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特別企画 循環器デバイス治療の いま

第3回 心房細動の新たな選択肢:抗頻拍ペーシング

AOI国際病院 不整脈先端治療センター センター長
東京医科歯科大学 医学部名誉教授 平尾 見三 先生

はじめに

2018年12月, わが国で脳卒中・循環器病対策基本法が成立した。
 同法の目的は, 対象疾患の予防推進と迅速かつ適切な治療体制の整備を進めることとされる。
 循環器病には心筋梗塞, 心不全のほかに不整脈などが含まれ, 不整脈のなかでは特に心房細動(AF)の罹患率が高く, AFは脳卒中(脳血栓塞栓症), 心不全を引き起こす。そのため, この対策基本法においての主要疾患の一つはAFであり, その予防・治療が最重要といっても過言ではない。

正式名称:健康寿命の延伸等を図るための脳卒中, 心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法。

AFは, 発症すると心房のremodelingが進行するためAFが持続し, 重症化しやすい。そのため, AFを停止させ, 持続化させないことが治療戦略のポイントになる。
 治療法(洞調律維持療法)として, 従来は薬物とカテーテルアブレーションの二択であったが, 最近, 第3の選択肢が出現した。心臓デバイスに搭載された心房ペーシング機能の利用である。これは, ペースメーカ(PM)植込み患者において, 心房ペーシングにより「AFを止めることができ, AF持続化を減らせる」ことが明らかにされたことによる。

心房ペーシング機能がAFの新たな治療選択肢となった背景には, 国の保険医療材料制度の再評価制度(チャレンジ申請)**がある。
 この制度により, 心房ペーシング機能[心房抗頻拍ペーシング(A-ATP)機能]にAFの早期停止とAF持続化の抑制を目的とした「デュアルチャンバ(V型)」という機能区分の新設および保険適用が認められた。

** すでに保険収載された医療材料に対し, 導入時には評価できなかった機能について実績を踏まえて再評価を行い, 新たに機能区分の設立と保険の適用を認めるもの。

本稿では, このA-ATP機能によるAF停止のメカニズム, A-ATP治療の意義, さらに今後の課題などについて概説する。

1.心房細動の病型(タイプ)の進行と従来治療の効果

心房細動(AF)は, 心電図上30秒以上連続する細動波が確認され, 持続期間(7日間)によって大きく発作性・持続性の2つのタイプに分類される。
 持続性AFは, 全死亡率/脳卒中発症率が発作性AFより高く, 予後が不良とされる。 そのため, 発作性AFを持続性AFに移行させないための治療が必要となり, 治療による移行率は, 薬物治療では1年あたり5.5%/年, アブレーションでは0.6%/年との報告がある。

2.心臓植込み型デバイス患者におけるA-ATPの効果

ペースメーカ(PM)植込み患者においては心房細動(AF)の発生率が高いため, AF発生・持続を抑制する治療が重要視されてきた。
 これまでに心房徐脈時の不応期バラツキ是正, AF trigger抑制を目的としたペーシング法などが試みられてきたが, いずれも有効ではなかった。
 近年, 新しい心房抗頻拍ペーシング(A-ATP)を有するデュアルチャンバPMにおける臨床研究(MINERVA研究)が実施された。A-ATP機能オフ(非導入)群では発作性から持続性AFへの移行率は25%/2年と高率であったが, A-ATP機能導入群では15%/2年まで有意に減少した 。この研究では, 両群とも右室刺激最小化機能であるMVP™モードで右室はペーシングされた。

3.A-ATPとは

心房リードで心房頻回興奮時の心房興奮の周期長, 規則性をモニターしながら周期延長, 規則性上昇を感知したときに心房頻回刺激を行うことにより, 持続する心房細動(AF)を早期に停止させる機能である。
 この特定の心房興奮パターン変化を検出したときに反応して, 心房ペーシングを実行するアルゴリズム(Reactive ATP ™)は, 現在, メドトロニック社の植込み型ペースメーカ(デュアルチャンバ型), CRT(心臓再同期治療デバイス), ICD(植込み型除細動器:デュアルチャンバ型)に搭載されている。

4.心房細動停止のメカニズム

心房頻脈のなかで心房頻拍, 心房粗動は心房に電気刺激に反応可能な興奮間隙が存在するため, 心房頻回刺激で停止可能である。
 一方, 真の心房細動(AF)は心房ペーシングによる停止は不能である。しかし, AF患者の64%では, 一過性に周期長が伸び, より規則性が増す心房頻脈エピソードに移行する。この瞬間にA-ATP治療を介入させると, 頻脈は停止し得る(44%) 2。この停止効果によってAFは発生してもその持続時間は有意に短くなり, そのことがAF発生・持続化の抑制にもつながると推測される。

5.心房細動バーデン 定義とその意義

臨床症状と心電図記録による発作性・持続性という主観的心房細動(AF)二分法は, 歴史的に治療ガイドラインにも用いられてきた。
 しかし, 近年の植込み型心臓モニタリングデバイスを用いた研究によると, モニタリング期間内におけるAF持続時間, AFエピソード回数に基づいた客観的AFバーデン(%表示)が算出され, 主観的AF二分法が必ずしも真のAFバーデンを反映していないことが明らかになった。AFバーデン量が多くなると脳卒中と心不全発症リスク, 死亡率が増加するとの報告がなされ, このAFバーデンがAF研究の量的指標となりつつある
 AFバーデンに基づいた今後の大規模コホート研究, 治療介入研究の成果の蓄積によって, AFのより有用な予防・治療戦略の構築が期待される。

6.A-ATPの実際と有用性

長期間にわたって心房細動(AF)エピソードを記録・発見できる心臓デバイス植込み患者は, 一方でAF発生が高頻度であり, このA-ATP機能はAFバーデンの低減効果によって植込み型心臓デバイス(PM, CRT, ICD)患者にそれぞれ固有の有用性を提供する。全般的にはAFの持続化を早期に阻止できる効果であり, 塞栓症・心不全発症リスクの軽減が期待できる。
 CRT植込み患者においては, 洞調律維持率向上により効率の良い両室ペーシング率が増加して心不全入院率を低減でき, 合併症はなかったとの報告がある 。ICD患者では, AF発生時の早い心室応答を心室頻脈と誤認識することによる誤作動の低下, 誤作動時の直流通電に起因する死亡率上昇リスクの軽減が期待できる。

将来の課題と展望

現在の心房抗頻拍ペーシング(A-ATP)機能は, 上述したように臨床的に有用である。今後, より高い停止効果が得られる効率性の高いアルゴリズムの改良が求められ, また電池消耗がより少なくなるシステムの開発が望まれる。
 将来的には, デュアルチャンバペーシングを有するPM, CRT, ICDの心臓デバイスのすべてに, このA-ATP機能の搭載が検討されるべきものと考えられる。

参考文献
  • Steinberg BA, et al. Higher risk of death and stroke in patients with persistent vs. paroxysmal atrial fibrillation: Results from the ROCKET-AF trial. Eur Heart J. 2015; 36: 288-296. PubMed
  • Padeletti L, et al. New-generation atrial antitachycardia pacing (Reactive ATP) is associated with reduced risk of persistent and permanent atrial fibrillation in patients with bradycardia: Results from the MINERVA randomized multicenter international trial. Heart Rhythm. 2015; 12: 1717-1725. PubMed
  • Chen LY, et al. Atrial fibrillation burden: Moving beyond atrial fibrillation as a binary entity. Circulation. 2018; 137: e623-e644. PubMed
  • Ueda N, et al. Efficacy and safety of new-generation atrial antitachycardia pacing for atrial tachyarrhythmias in patients implanted with cardiac resynchronization therapy devices. J Cardiol. 2020; 75: 559-566. PubMed
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