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3月11日 Late-Breaking Clinical Trials IV: General Cardiology

手術高リスク大動脈弁狭窄 TAVR vs AVR 3年後死亡:TAVR ≒ AVR
PARTNER-コホートA
手術高リスクの重症大動脈弁狭窄患者におけるTAVRの3年後の死亡率は開胸大動脈弁置換術と同等。
* PARTNER試験 DBは,2011年に手術適応と判断された高リスクの重度症候性大動脈弁狭窄患者における経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVR)群の1年後生存率は標準治療(開胸大動脈弁置換術:AVR)群と同等,2012年に2年後の予後は両群同等と発表。
コメント PARTNER cohort A trialは主として米国で実施された経カテーテル生体弁置換術(TAVR)についての最初のランダム化比較試験であり,高リスクの重度大動脈弁狭窄症例を対象としている。今回は3年後の臨床転帰が発表され,TAVR(SAPIEN生体弁)と標準手術(AVR)の全死亡率における同等性が示された。症状の改善や心エコー検査から見た弁の機能は両群で類似しており,3年間の追跡期間中も維持されている。脳卒中発生率はTAVRでは30日後で有意に高くなるが,3年後にはAVRと差がなくなることが注目に値する。重大な血管合併症はTAVRに多く,重大な出血はAVRに多いことには変わりはない。3年後の予後関与因子がTAVRとAVRで異なることは興味深い。TAVRでは弁周囲大動脈弁逆流が予後と関連するが,AVRでは僧房弁逆流が予後に影響しているので,2つの弁置換術では心腔内の血流の動態が異なる可能性が考えられる。さらに,3年後にTAVRよりAVRでは左室重量係数(LVMI)がより有意に低下しておりこの機序の解明が待たれる。TAVRでは経大腿アプローチの方が経心尖アプローチより予後はよいがAVRでは両アプローチの差は小さいので,経心尖アプローチが必要な症例はAVRのほうが良いかもしれない。 いずれにしろ,TAVR(SAPIEN生体弁)は安全で侵襲度の低い治療法であるので,これから治療すべき高リスクの重度大動脈弁狭窄症例に対してTAVRとAVRのどちらが適切な選択肢であるかを見極める必要が日本においても今後出てくる(コメント:星田 四朗)。
デザイン ランダム化,多施設(米国22施設,カナダ2施設,ドイツ1施設),intention-to-treat解析。
一次エンドポイント 全死亡。
対 象  699例。 心エコーによる大動脈弁弁口面積(aortic-valve area: AVA)<0.8cm²(あるいはAVA index<0.5cm²/m²),平均大動脈弁圧較差(aortic-valve gradient: AVG)>40mmHg,最高大動脈弁通過血流速度>4.0m/秒,NYHA心機能分類≧II度,手術による死亡予測率≧15%(心臓医,外科医が決定);STSスコア≧10。
除外基準:大動脈弁輪径<18mmあるいは>25mm,EF<20%,血清クレアチニン>3.0mg/dLあるいは透析患者,1ヵ月以内の心筋梗塞など。
■患者背景:平均年齢(TAVR群83.6歳,AVR群84.5歳),男性(57.8%,56.7%),手術リスク:Society of Thoracic Surgeons(STS)スコア(11.8,11.7),NYHA III-IV度(94.3%,94.0%),CABG歴(42.5%,43.6%),脳血管疾患(29.4%,26.8%),末梢血管疾患(PVD:43.2%,41.6%),心房細動(AF:40.7%,43.6%),ペースメーカー植込み(19.8%,21.8%)。
期 間 追跡期間は3年。
治 療  TAVR群(348例):経大腿アプローチ群(244例);経心尖アプローチ群(104例),AVR群(351例):248例;103例。
結 果 TAVR;経大腿アプローチ群:3年後の生存例は132例,死亡例96例,その他16例。
TAVR;経心尖アプローチ群:45例,52例,7例。
AVR;経大腿アプローチ群:119例,101例,28例。
AVR;経心尖アプローチ群:47例,42例,14例。

[一次エンドポイント]
TAVR群44.2% vs AVR群44.8%:ハザード比0.93;95%信頼区間0.74-1.15(P=0.483)。
landmark解析:1年後以降の死亡率は26.3% vs 24.5%:1.02;0.74-1.40(P=0.922)。
経大腿アプローチ群:41.0 % vs 44.6%(P=0.144),経心尖アプローチ群:51.6% vs 45.1%(P=0.369)。

[その他]
脳卒中:8.2% vs 9.3%,(P=0.763);経大腿アプローチ(6.5% vs 8.4%,P=0.953);経心尖アプローチ(12.5% vs 11.6%,P=0.721)で,30日以降のTAVR群での脳卒中リスク上昇は認められなかった。
脳卒中+一過性脳虚血発作:11.6% vs 11.4%,全死亡,脳卒中:47.1% vs 45.9%(P=0.839),全死亡,再入院:56.0 % vs 55.0%(P=0.953)。
AVA,AVG,心機能(改善)にも群間に有意差はなかった。
弁周囲逆流はTAVR群で有意に多く(P<0.0001),軽度であっても死亡リスクが上昇した(as treated解析)。
3年後の死亡予測因子:TAVR群はAF,肝疾患,AVR群はペースメーカー植込み,中等症~重症の僧帽弁逆流。

*Pはすべてlog rank検定

presenter: Vinod H Thourani, MD ( Emory University School of Medicine, US )
PCI 心臓血管外科を有する施設 vs 有さない施設 MACE↓:有する施設≒有さない施設(非劣性)
MASS COMM 
Massachusetts Hospitals with Cardiac Surgery On-Site and Community Hospitals without Cardiac Surgery On-Site
心血管外科はないが診断プログラム,治療実績のある施設での非緊急PCIの安全性,有効性は,心臓血管外科のある施設でのPCIに対して非劣性。
デザイン ランダム化,多施設(米国・マサチューセッツ州の心臓血管外科を有する7施設,有さない10施設),intention-to-treat解析。
一次エンドポイント 安全性:30日後のMACE(全死亡,心筋梗塞[MI],再血行再建術,脳卒中の複合エンドポイント)。
有効性:12ヵ月後のMACE。
対 象  心臓血管外科のない施設で冠動脈造影を実施する患者。
除外基準:EF<20%,標的病変:非保護左主幹部>50%狭窄,伏在静脈グラフト留置部位など。
心臓血管外科のない施設:過去2年間に診断手技を≧300例/年,primary PCIを≧36例/年実施。手技者:≧75例/年のPCIを施行。

■患者背景: 平均年齢(心臓血管外科のない施設群64.7歳,ある施設群64.2歳),女性(31.8%,33.6%),白人(91.1%,92.9%),糖尿病(31.7%,32.2%),現・過去の喫煙(60.0%,60.5%),末梢血管疾患(両群とも10.4%),既往:PCI(29.0%,27.3%);CABG(5.4%,7.0%);MI(24.1%,20.2%;P=0.015)。PCIの適応:非ST上昇型MI(19.0%,17.1%);不安定狭心症(44.8%,46.8%);安定狭心症(27.0%,28.1%),参照血管径(2.99mm,2.92mm;P<0.001),病変長(15.12mm,14.84mm)。

期 間 追跡期間は12ヵ月。
治 療  3:1にランダム化。
心臓血管外科を有していない施設でのPCI群(2,774例・4,053病変),ある施設でのPCI群(917例・1,294病変)。
結 果 治療血管数は1.17,治療病変数(心臓血管外科のない施設でのPCI群1.47,ある施設1.43)。
狭窄率:ベースライン時85.66%→最終2.46%,85.22%→1.51%(P=0.005),TIMI 3:83.3%→98.8%,87.9%(P<0.001)→98.6%。
ステントのタイプ:BMS(32.6%,24.6%),DES(63.7%,69.3%),BMS+DES(2.2% vs 1.5%);P<0.001。
冠動脈造影:病変成功(95.6%,97.1%),手技成功(81.3%,74.7%),完全血行再建(60.2%,59.8%),PCIの適応基準をみたすもの(94.1%,91.5%)。

[一次エンドポイント]
・30日後のMACE(安全性):心臓血管外科を有していない施設での有する施設に対する非劣性が認められた(9.5% vs 9.4%:相対リスク1.00;95%信頼区間1.22,P<0.001)。 死亡(0.7% vs 0.3%:1.96;0.58-6.64,P=0.44),MI(6.5% vs 6.5%:1.01;0.76-1.35,P=1.00),再血行再建術(2.7% vs 3.5%:0.77;0.51-1.17,P=0.25),脳卒中(0.4% vs 0.1%:3.93;0.51-30.21,P=0.21)。
・12ヵ月後のMACE(有効性):心臓血管外科を有していない施設での有する施設に対する非劣性が認められた(17.3% vs 17.8%:0.98;1.13,P<0.001)。 死亡(2.3% vs 2.4%:0.95;0.57-1.60,P=0.89),MI(8.6% vs 7.8%:1.10;0.84-1.45,P=0.55),再血行再建術(8.5% vs 9.9%:0.86;0.67-1.11,P=0.24),脳卒中(1.0% vs 0.8%:1.24;0.51-3.04,P=0.83)。

[その他]
二次エンドポイントの一つであるステント血栓症は,30日後(0.6% vs 0.8%,P=0.48),12ヵ月後(1.1% vs 2.1%,P=0.07)。

presenter: Alice K Jacobs, MD ( Boston University School of Medicine, US )
高齢CABG オフポンプ vs オンポンプ 心腎イベント:オフポンプ≒オンポンプ
GOPCABE 
German Off-Pump Coronary Artery Bypass in Elderly Patients
待機的CABGを初めて施行する75歳以上の高齢者において,30日後,12ヵ月後の死亡,脳卒中,心筋梗塞,再血行再建術,新規腎代替療法の複合エンドポイントは,オフポンプとオンポンプで変わらず。 →文献情報コメント 星田四朗)
CABG オフポンプ vs オンポンプ 1年後の転帰:オフポンプ≒オンポンプ
CORONARY  
CABG Off or On Pump Revascularization Study
1年後の心腎転帰,再血行再建術,QOL,認知機能にオンポンプとオフポンプとに 差はなかった。 →文献情報
手術高リスク, CABG オフポンプ vs オンポンプ 心腎イベント↓:オフポンプ>オンポンプ
PRAGUE-6 
Off-Pump versus On-Pump Coronary Artery Bypass Graft Surgery in Patients with EuroSCORE≧6
EuroSCORE≧6の手術高リスク患者において,オフポンプCABGはオンポンプCABGにくらべて30日後の死亡,急性心筋梗塞,脳卒中,腎不全の複合エンドポイントを抑制。
デザイン ランダム化,単施設,intention-to-treat解析。
一次エンドポイント 術後30日後までの死亡,急性心筋梗塞(AMI),脳卒中,透析を要する腎不全新規発症の複合エンドポイント。
対 象  206例。EuroSCORE≧6の手術高リスク患者(急性冠症候群を含む)。
■背景:年齢(オンポンプCABG群73.6歳,オフポンプCABG群74.7歳),女性(42.6%,40.8%),additive EuroSCORE(7.66,7.69),logistic EuroSCORE(9.8,10.7),EF<30%(11.1%,11.2%),心筋梗塞既往(67.6%,59.2%)。
期 間 追跡期間は30日間。
治 療  オンポンプ群(108例) vs オフポンプ群(98例)。
結 果 手技背景:1例あたりの末梢側吻合数(オンポンプ群2.66,オフポンプ群2.04;P<0.001),手技変更(0%,8.5%;P=0.002),末梢側吻合部位(左前下行枝:42.9%,58.3%,回旋枝:30.9%,22.4%,右冠動脈:26.2%,19.3%;P<0.001),オンポンプ群の心肺バイパス使用時間52.5分,オンポンプ群のクロスクランプ時間30.3分。

[一次エンドポイント]
オンポンプ群20.6% vs オフポンプ群9.2%(P=0.028):相対リスク0.41;95%信頼区間0.19-0.91。

[その他]
複合エンドポイントの各項目のうち,AMIはオンポンプ群にくらべてオフポンプ群で有意に少なかったが(12.1%,4.1%;P=0.048),その他については有意な群間差はなかった。

presenter:Jan Hlavicka ( Charles University, Czech Republic )
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