第31回欧州心臓病学会 スペイン/バルセロナ 8/29?9/2 ESC2009
ACTIVE I
Atrial Fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for Prevention of Vascular Events
収縮期血圧≧110mmHgの心房細動患者において,irbesartanはプラセボに比べ心血管イベント発症を抑制しない
presenter: S Yusuf ( Hamilton, CA )

目 的

ACTIVE試験は心房細動患者におけるclopidogrel+aspirinの脳卒中,その他の血管イベント抑制効果を検討するもので,ACTIVE Iの他に,ACTIVE W(抗凝固療法[warfarin]は抗血小板療法[clopidogrel+aspirin]より心血管イベント抑制効果が大:2006年発表),ACTIVE A(warfarin投与が適しない患者では,aspirin+clopidogrelは主要血管イベント,特に脳卒中を抑制できるが,重大な出血リスクが増大:2009年発表)から成る。
収縮期血圧>110mmHgの心房細動(AF)患者において,irbesartanの心血管イベント抑制効果を比較する(irbesartan vs プラセボ)。
一次エンドポイントは,初発の脳卒中+心筋梗塞+心血管死および,初発の脳卒中+心筋梗塞+心血管死+心不全による入院。

コメント

正常血圧の心房細動患者に対してARB irbesartanが脳心血管合併症を予防できるか否かを検討したトライアルであるが,結果においてプラセボとの間に有意差を認めなかった。二次エンドポイントにおいて,心不全による入院でirbesartan群の有用性が認められているが,これはわずかではあるがirbesartan群のほうで血圧が下降していることで説明が可能である。脳卒中/一過性脳虚血発作/非神経系塞栓症の予防において,ARBが有意に優れているという結果であるが,この無理な組み合わせのエンドポイントは事前には設定されておらずあくまでも後付解析の結果である。
正常血圧といえども,降圧薬の種類によらず血圧を下げることが心房細動患者では心不全予防につながることを示唆しているといえよう(桑島)。
ARBにはプラークの安定化作用があるということで抑制効果が期待された心筋梗塞を加えた複合一次エンドポイントに対しては,残念ながら有効性は認められなかったが,コストがかかる心不全による入院,および再入院が抑制されたことは医療経済効果の点で意義が大きい。高齢化時代を迎え,高齢,高血圧,心疾患(弁膜症,心筋症)例に多く発症する心房細動(AF)が問題になっているが,AFをみたら脳卒中を疑えといわれるくらい脳卒中のリスクが高く,また心不全の頻度が非常に高い。
ACTIVEプログラムはAFにおける治療を検討した次の3試験からなり,ACTIVE A,ACTIVE Wが脳卒中予防,そして今回,ACTIVE Iが心不全予防の治療戦略を示した。対象の平均年齢が約70歳,2年後に試験薬以外の降圧薬の投与率が9割近かったことから,AFを合併した高齢の高血圧患者では,心不全の発症,心不全の入院予防を念頭においたARB治療が妥当な治療法だと思われる(堀)。
心血管疾患の危険因子を持つ心房細動例を対象に,ARBのirbesartanの効果をプラセボと比較したACTIVE Iの結果は,ある意味,予測されたことである。脳卒中,心筋梗塞,心血管死の複合の初発という一次エンドポイントは治療群間の差はなく,これに心不全による入院(初発)を加えるというもう一つの一次エンドポイントにも有意差はなかった。しかし,脳卒中,心筋梗塞,心血管死の複合の再発に,心不全による入院(再発)を加えると,irbesartan群はプラセボ群より発生率が有意に低かった。この結果(心不全抑制効果)は,これまでの臨床研究の結果から当然予想されたことである。問題は,対象の約60%にACE阻害薬が投与されていたことで,もしこの投与がなければ,もう少し両治療群の間に差がついたのではないかと思われる。一方,脳卒中・一過性脳虚血発作・全身性塞栓症の発生頻度がirbesartan群で有意に少なかったことは,注目に値する。この有効性に,血圧低下以外のARBの作用がどの程度関与しているかは明らかではない。心房細動自身に対する効果についてのサブ解析がなされることを期待したい(井上)。
 

デザイン

無作為割付け,二重盲検,プラセボ対照,多施設(33ヵ国,639施設)

期 間

追跡期間は平均3年。

対象患者

9,016例。ACTIVEプログラムに登録したAF患者(次のリスク因子のうち1つ以上をもつ患者: ≧75歳,高血圧,脳卒中/一過性脳虚血発作の既往,左室駆出率<45%,末梢動脈障害,55-74歳の場合は冠動脈疾患または糖尿病を合併)のうち,収縮期血圧≧110mmHgでARBを服用していないもの。
■患者背景:
平均年齢(irbesartan群69.5歳,プラセボ群69.6歳),女性(39.2%,39.3%),永続性AF(66.0%,64.4%),発作性AF(19.6%,20.5%),持続性AF(14.3%,14.9%),洞調律(18.7%,19.6%),心不全(32.3%,31.6%),CHADSリスクスコア(1.99,1.97),血圧(138.3/82.6mmHg,138.2/82.2mmHg),心拍数(75.3bpm,74.9bpm)。服薬状況: ACE阻害薬(60.2%,60.6%),β遮断薬(54.4%,54.6%),利尿薬(54.3%,54.1%),Ca拮抗薬(27.0%,27.2%),α遮断薬/血管拡張薬(11.9%,11.1%),aspirin(58.7%,59.3%),ビタミンK拮抗薬(38.1%,37.6%),抗不整脈薬(22.7%,23.1%),digoxin(35.1%,34.7%)。

治療法

irbesartan群(4,518例): irbesartan 150mg/日を2週間投与し,有害事象がみられなければ300mg/日に増量。プラセボ群(4,498例)。

結 果

preliminary results
[降圧]
降圧度はirbesartan群で?6.84/?4.51mmHg,プラセボ群で?3.93/?2.63mmHgであり,両群の差は?2.91/?1.88mmHg。追跡2年後に併用した降圧薬数(併用なし/1-2剤/3剤以上)は,irbesartan群で10.7/55.3/34.1%(平均2.00剤),プラセボ群で7.7/53.2/39.1%(平均2.15剤)。

[心血管イベント]
一次エンドポイント: irbesartan群とプラセボ群に有意差なし(963例[5.4%/年]vs 963例[5.4%/年],ハザード比[HR]0.99,95%信頼区間[CI]0.91-1.08,P=0.846)。心不全による入院を加えた一次エンドポイント発生率にも有意な群間差はなかった(1,236例[7.3%/年]vs 1,291例[7.7%/年],HR 0.94,95%CI 0.87-1.02,P=0.122)。

その他のエンドポイント: 脳卒中+心筋梗塞+心血管死の再発には有意差はなかったが(1,100例[24.3%/年]vs 1,122例[24.9%/年],HR 0.97,95%CI 0.89-1.07,P=0.579),心不全による入院を加えた場合の再発はirbesartan群のほうがプラセボ群より有意に少なかった(1,791例[39.6%/年]vs 1,992例[44.3%/年],HR 0.89,95%CI 0.82-0.98,P=0.016)。脳卒中+一過性脳虚血発作+末梢塞栓症の発症率は,irbesartan群のほうがプラセボ群より有意に低かった(518例[2.9%/年]vs 585例[3.4%/年],HR 0.87,95%CI 0.78-0.98,P=0.024)。心不全による入院は,irbesartan群のほうがプラセボ群より有意に少なかった(HR=0.86,95%CI 0.76-0.98,P=0.018)。また,心血管系の問題による入院日数は,irbesartan群のほうがプラセボ群より有意に少なかった(36,440日 vs 39,971日,P=0.0000)。
 ←「ESC2009」topへ
「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収録年月2009.09