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特別企画 循環器デバイス治療の いま

第5回 ICD植込み患者におけるATP治療の重要性とは

 東京医科歯科大学医学部附属病院 不整脈センター センター長 合屋 雅彦 先生

わが国のICD治療のこれまでと現状

わが国において植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)が保険償還されたのは1996年であるが, 当時, 植込み症例は非常に限られていた。
 その後, MADIT-II 1により左室駆出率(LVEF)30%未満の心筋梗塞後の症例群において, また, SCD-HeFT 2により非虚血性心疾患を含めたLVEF 35%以下の症例群において, ICDの予防的留置が心臓突然死の予防に有効であることが示され, 以後, 急速に普及した。
 現在では, 年間10,000例を超える症例に対し, ICD/CRT-Dの交換・新規留置が行われている。

ICD植込み後のショック作動を減らす試み

一方, SCD-HeFTのサブ解析 3では, 適正ショック作動があると死亡のリスクが5.68倍に, また, 不適切ショック作動であっても死亡のリスクは1.98倍となることが明らかとなった。つまり, ICDは, 突然死ハイリスク群の死亡率低減に寄与するものの, ショック作動そのものは生命予後を悪化させるということが示されたわけである。
 そこで, ショック作動を減らす試みがなされた。そのうちの一つがプログラミングの工夫であり, もう一つがショック作動によらず心室頻拍/心室細動(VT/VF)を停止させる抗頻拍ペーシング(anti-tachycardia pacing:ATP)の導入である。

1. プログラミングの工夫

 まず, 前者のプログラミングの工夫に関し述べる。
ADVANCE-Ⅲ 4において, VT検出インターバル(detection interval)を長めの30/40に設定した群が通常(18/24)設定した群にくらべ, ショック作動のリスク比が0.77と, 23%リスクが低減された。一方, 死亡率, 失神率には有意差を認めなかった。
 これは, 長めのdetection intervalを設定することにより, 死亡のリスクを上げることなくショック作動を減らすことができることを示している。

2. 抗頻拍ペーシング(ATP)の導入

 次に, 抗頻拍ペーシング(ATP)につき論を進める。
 ATPに関し最初に行われた重要なトライアルは, PainFREE Rx 5である。この研究では, 虚血性心疾患症例において, 速い心室頻拍(fast VT:FVT)ゾーン(240~320 ms)を設定し, そのゾーンのVTに対しATPを行った[VT周期(VTCL)の88%のペーシング周期で8発]。その結果, FVT 396/446エピソード(89%)でVTの停止が得られ, 失神およびVTの速拍化は少数であった。
 続いて行われたPainFREE RxⅡ 6では, FVTに対する治療としてATP(VTCLの88%で8発)を作動させる群と電気ショックを作動させる群にランダム化して検討した結果, ATP群の停止率(72%)はショック作動群の停止率(64%)と同等であり, かつ失神, 速拍化, 死亡も同等であった。これは, FVT治療に対するATPがショック作動と同様に有用であることを示している。さらに, この試験ではQOLに関しても検討がなされ, ATP群がショック作動群に比し, よりQOLを改善させた(P <0.05)。

ICD植込み患者におけるATPの有用性に関する最近の研究

Chengらは最近, Shock-Less, PainFREE SST, PREPAREの3つの研究のメタ解析 7を行った。その結果, VT/VFの発生頻度は, 虚血性心疾患群(11.9%)と非虚血性心疾患群(11.2%)で同等であり, 単形性VTに対するATPの停止率も虚血性74.6%, 非虚血性76.4%と同等, ATPが虚血性・非虚血性にかかわらず同様に有用であることを示した。
 また, 2008年に報告されたPREPARE 8では, 設定したプログラミング内容[VTゾーン(167~181 bpm):モニタリングのみ/FVTゾーン(182~249 bpm):ATP 作動を1回/VFゾーン(250 bpm以上)のdetection interval:30/40]の有用性について, EMPIRIC, MIRACLE ICDの両試験に登録された医師が各々プログラミングを行った症例群をコントロールとして, 比較検討した。
 その結果, 12カ月後の不適切作動を含む総ショック作動率は, コントロール群(16.9%)に比しPREPARE設定群で有意に少なく(8.5%, P <0.01), 総死亡率もコントロール群の8.7%に比しPREPARE設定群では4.9%と有意(P <0.01)に低かったことから, ATPを設定することが生命予後の改善に寄与することが示唆された。

ICD植込み患者におけるATPの生命予後への影響

ATPの生命予後への影響に関しては, さらに2つの重要な報告が存在する。
 PainFREE Rx, PainFREE Rx II, EMPIRIC, PREPAREのメタ解析 9では, ATPでVT/VFを停止した群の予後はVT/VFを認めない群と同様に良好であったが, ショック作動により停止した群の生命予後はほかの2群と比較すると悪かった。
 さらに, 2017年に報告されたStrickbergerらの報告 10でも, ATPで停止した群の予後はATP, ショックをともに認めなかった群と比較すると悪かった(P =0.002)ものの, ショックで停止した群よりは良好(P <0.001)であった。これらの報告は, ATPによるVT/VFの停止は, ショック作動による停止に比して生命予後を悪化させないことを示している。
 2017年に, ATPに関してYeeらにより興味深い報告 11がなされた。従前のATPでは, PainFREEの結果に基づき初回シークエンスをVTCLの88%で8発とし, 停止しない場合は84%のバースト刺激, あるいはランプ刺激等のアグレッシブな設定を行うのが一般的である。つまり, 初回シークエンスの88%はVTCLの88%であり, 対象VTの周期に基づくものの, 以後の刺激は対象のVTの電気生理学的所見に基づくものではない。一方, Yeeらは初回のS1刺激(88%で8発)を加えた際の復元周期(return cycle)を測定し, さらに心内心電図から不応期を推定し, それらに基づいてS1の拍数の適正化, S2あるいはS3刺激を行う。つまり, ATPに電気生理学的要素を導入し, 停止率の向上を図るものである。
 Swensonらがさらにこれを発展させ, AATP(automated anti-tachycardia pacing)と名付け, バーチャルモデルを用いて検討した結果について報告した 12。それによると, 従来のバースト刺激の停止率が56%であるのと比較し, AATPでは73%と大幅に改善しえた。

ICDは心臓突然死の予防の面で日常臨床に欠かせないが, さらにその有用性・安全性を高めるためにATPが重要である。
 ATPは近年, 大きく進歩している。われわれは, ATPを上手に用いて, 患者のQOL,生命予後を高める努力を怠ってはならない。

参考文献
  • Moss JA, et al. Prophylactic implantation of a defibrillator in patients with myocardial infarction and reduced ejection fraction. N Engl J Med. 2002; 346: 877-883. PubMed
  • Bardy GH, et al for the SCD-HeFT Investigators. Amiodarone or an Implantable Cardioverter-Defibrillator for Congestive Heart Failure. N Engl J Med. 2005; 352: 225-237. PubMed
  • Poole JE, et al. Prognostic Importance of Defibrillator Shocks in Patients with Heart Failure. N Engl J Med. 2008; 359: 1009-1017. PubMed
  • Gasparini M, et al. Effect of Long-Detection Interval vs Standard-Detection Interval for Implantable Cardioverter-Defibrillators on Antitachycardia Pacing and Shock Delivery: the ADVANCE III Randomized Clinical Trial. JAMA. 2013; 309: 1903-1911. PubMed
  • Wathen MS, et al for the PainFREE Rx Investigators. Shock Reduction Using Antitachycardia Pacing for Spontaneous Rapid Ventricular Tachycardia in Patinets With Coronary Artery Disease. Circulation. 2001; 104: 796-801. PubMed
  • Wathen MS, et al for the PainFREE Rx II Investigators. Prospective Randomized Multicenter Trial of Empirical Antitachycardia Pacing Versus Shocks for Spontaneous Rapid Ventricular Tachycardia in Patients With Implantable Cardioverter-Defibrillators. Pacing Fast Ventricular Tachycardia Reduces Shock Therapies (PainFREE Rx II) Trial Results. Circulation. 2004; 110: 2591-2596. PubMed
  • Cheng A, et al. Characteristics of ventricular tachyarrhythmias and their susceptibility to antitachycardia pacing termination in patients with ischemic and non-ischemic cardiomyopathy: A patient-level meta-analysis of three large clinical trials. J Cardiovasc Electrophysiol/Early View. https://doi.org/10.1111/jce.14688.
  • Wilkoff BL, et al for the PREPARE Study Investigators. Strategic Programming of Detection and Therapy Parameters in Implantable Cardioverter-Defibrillators Reduces Shocks in Primary Prevention Patients. Results From the PREPARE (Primary Prevention Parameters Evaluation) Study. J am Coll Cardiol. 2008; 52: 541-550. PubMed
  • Sweeny MO, et al. Differences in effects of electrical therapy type for ventricular arrhythmias on mortality in implantable cardioverter-defibrillator patients. Heart Rhythm 2010; 7: 353–360. PubMed
  • Strickberger SA, et al. Association of Antitachycardia Pacing or Shocks With Survival in 69,000 Patients With an Implantable Defibrillator. J Cardiovasc Electrophysiol. 2017; 28: 416-422. PubMed
  • Yee R, et al. Initial Clinical Experience With a New Automated Antitachycardia Pacing Algorithm: Feasibility and Safety in an Ambulatory Patient Cohort. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2017 Sep; 10(9): e004823.  PubMed
  • Swenson DJ, et al. Direct comparison of a novel antitachycardia pacing algorithm against present methods using virtual patient modeling. Heart Rhythm 2020 May 11; S1547-5271(20)30430-6. doi: 10.1016/j.hrthm.2020.05.009. [online ahead of print] PubMed
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