心臓デバイスナースとは

デバイスナースとは,ペースメーカ(pace maker:PM)や植込み型除細動器(implantable cardiac defibrillator:ICD),心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy:CRT)といった植込み型心臓電気デバイス(cardiovascular implantable electronic device:CIED)の専門知識を有し,その知識を生かして植え込み患者のデバイス管理や生活指導といったケアにあたる看護師のことである。当院では,2017年から2名のデバイスナースが心臓病脳卒中センター外来に配置され,専任看護師として活動している。

デバイスナースが求められるようになった背景には,各種CIEDがより多機能かつ高性能化したこととデバイス植え込み患者の増加がある。さまざまな種類があり年々高度化していくCIEDの機能を十分に活用するには,医師や臨床工学技士,臨床検査技師など従来対応を行ってきた一部の医療専門職だけでは手が回らなくなっているのが実情で,CIEDに特化した専門知識を持ち,患者教育も含めて管理できるような存在が求められるようになっている。
 デバイスナースは認定看護師のような特別な資格職ではなく,認定されている関連資格を取得して業務を担う。実際,われわれは,日本不整脈心電学会のペースメーカ/ICD関連情報担当者(Cardiac Device Representative:CDR)と植込み型心臓デバイス認定士制度による認定士* を取得し,業務を行っている1, 2)。デバイスナースの必要性は増し,徐々に増加傾向にはあるものの,まだまだ認知度は低い。
 本稿では,このデバイスナースの役割について, COVID-19感染下での遠隔モニタリングシステム(remote monitoring system:RMS)の活用を例に,当事者の立場から述べてみたい。

* 植込み型心臓デバイス認定士制度:2019年に日本不整脈心電学会により創設された新しい資格制度。

デバイスナースの活動とは
――埼玉医科大学国際医療センターの取り組み

われわれデバイスナースの主な業務内容は,①遠隔医療の一部として保険上認められているCIEDに搭載されたRMSの管理,②入院中のCIED植え込み患者の病室訪問,③ペースメーカ外来通院中の患者のデバイスチェック,④CIED植え込み後の患者への生活指導,⑤未受診患者への連絡などである。

RMSには,定期的に送信されてくる定期送信データ(当院では少なくとも1回/月に設定)と異常を示すアラート送信とがある。われわれは,毎日送信されてくるアラートの内容を確認し,評価ならびに必要時には医師に相談して対応を行っている。
 当院のRMS管理の特徴として,送信されてきたデータをもとに定期的(1回/1〜2カ月)にデバイスナースによる電話での看護介入(以下,電話介入)を行っており,電話で指導した内容を電子カルテに記載している。電話介入を行うのには,患者ケアの充実は当然のこととして,診療報酬の算定基準に厳密に対応するためという理由もある。算定基準では,「前回受診月の翌月から今回受診月の前日までの期間,遠隔モニタリングを用いて療養上必要な指導を行った場合は,遠隔モニタリング加算として,それぞれ260点または480点に当該期間の月数(当該指導を行った月に限り,11月を限度とする)を乗じて得た点数を,所定点数に加算する」(注:PM/CRT-Pは260点,ICD/CRT-Dなどの除細動デバイスは480点)3)との記載がある。

遠隔モニタリングシステムを活用した患者ケア

RMSを活用した電話介入を導入するにあたり問題点と考えられたことの1つは,病院からの連絡に対する患者の反応であった。これについては電話介入の開始当初に検討を行った結果,可能な限りRMS導入予定の患者に対し,ペースメーカ外来での説明を実施したうえで電話介入を実施することとなった。
 電話介入実施後,当院のRMSおよび電話介入に関するアンケート調査を一部のRMS患者を対象に行ったところ,おおむね良好な反応が得られている(図1)。

図1:RMSと電話による定期連絡に対する患者アンケート調査(n=30)
図1 RMSと電話による定期連絡に対する患者アンケート調査(n=30)
埼玉医科大学国際医療センター「遠隔モニタリングおよび電話介入に関するアンケート調査」(2019年11月実施)より

 CIEDから得られるさまざまな生体情報はRMSを介して患者ケアにつなげることができる。RMS活用のメリットとしては, 外来臨時受診の削減や入院期間の短縮,生命予後改善の効果4)のほか,不整脈や心不全兆候など心イベントへの早期対応における有用性も挙げられる。
 当院では,高齢人口の増加とともに増え続ける心不全に着目し,RMSを活用した心不全の早期介入も重要視している。そのためわれわれは, RMSを活用した患者ケアの一助となるよう,2021年に日本循環器学会により新設された心不全療養指導士5)資格も取得し,植え込み患者のケアにあたっている。
 もっともRMS管理の心不全に対する効果は依然として議論の的6)だが,RMSに含まれる複数の生体情報は心不全の評価指標として活用できる可能性がある。
 RMSを介して得られる主な心不全評価指標には,メーカーによる差はあるものの,胸郭インピーダンス(肺うっ血の指標となる),夜間心拍数,アクティビティ(患者活動量の指標),睡眠傾斜(起座呼吸の指標),心音(I音,III音),血圧,体重などがある。
 以下に,参考までに, われわれが経験したCIEDを用いたRMS活用による患者ケアの例をお示ししたい。

【RMS活用例 その1】

CIEDに搭載された機能+RMS活用により,イベントの早期対応につなげた例。

70歳代の女性。肥大型心筋症に加えて非持続性心室頻拍もあることから,ICD植え込みが行われている。

この患者に植え込まれているICDはMedtronic社製のもので,患者診断情報を記録するツールであるCardiac Compassおよび胸郭インピーダンスを持続的にモニタリングする機能(Optivol Fluid Status Monitoring:OptiVol/以下,OptiVol)が搭載されている。
 OptiVolインデックスは肺毛細血管楔入圧,水分出納など心不全の生理学的指標との相関が示されており,心不全症状に先行して反応を示すことが知られている。また,Cardiac CompassやOptiVolインデックスの陽性診断基準(OptiVolインデックス≧100ΩやOptiVolインデックス≧60Ω+AT/AF≧6時間など)を満たした患者群では,翌30日間における心不全入院リスクが5.5倍高まることが示されている7)

以下にCardiac CompassおよびOptiVol2.0インデックスの経過を時系列で示す。

  • ≪2019年 年末≫
    OptiVolインデックスの上昇を認める。デバイスナースによる電話介入の際,患者は軽度の浮腫・疲労感を自覚していた。電話介入で減塩ならびに心不全増悪症状など生活指導を実施。その後,かかりつけ医への定期受診の際,軽度の胸水貯留を指摘されるも薬剤調整などはなく自然軽快。(図2-①
  • ≪2021年1月≫
    OptiVolインデックス改善および症状改善があったものの,一過性の心房細動の出現があり,かかりつけ医への情報提供を行う。(図2-②
  • ≪2021年2月≫
    心房細動とOptiVolインデックスの増悪を認め,患者への電話介入の際には労作時の呼吸困難も認めた(図2-③)。心房細動ならびに心不全増悪の可能性を含め,かかりつけ医への報告書を作成,患者へはかかりつけ医への早期受診を指示。かかりつけ医にて抗凝固療法の導入と抗不整脈薬・利尿剤の追加がなされる。その後,OptiVolインデックスおよび心房細動の改善が見られ,症状は消失。

当症例では,RMSによる不整脈の早期検出と心不全増悪について,かかりつけ医と連携することにより早期に治療へつなぐことができた。

図2
図2

また,近年ではCIEDから得られる生体情報の測定値を点数化して閾値を超えた場合にアラートが発現,心不全症状への速やかな対応へつなげられるような機能をもつCIED(Heart Logicインデックス/Boston Scientific社)も存在している**

** 
HeartLogicインデックスのカットオフ値は16点であり, それを超えると感度70%で心不全イベントが感知される。また,アラートから心不全イベントまでの期間の中央値は34日と報告されている8)

RMSによる患者ケアの 2例目として,心不全に特化した機能が搭載されたCIEDでの活用例をお示しする。

【RMS活用例 その2】

70歳代の女性,CRT-D植え込みが行われている。虚血性心筋症とそれに伴う僧帽弁閉鎖不全症によって慢性心不全の状態。

  • ≪2020年12月末≫
    COVID-19感染拡大を受け,患者が電話診療を希望したことから,対面診療をやめ,医師による電話診療が開始される(図3は電話診療への切り替え前の胸部X線画像)。
  • 図3
    図3
  • ≪2021年3月中旬≫
    医師による電話診療の2週間後,HeartLogicインデックス43点への上昇,胸郭インピーダンス低下,呼吸数上昇がみられたことから,デバイスナースによる電話介入を実施。易疲労,労作時呼吸困難,起座呼吸の出現が確認されたため,医師との検討により早期受診となる。うっ血の増悪(図4),BNP上昇を認めたため,利尿剤を増量。
  • 図4
    図4
  • ≪2021年3月下旬≫
    HeartLogicインデックスの下降および外来フォローにて症状改善を認める。
  • ≪2021年4月≫
    外来にてデバイスチェックおよびデバイスナースによる面談を実施,心不全指導と状態確認を行う。心不全による自覚症状は確認できず。
  • ≪2021年5月初旬≫
    医師による対面診療を実施。BNP高値を認めるも自覚症状なし。経過観察となる(HeartLogicインデックス22点/図5)。同日,デバイスナースによる面談も実施し,心不全指導と状態確認を行う。
  • 図5
    図5
  • ≪2021年5月下旬≫
    前回受診より数週間が経過。HeartLogicインデックスの再上昇[HeartLogicインデックス53点,心音(III音)上昇,胸郭インピーダンス低下,呼吸数および心拍数上昇,睡眠傾斜の上昇]が認められたため,再度デバイスナースによる電話介入を実施。電話口での息切れを確認できるほどの状態で,安静時呼吸困難,起座呼吸もあることから,医師と検討して早期受診を促し,来院。心不全入院となった(図6)。
  • 図6
    図6

図7
図7

当症例は,CIEDに搭載された心不全評価指標をRMSにより随時確認し(図7),電話診療のみでは判断しえなかったであろう心不全の状態を把握,適切なタイミングでの電話介入を行って結果的に早期治療につなげることができた。これは一例にすぎないが,RMSに含まれる複数の生体情報を活用することにより急性心不全による緊急入院や救急搬送を回避できる可能性があるのではないかと考える。

これからの循環器チーム医療とデバイスナース

電話による診療やアプリを用いたインターネット診療などの遠隔医療は,COVID-19の感染拡大を受けて注目されたものの発展途上であり,今のところ明確に定まったシステムはなく,施設によりシステムや参画するスタッフなどは多種多様である。
 しかしながら,RMSを介した遠隔医療には,すでにCIEDの早期異常発見や外来臨時受診の削減,安全な外来間隔の延長といった効果が明確に示されている。また,RMSを介した遠隔医療の優れている点として,データ共有が容易なことが挙げられる。個人情報保護の問題をクリアする必要があるものの,データを共有した他施設(介護施設や訪問看護・介護,地域のかかりつけ医)との連携をすることで,より多方面からの患者介入が可能となり,よりよい患者ケアにつなげることができるのではないだろうか。

CIEDを扱う多くの施設でもRMSを介した遠隔医療を標準的な管理方法として導入することが望まれている。しかし,多くの施設で障壁となっているのがマンパワー不足である。
 医師をはじめ臨床工学技士や臨床検査技師など一部の医療専門職が業務と並行してRMS管理の担い手となっているのが現実である。CIEDの専門知識をもつデバイスナースがRMS管理を担う施設も徐々に増加しているが,病棟業務との兼任などで,当院のように専任や専従となるのはむずかしいことが多いと思われる。また,仮に専任や専従となったとしても看護部を離れる場合も多く,雇用形態の変更を余儀なくされるなどの問題もある。
 デバイスナースのさらなる普及には看護業界の理解を深めていくことが大きな課題であり,RMS管理への看護職の参画により院内の連携やRMS患者のケアのみならず,在宅支援や地域医療との連携を強め,地域の心不全診療や遠隔医療の発展につながることが期待される。

COVID-19の影響は今後も当面は続くと思われるし,将来的にCOVID-19のような新規感染症は再び発生するだろう。RMSを活用した遠隔医療は,このたびのCOVID-19の感染拡大下での実施により,受診間隔を安全に延長してCIED患者を感染リスクから守るのに有用であること,また限られた医療資源の有効活用という面でも対面診療を極力回避する診療スタイルとして地域医療システムの一環として取り入れることが理論上は可能である。さらに,RMS活用により蓄積された遠隔医療の経験は,多様な疾患管理への対応という意味で,将来的に通常の外来診療の代替となりうる可能性も秘めているのではないだろうか。

今後も遠隔医療に携わるデバイスナースとして,RMS管理への看護師参画の促進ならびに遠隔医療の推進を図り,よりよい患者ケアの一助になれれば幸いである。

参考文献
  1. 日本不整脈心電学会CDR制度ホームページ
    http://new.jhrs.or.jp/recognition/cdr-recognition/ (2021年11月閲覧)
  2. 日本不整脈心電学会 植込み型心臓デバイス認定士制度ホームページ
    http://new.jhrs.or.jp/recognition/device_ninteishi/ (2021年11月閲覧)
  3. 厚生労働省ホームページ
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000603749.pdf (2021年11月閲覧)
  4. 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf (2021年11月閲覧)
  5. 日本循環器学会 心不全療養指導士ホームページ
    https://www.j-circ.or.jp/chfej/(2021年11月閲覧)
  6. 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf (2021年11月閲覧)
  7. Whellan DJ, et al. Combined Heart Failure Device Diagnostics Identify Patients at Higher Risk of Subsequent Heart Failure Hospitalizations. Results From PARTNERS HF (Program to Access and Review Trending Information and Evaluate Correlation to Symptoms in Patients With Heart Failure) Study. J Am Coll Cardiol. 2010; 55: 1803-1810. PMID: 20413029
  8. Boehmer JP, et al. A Multisensor Algorithm Predicts Heart Failure Events in Patients With Implanted Devices: Results From the MultiSENSE Study. JACC Heart Fail.2017 Mar; 5(3): 216-225. PMID: 28254128