はじめに

不整脈に関しては,これまで数多くのガイドラインが公表されてきた。しかし,それぞれのガイドラインには重複記載も多かったことから,今後は複数のガイドラインをコンパクトにまとめて改訂することとなった。そのため不整脈診療においては,「診断」と「治療(薬物治療・非薬物治療)」を主体として,おおむね3つのガイドラインに統合・編成された。
 まず,非薬物「治療」に関しては,「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」1)とその補完版としての「2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版」2)が,薬物「治療」に関しては,「2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン」3)がすでに公表されている。

本稿では,原因不明の失神を中心に今回改訂された事項について概説するが,本稿で取り上げるガイドライン「2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」4)は,不整脈の「診断」に関するガイドラインとして位置づけられ,本年(2022年)3月に公開された。
 このガイドラインは,従来の「心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)」・「失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)」・「臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン(2011年改訂版)」・「心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン(2008年改訂版)」の内容が統合・改訂されたものであり,「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)」の診断に関するアップデートも含まれている。

失神診療において,詳細な病歴聴取は最も大切な基本である

原因不明の失神患者を適切に診療する上で,詳細な病歴聴取は最も重要かつ最低限必要である。失神は症状であり,原因疾患名ではないため,早期の原因疾患の確定を行わないと治療が開始できない。
 従来から一過性意識消失患者の診療は,低い原因診断率・高い誤診率・過剰検査や不要な入院,などが指摘されていたが,これらを防ぐには詳細な病歴聴取を行うことが基本かつ最重要である。同時にこれは過剰な検査や不要な入院を減らし,医療費の削減にもつながる。

病歴聴取は,単に患者の話を聞くことではない。てんかんなど非失神との鑑別を念頭においた病歴聴取が必要である。一過性意識消失患者の特徴として,本人は意識消失しているので自分では状況がわからないことが少なくない。そのため,目撃情報や家族からの情報が有益である(意識消失時の顔面蒼白の有無,開眼の有無,自動症の有無,けいれんの有無,意識消失時間,外傷の部位など)。繰り返す意識消失の場合には,家族にスマートフォンなどによるビデオ撮影を依頼しておくと有用なことがある。

反射性失神の原因疾患に「てんかん性失神」が追加

一過性意識消失には,失神のみならずてんかん発作も含まれるが,一般的にてんかん発作では,意識消失は認めるものの倒れる(転倒)ことは少なく,とくに側頭葉てんかんでは倒れることはほとんどない。しかし,てんかん患者の中に発作時に体位の維持ができなくなり失神する患者がいることが判明している。多くは側頭葉てんかん患者が発作中に心停止をきたして二次的に失神するためである。これは「てんかん性失神(ictal asystole)」と呼ばれる。一般的に心停止時間は長く(10秒以上の心停止が多い),機序の詳細は明らかではないもののてんかん患者の突然死(SUDEP)の原因ではない。むしろ良性で,てんかん発作を自己停止させるための一種の生体防御反応ではないか,と考えられている。てんかん発作時に二次的に心停止が発生するため,植込み型ループレコーダー(ILR)などの長時間の心電図では夜間に心停止が記録されることが多い。したがって,てんかん患者に失神症状が認められる場合には,この「てんかん性失神」を疑って対外式長時間心電計やILRを考慮する必要がある。
 この「てんかん性失神」は,心停止が記録されていても通常の心原性失神をきたす洞不全症候群などとは治療法がまったく異なり,現時点でペースメーカ治療の有効性は証明されていないばかりか,てんかん症状の悪化を招くこともあるからである。
 心停止の心電図が捉えられたら,安易にペースメーカ植え込み治療を行うのではなく,本原因疾患の存在を認知しておく必要がある。

治療は,てんかん治療が優先され,心停止は二次的に発生していることからペースメーカによる治療はてんかん治療が無効な場合に限って考慮される。「てんかん性失神」に関する記述は,本ガイドラインでは米国(HRS/AHA/ACC)や欧州(ESC)のガイドラインに先んじて詳細に記載されている。

発作性房室ブロックにおける「低アデノシン房室ブロック」の特徴

発作性房室ブロックによる失神には,①刺激伝導系に器質的異常を伴う内因性房室ブロックに伴う失神(多くは脚ブロックを伴い,期外収縮がトリガーとなり房室ブロックとなるが,ブロック時のP-P間隔は短縮し,EPSではH-V時間の延長を認める),②迷走神経過緊張に伴う外因性房室ブロックに伴う失神(房室ブロック時のP-P間隔は延長),またそれ以外にも,③正常心電図を呈しATPに感受性を示す低アデノシン房室ブロックがある。

この低アデノシン房室ブロック(上記③)は,従来の刺激伝導系の器質的異常による房室ブロック(上記①)と心電図所見や臨床経緯が異なるのみならず,ペースメーカ治療以外の薬物治療の有効性も示唆されている。
 発症機序はいまだ不明確な点はあるものの,房室ブロックは期外収縮をトリガーとせず突然発症し,房室ブロック中のP-P間隔は不変,EPSで刺激伝導系はまったく正常であるが,ATPに感受性を示し,ATP 20 mg静注で10秒以上の房室ブロックを呈する(A-Hブロック)のが特徴である。血中アデノシン濃度は低下し,前兆なく失神する。

臨床的にもこれらの房室ブロックの特徴は異なっている。①の内因性房室ブロックの場合は,ペースメーカ治療のクラスⅠ適応で症状は完全に改善する。しかしペースメーカ植え込み後も時間の経過とともに刺激伝導系障害は徐々に進行するため,心室ペーシング率は上昇し,いずれかの時点でペースメーカ依存となっていくことが多い。
 一方,③の低アデノシン房室ブロックに関するこれまでの報告では,10年以上の経過観察でも持続性房室ブロックへの移行は報告されておらず発作性のままである。低アデノシン房室ブロックには比較的若年患者もいることもあり,ペースメーカ治療の適応に関しては長期有効性のデータもないことから慎重な見方もある。しかし,徐脈のみならず血圧低下もきたしている可能性が高いことから,dual-chamberペースメーカを使うべきである。喘息の治療薬であるテオフィリン(非選択的アデノシンレセプター遮断薬)が低アデノシン房室ブロックの治療に有効であるとの報告もなされており,本疾患の今後の治療法に関するエビデンスの集積が待たれるところである。

参考文献
  1. 日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf(2022年6月閲覧)
  2. 日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン「2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療」
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf (2022年6月閲覧)
  3. 日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン「不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)」
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf(2022年6月閲覧)
  4. 日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン「不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン(2022年改訂版)」
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf(2022年6月閲覧)