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第1回 心原性失神の早期発見・早期治療の重要性

 産業医科大学医学部 不整脈先端治療学 河野 律子 先生

はじめに

日本国内では現在, 年間約80万人もの意識消失発作を起こした患者が救急外来を受診するといわれている。
 失神患者の診断率は低く, 不要な入院や過剰な検査は患者のQOL低下をもたらし, 不安感から複数の医療機関を受診する患者も多い。

失神の原因のなかでも心原性失神の生命予後は悪く, 早急に心原性失神か否かを見極める必要がある。心原性失神の原因の多くは不整脈発作であるが, 発作時の心電図をとらえることはむずかしい。日本では, 10年ほど前から植込み型ループ式心電計が利用できるようになり, 心原性失神の早期診断のためには重要なデバイスとなっている。

失神の原因となる不整脈とは

失神発作を訴える患者は, 救急外来を受診する患者の3~5%, 入院患者の1~3%を占めるとされる 1,2。失神の原因の約半数は自律神経の影響による神経反射性(調節性)失神であり, 約18% は心原性失神と報告されている。
 心原性失神のうち, 不整脈による失神, いわゆるアダムス・ストークス症候群は78%を占めるとされる 3。アダムス・ストークス症候群を含めた心原性失神は, その他の原因による失神と比較しても生命予後が悪く, 1年後の累積死亡率は19~30%と報告されている 1,4。心原性失神は, 早期に診断し治療する必要がある致死的な原因の一つである。

心原性失神の原因となる不整脈と病態生理

アダムス・ストークス症候群は, 急激に発生した極端な徐脈, 心停止, 頻脈のために, 心臓から脳への血液量が一時的に減少するか途絶し, 脳虚血に陥ることによって意識障害をきたす状態である。このため, 立位では症状は出現しやすく, 臥位では出現しにくい。
 また, 脳虚血が原因で起こる全身けいれんや, 全身の脱力を伴って倒れるために, 手で防御できずに顔面や頭部外傷がみられることもまれではない。しかし, 臥位によって脳虚血が軽減したり, 原因となる不整脈が短時間で消失したりした際には, これらの症状は出現しないこともある。

心原性失神を起こす原因となる不整脈は, 一般的に徐脈性不整脈と頻脈性不整脈の2つに大別される。
 徐脈性不整脈として, 洞不全症候群と房室ブロック, 徐脈性心房細動などがあげられるが, とくに徐脈頻脈症候群や発作性房室ブロックは, 失神の原因となりやすい。
 頻脈性不整脈で失神の原因としては,心室頻拍および心室細動の頻度が高く,まれに頻脈性心房細動, 1:1房室伝導を伴う心房粗動, 発作性上室性頻拍症などがあげられる。

心原性失神の診断と植込み型ループ式心電計

失神, ふらつきを主訴に来院しても原因がわからないことは多く, 救急外来を受診した失神患者のうち34%は原因不明であったとの報告もある。そのため, 失神を主訴に来院した患者には十分な問診を行い, その発症経過や基礎疾患からアダムス・ストークス症候群が疑われる場合は, ホルター心電図もしくは体外式ループ式心電計(External Loop Recorder : ELR)を施行することが必要で, モニター心電図を行うために入院させることもある。侵襲を伴う心臓カテーテル検査や電気生理学的検査まで行うこともあるが, 原因が発作性不整脈である場合には, そのような侵襲的な検査によっても原因が明らかにならないことは多い。
 心原性失神が疑わしく, 十分な検査を行っても原因が特定できなかった場合には, 植込み型ループ式心電計を利用する。とくに, 失神の頻度が少ない場合には有用である。

わが国では, 2009年10月より原因不明の再発性失神患者に植込み型ループ式心電計(Implantable Loop Recorder : ILR)が使用できるようになった。
 ILRの保険適応基準は, 「短期間に失神発作を繰り返し, その原因として不整脈が強く疑われる患者で, 心臓超音波検査および心臓電気生理学的検査(心電図およびホルター心電図を含む)などにより, その原因が特定できない患者に対する原因究明の目的」となっている。
 2016年9月より皮下挿入型のImplantable / Insertable cardiac monitor (ICM) が使用できるようになった。ICMは小型化されているため, 植込み後も体表面から目立たず, 体形や年齢を問わず使用しやすくなり, 遠隔モニタリング機能も搭載されている。日本国内では, おもにMedtronic社のReveal LINQ™と2018年6月1日に保険償還されたAbbott社のConfirm Rx™ AFが使用されており, Biotronik社のBIOMONITOR IIIも2020年1月1日に保険償還された。

ガイドラインにおける植込み型ループ式心電計の適応基準

日本循環器学会「失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)」には, 失神患者に対するICM植込み適応基準が記載されている 5
 生命予後の悪い心原性失神を早急に除外するために, 十分な病歴聴取を行いつつ, 12誘導心電図, 心エコー検査, ホルター心電図など鑑別に必要とされる検査を行う。病歴や検査で心原性失神を疑わせるハイリスク所見を認めた際には, 心原性失神である可能性を念頭に必要な検査を進めていく。その結果, 原因が明らかとならない場合にはICMを利用する。
 心原性失神が示唆されるハイリスク患者においては, 包括的に精査を行っても失神原因の特定がなされない場合のICM植込みは, クラスⅠ適応である 5。また, 心原性失神を疑わせるハイリスク所見はないが, 血管迷走神経性失神や起立性低血圧などの心原性以外の原因が否定的な再発性失神患者に対する初期段階でのICM植込みも, クラスⅠ適応である 5
 さらに, 頻回に再発あるいは外傷を伴う失神歴がある神経反射性(調節性)失神の疑いを含む患者で, 徐脈に対するペースメーカ治療が考慮される患者へのICM植込みは, クラスⅡa適応となっている。

植込み型ループ式心電計の検出機能

ICMでは, あらかじめ設定された条件によって検出を行う自動記録と, 患者によって記録される手動記録の両者が可能である。
 デバイスの種類にもよるが, 自動記録では設定された不整脈の検出の前後30秒~1分間程度の心電図記録が取得される。自動検出では, 心停止時間や下限レート設定による徐脈の検出, 上限レート設定による頻脈の検出, 心拍数のばらつきによる心房細動の検出が可能である。
 一方, 患者による手動記録では, 付属のリモコン操作を行ってデバイスへ信号を送ったあとの約1分間と, さかのぼって4~6分間の記録がなされる。機器により記録可能なイベント数は異なるが, 各製品とも容量を上回った記録は随時上書き保存される。
 またICMには, 遠隔モニタリング機能が搭載されており, 患者にイベントが生じた場合や予定された時間にトランスミッタを介してサーバーにイベント情報が送信される。さらに, 患者個人のスマートフォンに専用のアプリをダウンロードすることで, トランスミッタと付属のリモコンとして機能させることができるICMもある。イベント出現時に患者自身が操作すれば, ICMに記録された情報はBluetooth®を介して直接スマートフォンアプリに接続される。3G/4G/ Wi-Fiなどの通信環境があれば, 心電図記録を含めたすべての情報がただちに担当医へ送信される。
 ちなみに, ICMは電池寿命が約2~3年程度であり, 診断や治療の効果判定が得られた場合、あるいは電池寿命を迎えた段階で取り出される。

おわりに

早期に心原性失神か否かを見極めることは重要である。発作時の心電図をとらえることができるICMは, 効率的に原因不明の失神発作を診断へ導くことができる診断ツールといえる。
 ICMを適切な患者へ早期に使用することは, 患者のQOLを向上させ, 早期診断と治療につながることから, 日常診療における選択肢として組み込むべきである。

参考文献
  • Task Force on Syncope, European Society of Cardiology, Brignole M, et al. Guidelines on Management (Diagnosis and Treatment) of Syncope. Eur Heart J. 2001; 22: 1256-1306.
  • Silverstein MD, et al. Patients With Syncope Admitted to Medical Intensive Care Units. JAMA. 1982; 248: 1185-1189.
  • Linzer M, et al. Diagnosing Syncope. Part 1: Value of History, Physical Examination, and Electrocardiography. Clinical Efficacy Assessment Project of the American College of Physicians. Ann Intern Med. 1997; 126: 989-996.
  • Soteriades ES, et al. Incidence and Prognosis of Syncope. N Engl J Med. 2002; 347: 878-885.
  • 日本循環器学会, 日本救急医学会 他. 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版). https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2012_inoue_h.pdf
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