MADIT-II登録基準(LVEF≦30%)に相当する心筋梗塞後患者の予後は海外と比べて良好であることが知られている9)

一方, SCD-HeFT 10)に相当する条件(LVEF≦35%+NYHA心機能分類クラスII以上)に非持続性VT(NSVT)を加えた患者の予後は, 海外のみならず, わが国においても不良(CHART-2において致死的不整脈発生率は年間5%)であることが示されており11), クラスIの適応と判断した。NSVTがない場合はCHART-2において年間3%と推定され11), クラスIIaと判断された。

④ エビデンス新奇性の問題

MADIT-II 9), SCD-HeFT 10), MUSTT 12)など, ICD適応の根拠となった臨床試験はすべて15年以上前のものであり, 2011年以降, CADに関わるエビデンスレベルA相当の臨床試験は発表されていない。

また, この15年間で進歩した他の治療法[PCIなどの虚血管理や抗心不全内服薬の浸透, 心臓再同期療法(CRT)の登場]が患者予後の全般的な改善に寄与し, ICDの効果を相対的に減じているのではないかとの意見もある。しかし一方で, ICDの目覚ましい機能発展(小型長寿命化, 多機能化, ショック低減)が患者の生命予後改善に貢献しているという側面も存在する。

時代に即した新たなランダム化臨床試験を行うべきとの意見もあろうが, すでに15年以上前に決着した感が強い問題に対して, 多額な資金を投入して再チャレンジするマインドは残念ながら冷めているのが現状である。そこで, 重要視されるのはCHART-2 11), JCDTR 13)やNippon storm 14)など, 最近のRegistry研究によるICD効果の検証である。

2. 非虚血性心筋症(DCM)

1)2次予防

CADと同様に2次予防に関しては新たなエビデンスは創出されておらず, 旧ガイドラインと同等の適応基準となった。しかし実際のところ, 2次予防に関する大規模臨床試験は主にCAD患者を対象としたものであり, DCMについては単独の臨床試験6-8)やメタ解析13)においてもICDは抗不整脈薬に対して有意な効果を示せていない。

しかし, メタ解析15)ではCADと同様のハザード比(HR 0.77)が示されていること, さらにNippon storm14)などの観察試験においてDCMに対する高い適切作動率などが示されていることなどから, クラスIまたはIIaの適応を認めることとなった。

2)1次予防

旧ガイドライン以降の新たなエビデンスとして2016年に大規模ランダム化試験DANISHが発表された16)

この試験では,① 収縮不全(LVEF≦35%),② 症候性心不全(NYHA心機能分類II,III,CRT が予定されているIV),③ NT-proBNP>200 pg/mL,④ 標準的心不全治療をみたす患者を対象とし, 68カ月の追跡調査が行われた。心臓突然死はICD群で有意に少なかった(HR 0.50, 95% CI 0.31–0.82) ものの、主要評価項目である全死亡率は,ICD 群と非ICD 群で有意差はなかった(HR 0.87,95%CI 0.68-1.12,P =0.28)。この試験では, 両群ともに6割の患者にCRTが適応され, 対照群の予後が良好であったこと, ICD群での感染発生率が高かったことなどがICDの有効性を減じた原因かもしれない。

本ガイドラインではDANISHの結果に注目しつつ, ① DANISHのサブ解析では若年者(主論文では59歳未満, その後のサブ解析17)においては70歳以下)においてICDの有効性が示されていること, ② 本試験を含めた2つのメタ解析においてICDの有効性が示されていること18, 19), ③ CHART-2ではSCD-HeFT基準+NSVT患者において高い致死的不整脈発生率(年間5%)が示されていること11), ④ Nippon storm試験で1次予防のDCM患者において年間15%程度の適切作動率が示されていること14)などから, クラスI, IIaの適応を認めることとした。

3. 皮下植込み型ICD(S-ICD)

旧ガイドライン以降の最もホットな話題がS-ICDの登場であり, 本ガイドラインでは単独の項目として取り上げている20)

従来のICDの基本的デザイン(皮下ポケット内の本体と心腔内へ達する長いリードが物理的に接続されるというコンセプト)の宿命的な欠点は, ① 静脈内リードがその経路内で物理的応力や化学反応(酸化作用)を受けて断線の原因となること, ② 皮下ポケットの易感染性, ③ 局所的感染がリードを経由して血行性に全身へ拡大すること, ④ 静脈の閉塞, ⑤ タンポナーデの発生などである。S-ICDは上記の問題を解決すべく開発された画期的なICDであり,ショックリード, 機器本体などシステムの全てが皮下に植え込まれる。ただし, 治療は80Jのショックに限定され, 恒常的徐脈ペーシングや抗頻拍ペーシングはできない。

S-ICDの植込みは解剖学的な血管走行異常に影響されず, 感染が生じても重篤化しにくいことなどから, 過去の静脈リードの留置により静脈アクセスが得られない場合, また感染の高リスク患者で, かつ徐脈または抗頻拍ペーシングを必要としない場合にクラスIの適応を認めた。血液維持透析中で左腕にシャントを有する場合やVTのみが治療対象となるBrugada症候群(特発性VT)によい適応(クラスIIa)である。

4. その他

これ以外にも,本ガイドラインでは, 肥大型心筋症, 不整脈原性右室心筋症, 遺伝性心疾患などについても新しい基準が定められた。
 今回は誌面の都合上省略するが, 是非とも新しいガイドラインを多くの臨床の場面で利用していただき, 次回改訂時の参考になるご意見を頂戴できれば幸いである。

文献
  • 日本循環器学会, 日本不整脈心電学会. 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版).
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf
  • 日本循環器学会.不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版).
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf
  • 日本循環器学会. カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン.
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_okumura_h.pdf
  • Takagi Y,et al. Japanese Coronary Spasm Association. Prognostic stratification of patients with vasospastic angina: a comprehensive clinical risk score developed by the Japanese Coronary Spasm Association. J Am Coll Cardiol. 2013; 62:1144-53. PubMed
  • Matsue Y, et al. Clinical implications of an implantable cardioverter-defibrillator in patients with vasospastic angina and lethal ventricular arrhythmia. J Am Coll Cardiol. 2012; 60: 908–13. PubMed
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