循環器トライアルデータベース

CORONARY
CABG Off or On Pump Revascularization Study

目的 冠動脈バイパス術(CABG)施行予定例において,オフポンプ(心肺バイパスと心停止をしない,beating-heart technique)術と従来のオンポンプ術のベネフィット/リスクを比較する。

一次エンドポイントは次の2つの複合エンドポイント。
1) 短期予後:30日後の死亡+非致死的脳卒中+非致死的心筋梗塞(MI)+透析が必要な腎不全新規発症。
2) 長期予後:平均5年後の1)の複合エンドポイント+再血行再建術。
コメント N Engl J Med. 2012; 366: 1489-97. へのコメント
過去最大規模のPROBE法によるオフポンプ・オンポンプ CABGの多施設共同研究である。発生頻度の少ないハードエンドポイントを語るに足る症例数を備えており,さらに従来の比較試験で limitationと指摘されることの多かった術者のクオリティーを確保している点が評価される。ここまで混沌としてきた論争の決着が期待される試験である。
今回は30日以内の短期成績のみの報告で,「一次エンドポイントにおいてオフポンプCABGがオンポンプ CABGを凌駕する」という彼らの仮説は実証されなかった。また,手術時間・輸血量・再手術・呼吸器/腎合併症など“手術の質”においてはオフポンプが優り,グラフト数や入院中の再血行再建率,すなわち“血行再建の質”はオンポンプが優るという結果もこれまでの試験結果を踏襲するものであった。しかし問題は長期予後である。これまではややオンポンプ有利の印象であるが,「死亡率;2.5%」が示す通り今回の対象はハイリスク症例が多い。オフポンプ CABGの恩恵を受け易いとされるこの症例群を背景に,“手術の質”が問われるのか“血行再建の質”が意味を持つのか,またどちらかが有利となる特定のサブグループがあるのか…5年後のお楽しみである。(中野中村永井
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoints),多施設(19か国79施設),intention-to-treat解析。
期間 平均追跡期間は4.8年。
登録期間は2006年11月~2011年10月。
対象患者 4,752例。オフポンプ・オンポンプCABG施行予定例。
胸骨正中切開法による単独CABGが必要で,次の危険因子を1つ以上有するもの:70歳以上;末梢血管疾患(PAD),脳血管疾患,あるいは70%以上の頸動脈狭窄;腎機能低下。
さらに,次の危険因子を1つ以上有している場合は60~69歳でも可とした:糖尿病(経口血糖降下薬,インスリン,あるいは両者が必要なもの);緊急血行再建術(急性冠症候群発症後);EF≦35%;ランダム化前1年以内の喫煙経験。
1,700例を登録後,60~69歳の登録を可とした危険因子を2つ以上有していれば55~59歳も登録を可とするプロトコールに変更した。
除外基準:弁置換術予定例;オフポンプあるいはオンポンプCABGが不可と判断された症例;緊急・再CABG施行例など。
術者:2年以上の経験を持ち,いずれかの手技を100例以上完遂した外科医が施行
■患者背景:平均年齢(オフポンプCABG群67.6歳,オンポンプCABG群67.5歳),男性(80.0%, 81.7%),BMI(両群とも26.7kg/m²),PAD(8.0%, 8.2%),糖尿病(46.5%, 47.5%),透析を要する腎不全(1.7%, 1.1%),うっ血性心不全(5.9%, 6.6%),高血圧(76.2%, 75.5%),慢性心房細動(2.6%, 2.9%),EF:≧50%(70.5%, 70.9%);35~49%(24.0%, 23.3%);~35%(5.4%, 5.6%)。
既往:MI(33.8%, 35.2%);PCI(10.0%, 9.5%);脳卒中(6.7%, 7.8%)。
EuroScore:0~2(28.6%, 27.8%);3~5(51.7%, 54.1%);>5(18.1%, 16.8%),緊急手術(39.5%, 38.1%),術前抗血小板薬投与(76.5%, 75.8%)。
罹患血管:左主幹部(22.1%, 20.9%);3枝(56.1%, 60.4%);2枝(18.7%, 16.4%)。
治療法 オフポンプ群(2,375例),オンポンプ群(2,377例)。
CABGは標準的術式である胸骨正中切開法で実施し,通常通りのデバイス(スタビライザー,ポンプ)を使用。
追跡は30日後・1年後・5年後は通院,6か月・2年・3年・4年後は電話で実施する。
結果 1) 30日後の結果
[周術期]
34例(0.7%)がCABGを施行しなかった。うち6例は死亡。
クロスオーバー:オフポンプCABG群→オンポンプCABG群;184/2,332例(7.9%),オンポンプCABG群→オフポンプCABG群;150/2,333例(6.4%), p=0.06。
使用グラフト数はオフポンプCABG群のほうが少なく(3.0 vs 3.2, p<0.001),術中評価による不完全血行再建が多かった(11.8% vs 10.0%, p=0.05)。また同群では手技時間(4.0時間 vs 4.2時間,p<0.001),人工呼吸装置使用時間(9.6時間 vs 11.2時間,p<0.001)が短かった。
さらに同群では,抗線溶剤の使用が少なかった(26.1% vs 37.0%:相対リスク0.71;95%信頼区間0.64~0.77, p<0.001)にもかかわらず,輸血率が有意に低かった(50.7% vs 63.3%:0.80;0.75~0.85, p<0.001)。
周術期の出血に対する再手術は34例(1.4%) vs 56例(2.4%):0.61;0.40~0.93(p=0.02)。
[30日後の一次エンドポイント:死亡+非致死的脳卒中+非致死的MI+透析が必要な腎不全新規発症の複合エンドポイント]
オフポンプ群233例(9.8%) vs オンポンプ群245例(10.3%):ハザード比0.95;0.79~1.14(p=0.59)。
複合エンドポイントの各構成エンドポイントにも有意な両群間差はみられなかった(死亡:両群とも2.5%,MI:6.7% vs 7.2%,脳卒中:1.0% vs 1.1%,新規透析を要する腎不全:1.2% vs 1.1%)。
転帰と有意な相互作用が認められたサブグループはなかった。
[その他の結果]
再血行再建術(PCI,CABG):16例(0.7%) vs 4例(0.2%):4.01;1.34~12.0(p=0.01)。
早期手術に両群間差はなかった。
感染や呼吸不全などの合併症(5.9% vs 7.5%),急性腎機能障害(Acute Kidney Injury Network: AKIN基準≧stage 1:28.0% vs 32.1%;p=0.01, Risk, Injury, Failure, Loss, and End-Stage Kidney Disease:RIFLEリスク:17.0% vs 19.5%;p=0.02)はオフポンプCABG群で少なかった。
★結論★30日後の死亡・心筋梗塞・脳卒中・透析を要する腎不全において,オフポンプCABGとオンポンプCABGは同等である。

2) 5年後の結果
[一次エンドポイント]
平均追跡期間4.8年後の複合エンドポイント+再血行再建術は両群同等であった(オフポンプ群548例[23.1%] vs オンポンプ群560例[23.6%],ハザード比0.98;95%信頼区間0.87~1.10, p=0.72)。
複合エンドポイントの各イベントにも有意差はみられなかった(死亡:14.6% vs 13.5%, 1.08;0.93~1.26,心筋梗塞[MI]:7.5% vs 8.2%, 0.92;0.75~1.13,脳卒中:2.3% vs 2.8%, 0.83;0.58~1.19,透析が必要な腎不全新規発症:1.7% vs 1.9%, 0.89;0.58~1.37,再血行再建術:2.8% vs 2.3%:1.21;0.85~1.73)。
[二次エンドポイント]
患者あたりのコストにも有意な群間差はみられなかった(15,107 vs 14,992ドル)。試験期間中のどの時点でも(初回入院,退院~1年後,1年後~終了),いずれの種類のコスト(手技費,ICU・一般病棟入院費,薬剤費など)にも差はなかった。
[その他]
健康関連QOL(2,845例)は,EQ-5D (European Quality of Life-5 Dimensions)スコア,EQ-5D視覚的アナログ尺度スコアが退院時にやや低下したが,30日後には急増し,試験終了時まで持続した。いずれの時点でも両群間に有意差はなかった。
主に虚血症状・MI疑いによる冠動脈造影再施行(5.3% vs 4.8%),狭心症再発(1.7% vs 1.6%),心血管死(術後30日間の全死亡;10.0% vs 9.7%)にも差はなかった。
1年後から4.8年後までのランドマーク解析でも,複合エンドポイント(11.3% vs 11.5%),再血行再建術(両群とも1.5%)は両群同等であった。
サブグループ解析では,糖尿病合併患者でオフポンプ群の複合エンドポイントに対する有効性が示されたが(22.7% vs 26.1%, 0.85;0.72~1.01),非糖尿病患者では示されなかった(23.4% vs 21.3%, 1.12;0.95~1.32;交互作用p=0.02)。
★結論★5年後の死亡・MI・脳卒中・透析を要する腎不全・再血行再建術においても,オフポンプCBAGとオンポンプCABGは同等であった。
ClinicalTrials gov No: NCT00463294
文献
  • [main]
  • 1) Lamy A et al for the CORONARY investigators: off-pump or on-pump coronary-artery bypass grafting at 30 days. N Engl J Med. 2012; 366: 1489-97. PubMed
    Grover FL: Current status of off-pump coronary-artery bypass. N Engl J Med. 2012; 366: 1541-3. PubMed
  • 2) Lamy A et al for the CORONARY investigators: Five-year outcomes after off-pump or on-pump coronary artery bypass grafting. N Engl J Med. 2016; 375: 2359-68. Epub 2016 Oct 23. PubMed
  • [substudy]
  • CABG後の腎機能-オフポンプCABG群はオンポンプ群よりも急性腎障害リスクが低かったが,1年後の腎機能保持はみられず。
    CABG後30日以内の急性腎障害リスクにおけるオフポンプ群とオンポンプ群の差を検証し,さらにそのリスクが長期腎機能に及ぼす影響を検討した結果(腎機能サブスタディ):2,932例(16か国63施設・登録期間2010年~’11年。最終症例の1年後の血清クレアチニン測定は2013年1月18日)。
    急性腎障害(血清クレアチニン値≧50%上昇)リスクは,オフポンプ群が有意に低かった(257/1,472例[17.5%]vs オンポンプ群304/1,460例[20.8%];p=0.01)が,1年後の腎機能低下(eGFR≧20%低下;17.1% vs 15.3%)における有意な両群間差はなかった:JAMA 2014; 311: 2191-8. PubMed
  • 1年後の心腎転帰,再血行再建術,QOL,認知機能にオンポンプとオフポンプとに差はなかった。
    1年後の死亡+非致死的脳卒中+非致死的MI+透析が必要な腎不全新規発症の複合エンドポイントは,オフポンプ群288例(12.1%) vs オンポンプ群316例(13.3%):ハザード比0.91;95%信頼区間0.77~1.07(p=0.24)。複合エンドポイントそれぞれにも群間差はみられず,31日後~1年後も有意な群間差はみられなかった(0.79;0.55~1.13, p=0.19)。
    再血行再建術は33例(1.4%) vs 20例(0.8%):1.66;0.95~2.89(p=0.07),うちPCI:27例 vs 19例,CABG:7例 vs 1例。
    1年後のQOL(EQ-5Dによる評価で退院時に両群ともわずかに低下するも,30日後,1年後大きく上昇。どの時点でもQOLスコアに有意な群間差なし),神経認知機能(Digit Symbol Substitution Testの結果,退院時にオフポンプ群のほうが認知機能低下が小さかったが[p=0.04],30日後,1年後には有意差なし)にもオフポンプとオンポンプとに差はみられなかった:N Engl J Med. 2013; 368: 1179-1188. Epub 2013 Mar 11. PubMed

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収載年月2012.03
更新年月2016.11