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欧州心臓病学会学術集会(ESC 2017)2017年8月26〜30日,バルセロナ
特殊な状況下における経口抗凝固療法
2017.10.4 ESC 2017取材班

2017年8月28日,「The use of oral anticoagulants in special situations」と題したシンポジウムが開催され,腎障害合併例,電気的除細動/アブレーション施行例,低体重・肥満例に対する経口抗凝固療法について,Andreotti氏,Verheugt氏,Collet氏による講演が行われた。ここではその内容を紹介する。

Felicita Andreotti氏
Felicita Andreotti氏
腎障害患者に対するDOAC-なぜ,どのように,いつ使用し,いつ使用すべきでないか
Felicita Andreotti氏(Catholic University,イタリア)

●NVAF患者におけるCKDの合併とそのリスク

心房細動と慢性腎臓病(CKD)は互いによくみられる合併症として認知され,心房細動患者の約1/3がCKDを合併しているといわれている1)。また,CKD患者では約1/6が心房細動を合併しており,中等度のCKD患者では非CKD患者にくらべ,心房細動発症リスクが3倍に上昇するとの報告もある2)

非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の第III相臨床試験(RE-LY3)ROCKET AF4)ARISTOTLE5)ENGAGE AF-TIMI 486))のメタ解析7)では,DOACがワルファリンにくらべ大出血リスクを上昇させることなく,脳卒中あるいは全身性塞栓症発症リスクを低下させることが示された。一方,CKD合併NVAF患者に限定し,DOACの有効性および安全性についてワルファリンまたはアスピリンと比較検討したランダム化比較試験(RCT)はないが,上述の4試験には中等度腎障害患者(クレアチニンクリアランス[CrCl]30~49mL/分,ARISTOTLEでは同25~49mL/分)が15~30%含まれている。

これらの第III相臨床試験に関し,CrCl≦50mL/分例と同>50mL/分例に分けて比較すると,脳卒中または全身性塞栓症,大出血ともにCrCl≦50mL/分例で発症率が上昇していた。すなわち,心房細動と腎障害の両者を合併している患者では,血栓塞栓症のリスクと出血リスクの両方が高まる。

DOACのなかでも腎排泄率は薬剤間で大きく異なり,アピキサバンが26%,リバーロキサバン35%,エドキサバン50%,ダビガトランが80%ともっとも高い。腎障害患者への投与に際しては,こうした各薬剤の特性を理解する必要がある。

●腎機能にもとづくNVAF用量の調節
1. ダビガトラン

ダビガトランの腎排泄率は約80%と高い。第III相臨床試験RE-LYの対象患者のうち,3,505例(20%)がベースライン時にCrCl 50mL/分未満であった。サブグループ解析では,脳卒中または全身性塞栓症に対するダビガトランの相対的有効性に関して,CrCl低下の有無による有意な差異はみられなかった。大出血または生命を脅かす出血に関しては,CrCl 50mL/分以上例ではダビガトラン110mg 1日2回がワルファリンに対して優位な結果を示したが,同30~49mL/分例では優位性は失われた。

欧州では,CrCl 30mL/分未満の患者に対するダビガトランの投与は推奨されていない。一方,米国では,ダビガトラン110mg 1日2回の用法・用量が承認されておらず,75mg 1日2回がCrCl 15~30mL/分の患者や,同30~50mL/分でもP糖蛋白を阻害するドロネダロンあるいはケトコナゾール(全身投与)を併用する患者については「考慮してもよい」としている。

2. リバーロキサバン

リバーロキサバンの腎排泄率は約35%である。第III相臨床試験ROCKET AFの対象患者のうち,2,950例(21%)がベースライン時に中等度腎障害(CrCl 30~50mL/分)を有していた。リバーロキサバンは腎障害患者に特化した用量が設定され,これらの患者に対しては,全例リバーロキサバンの用量は20mg 1日1回から15mg 1日1回に減量された。その結果,全体の結果と一貫した結果を認め,これらの患者に対する減量用量の妥当性が示された。

さらに,腎機能正常患者(CrCl>80mL/分あるいはCrCl>90mL/分)においても,リバーロキサバンの有効性と安全性は全体の結果と一致しており,一貫した有用性が示されている。また,腎機能が経時的に悪化した患者では,リバーロキサバンとワルファリンで出血発症率は同程度であったにもかかわらず,有効性において,リバーロキサバンがワルファリンにくらべ優れることも明らかになっている8)

CrCl 30~49mL/分の患者に対しては,リバーロキサバン15mg 1日1回に減量し,同15mL/分未満に対しての使用は避けるよう推奨されている。

3. アピキサバン

アピキサバンの腎排泄率は約25%である。≧80歳,体重<60kg,血清クレアチニン≧1.5mg/dLのうち2つ以上該当する場合,2.5mg 1日2回へ減量投与される。

第III相臨床試験ARISTOTLEの対象患者のうち,3,017例(15%)が中等度腎障害(CrCl 25~50mL/分)を有していた。中等度腎障害のある患者でアピキサバンの減量用量が投与されたのは733例であった。脳卒中/全身性塞栓症および大出血/死亡についてのワルファリンに対するアピキサバンの優位性は,ベースライン時の腎障害の有無,あるいは経時的な腎機能の悪化に関係なく,一貫して認められた。特に,ベースライン時にCrCl 50mL/分未満であった症例では,同50mL/分以上例と比較してアピキサバンによる大出血の減少度が大きかった。

なお,欧州ではCrCl 15mL/分未満あるいは維持透析患者に対するアピキサバンの使用は推奨されていない。一方,米国(FDA)の添付文書ではPK/PDデータにもとづき,これらの患者に対しても通常とおりアピキサバン5mg 1日2回(80歳以上あるいは体重60kg以下の場合,2.5mg 1日2回)としているが,全体の結果と同様の有効性や安全性が期待できるかはわからないと記載されている。

4. エドキサバン

エドキサバンの腎排泄率は50%である。通常用量は60mgだが,CrCl 15~49mL/分,体重60kg以下,あるいはP糖蛋白阻害薬との併用(シクロスポリン,ドロネダロン,エリスロマイシン,ケトコナゾールなど)がある場合には30mgに減量する。

第III相臨床試験ENGAGE AF-TIMI 48の対象患者のうち,3,858例(18%)がベースライン時にCrCl 50mL/分未満であった。同試験において,CrCl高値例ではエドキサバンの相対的有効性が低下する傾向がみられており,欧州ではCrCl高値例に対しては,血栓リスク,出血リスクを注意深く評価した場合に限定するべきとしている。

FDA主導で行われたサブグループ解析では,CrCl 80mL/分以上のグループにおいてエドキサバン60mg 1日1回はワルファリンにくらべ,脳梗塞の発症率が有意に高いことが示された(HR1.58,95%CI 1.02-2.45)。その一方で, CrCl 51~79mL/分では,エドキサバン60mg 1日1回により脳卒中/全身性塞栓症および大出血の発症を有意に低下させた。その結果,FDAはCrCl 95mL/分の症例に対しては,エドキサバンは使用しないとし,51~95mL/分の症例に対してはエドキサバン60mg 1日1回,CrCl 15~50mL/分の症例に対しては同30mg 1日1回とする制限付き承認としている。

なお,CrCl 15mL/分未満,あるいは維持透析患者に対しては,エドキサバンの使用は推奨されていない。

●まとめ

NVAF患者において,DOACは腎機能にかかわらず,総じてワルファリンあるいはアスピリンにくらべて良好な結果が示されている。しかし,DOACの腎排泄率には各薬剤間で違いがあり,欧州ではCrCl 30mL/分未満に対するダビガトランの使用,あるいは同 15mL/分未満に対する第Xa因子阻害薬の使用は禁忌である。

また,治療中には定期的な腎機能の評価が不可欠であるが,その頻度については,CrCl値にもとづいた決定方法(検査頻度[月]=CrCl値÷10)が有用である9)

本発表のおもな内容は現在制作中のESCテキストブックに掲載される予定である。

Freek Verheugt氏
Freek Verheugt氏
電気的除細動またはアブレーションを施行する患者に対するDOAC
Freek Verheugt(Onze Lieve Vrouwe Gasthuis,オランダ)

●はじめに

心房細動患者に対して,電気的除細動または高周波カテーテルアブレーション(以下,アブレーション)はともに一般的に行われる治療だが,周術期には血栓塞栓症のリスクが増加することから,抗凝固療法が必須となる。一方で,特にアブレーション施行時には手技による出血リスクを伴うことから,管理に注意を要する状況といえる。ここでは,この二つの特殊な状況下におけるDOACの有効性と安全性について,現在までに得られた知見をレビューする。

●電気的除細動施行例に対するDOACの有効性と安全性

電気的除細動を施行するNVAF患者を対象に,DOACの有効性と安全性を検証したRCTには,X-VeRT10),ENSURE-AF11),EMANATE12)の3試験がある。

1. リバーロキサバン

2014年に報告されたX-VeRTは,除細動施行時におけるDOACの有用性を検討したはじめての前向き研究である。対象患者は,まず抗凝固療法の実施状況および経食道心エコー(TEE)ガイドの有無により,除細動実施時期(早期または遅延)が選択され,それぞれの戦略のなかでリバーロキサバン群あるいはビタミンK拮抗薬(VKA)群に2:1の割合で無作為に割付けられた。早期除細動治療では,施行前に試験薬が1~5日間投与され,施行後は6週間継続投与。遅延除細動治療では,施行前に試験薬が少なくとも3週間以上(最大8週間)投与され,施行後は6週間継続投与された。

早期除細動治療においては,試験薬間で除細動までに要した日数(中央値)は1日で,両群間に差はみられなかった。しかし遅延除細動治療では,リバーロキサバン群の除細動までの日数(中央値)が22日であったのに対して,VKA群は30日と有意に長い日数を要した(p<0.001)。

また,予定通りに除細動が施行された患者の割合についても,リバーロキサバン群で77%,VKA群で36.3%となり,リバーロキサバン群で有意に高率であった。VKA投与例では,電気的除細動施行前にINRを測定し,INRが至適範囲内に収まった症例のみ施行に至ることから,VKA投与例では,除細動施行前に時間を要する症例が生じてしまう。当然,除細動までの期間が短いほど心房細動の再発率は低くなるため,この点についてリバーロキサバンに利があるといえる。

実際,有効性主要評価項目(脳卒中,一過性脳虚血発作[TIA],全身塞栓症,心筋梗塞,心血管死の複合)の発症率は,リバーロキサバン群0.51%(5例),VKA群1.02%(5例)でリバーロキサバン群で数値的に低く,安全性主要評価項目である大出血は同程度であった。

2. エドキサバン

2016年にはエドキサバンを用いたENSURE-AFが報告された。同試験でも,早期除細動治療(TEEガイド下)と遅延除細動治療(TEE非ガイド下)のそれぞれの戦略のなかで,対象患者はエドキサバン群あるいはワルファリン群に無作為に割付けられた。電気的除細動施行前にINRが治療域に達していない場合には,エノキサパリンおよびワルファリンが投与された。いずれの戦略においても,電気的除細動施行後28日まで試験薬は継続された。その結果,早期除細動治療,遅延除細動治療のいずれも有効性主要評価項目(脳卒中,全身性塞栓イベント,心筋梗塞,心血管死の複合)や安全性主要評価項目(大出血または臨床的に重要な出血)の発現は,薬剤間で同程度であった。

結論づけるにはまだ十分なエビデンスは揃っていないが,上述の2試験はともにDOAC投与下で電気的除細動を安全に施行できることを示している。さらに本学会(ESC 2017)において,同テーマを検証したEMANATEの結果が報告され,脳卒中または全身性塞栓症の発現はアピキサバン群のほうがヘパリン/VKA群より数値的に少なく,大出血は同程度であった。

●アブレーション施行例に対するDOACの有効性と安全性

電気的除細動と比較すると,アブレーションはさらに侵襲度が高く,手技そのものによる心タンポナーデのリスクがある。さらに,抗凝固療法下では心タンポナーデリスクがさらに増大する可能性が指摘されてきた。しかし,アブレーション施行時に抗凝固療法を中止し,ヘパリンによるブリッジングを行うべきか否かを検証したCOMPARE13)では,ヘパリン置換を行った場合と比較して,ワルファリン継続下のほうが血栓塞栓症イベント,小出血が減少した。同試験は周術期にワルファリンの継続投与が有用なことを示したはじめての無作為化比較試験である。しかしながら,多くが穿刺による出血のリスクを恐れ,ワルファリンの継続を躊躇しがちである。

それでは,DOACについてはどうか。アブレーション施行例に対するDOACの有効性と安全性を検証したRCTは,これまでに2つ実施されている。その一つがリバーロキサバンとVKAを比較したVENTURE-AF14)である。対象患者は248例と比較的小規模なRCTであるが,主要評価項目である大出血の発生はリバーロキサバン群では認めず,VKA群で1例と全体に少なかった。また,血栓塞栓症イベントについても少なく,それぞれ0件,2件と同程度であった。30日後の追跡時点における薬剤中止率あるいは再入院率については,いずれもリバーロキサバン群で数値的に低かった。

もう一つ,2017年に報告されたRE-CIRCUIT15)では,アブレーション施行予定のNVAF患者635例が対象となったが,ダビガトラン150mg 1日2回投与が可能な症例での有効性と安全性についてワルファリンとの比較が行われた。アブレーション施行4~8週間前から試験薬を投与し,周術期も中止せず,施行後8週まで継続した。その結果,主要評価項目である大出血の発生はダビガトラン群が5件(1.6%),ワルファリン群が22件(6.9%)であり,ダビガトランによる大出血リスクの有意な低下が認められた。特に,心タンポナーデや鼠径部血腫などがワルファリン群で多くみられた。

●まとめ

DOAC治療下での電気的除細動の施行は妥当かつ安全であると考えるが,現時点では前向きに検討したデータはリバーロキサバンおよびエドキサバンに限られている。アピキサバン(EMANATE)については,今回,学会発表されたが,今後もDOACに関するさらなるエビデンスの蓄積が不可欠である。

アブレーションについても,DOAC治療下で安全に施行できることが示されているが,前向きにVKAと比較したRCTはリバーロキサバンとダビガトランに限られている。しかも,いずれも探索的なものであり,VKAとの非劣性が検証できるような大規模なものはない。DOACがワルファリンに対して安全かつ有効性に関して非劣性であることを真に証明するには,10,000例規模のRCTの実施が必要と思われるが,実現は難しいだろう。

Jean-Philippe Collet氏
Jean-Philippe Collet氏
肥満患者あるいは低体重患者における抗凝固療法の考え方
Jean-Philippe Collet(Institut de Cardiologie, Hôpital de la Pitié -Salpêtrière,フランス)

●はじめに

今回,ESCのワーキンググループとして,European Heart Journal誌に投稿した『Antithorombotic therapy and body mass: an expert position paper of the ESC Working Group on Thrombosis』の内容を中心に,「極端な体重」を示す患者に対する抗凝固療法について解説する。本領域に関するデータは乏しく,エビデンスの大部分は大規模RCTのサブグループ解析から得た内容である。しかしながら,臨床試験には「極端な体重」を示す患者はほとんど含まれていない。特に低体重に関しては,提示できるデータが存在しないのが実状である。

●極端な体重の定義

「極端な体重」を定義する際,BMIが使用されることが多い。BMI 18.5~24.99kg/m2を「正常」とし,それ以下を「低体重」,それ以上を段階的に「過体重(25~29.99)」,「1度肥満(30~34.99)」「2度肥満(35~39.99)」「3度肥満(≧40)」「4度肥満(≧50)」「5度肥満(≧60)」と分類する。

BMIは心血管リスクの優れたマーカーであるが,肥満度の評価としては必ずしも最適ではない。その理由の一つに,人種差がある。人種間でBMIにもとづく段階的リスクの上昇が異なることを考えると,「正常範囲」の定義に疑問が生じる。また,BMIだけでは代謝異常の有無を区別することはできないという欠点もある。

肥満度を定義するもう一つの基準に体重(kg)がある。投与量の決定においては,BMIよりも体重にもとづく調整のほうが適していると考える。

●BMIと心血管イベントの関係

BMIと死亡率の関係は,BMI 23~24kg/m2を底としたU字曲線を示す16)。一方,血栓塞栓症イベントと出血イベントについてBMIとの関係をみると,両者はまったく異なる関係性を示す。血栓塞栓症イベントはBMIの増加にともない線形性に増加するのに対し,出血イベントは死亡率と同様にU字曲線を描く。したがって,特に低体重患者では出血リスクの評価が重要になると考える。

●体重変化が薬物動態に及ぼす影響

体重変化は薬物の代謝・排泄にさまざまな影響を及ぼすことが広く研究されている。たとえば,肥満者では非肥満者にくらべて,脂肪重量あるいは蛋白量は増加し,組織灌流量は減少する。これらの変化が血中薬物濃度に影響を及ぼす。さらに,体重変化により腎,心,肝臓などの臓器機能が低下することで,薬剤の代謝,クリアランスを減少させ,副作用の原因となる。

経口抗凝固薬については,個々の薬剤で体重の変化が薬物動態に及ぼす影響が異なる。以下に各薬剤に関するデータを個別に紹介する。なお,expert position paperには,低体重および肥満例における経口抗凝固薬の用量調整法が一覧表で示されている。

1. VKA

肥満患者に対してVKAを投与した場合,目標INRに達成するまでの時間が延長し,増量が必要になるケースによく遭遇する。さらに,体重にもとづきプロトロンビン複合製剤(PCC)を使用した場合,BMI>30kg/m2では止血効果が得られにくい傾向があるため,肥満患者にVKAを投与する際は特に注意深いモニターが必要になる17, 18)。低体重患者は肥満患者と反対の傾向がみられる。

現時点では,低体重あるいは肥満のどちらも,正常体重の患者と同様の目標INRが設定されているが,これが正しいかどうかは明らかになっていない。

2. アピキサバン

健康成人において,アピキサバンの最高血中濃度(Cmax)および血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は体重およびBMIと負の相関関係にあることが明らかになっている。たとえば,正常体重にくらべて体重50kg未満ではCmaxが約30%増加し,120kg超では30%低下する。

一方ARISTOTLEでは,体重60kg以下と60kg超のサブグループでいずれもアピキサバンの安全性と有効性が示され,体重による交互作用は認められていない19)

コンセンサスステートメントでは,「体重60kg以下の患者については,腎機能低下あるいは80歳超のいずれかに該当した場合,アピキサバンの減量を考慮したほうがよい」と記されている。

3. エドキサバン

エドキサバンもアピキサバンと同様,Cmaxは体重と負の相関を示す。正常体重にくらべて60kg未満ではCmaxが約40%増すため, Hokusai-VTE20)あるいはENGAGE AF-TIMI 48において,体重60kg以下に対して50%の減量がなされた。ENGAGE AF-TIMI 48では,半量投与でエドキサバン曝露量が約30%低下したが,通常用量と有効性は変わらずに,大出血の発生が減少した。なお,肥満~重度肥満患者に関するデータは得られていない21)

コンセンサスステートメントでは,「体重60kg以下の患者に対しては,エドキサバンの減量を考慮すべき」と記されている。

4. リバーロキサバン

リバーロキサバンについては,体重にともなう有意な薬物動態の変化は認められていない22)EINSTEIN-DVT23)EINSTEIN-PE24)EINSTEIN-CHOICE25) ,ROCKET AFのいずれの試験においても,リバーロキサバンの有効性と安全性に対し,体重の影響は認められなかった。

コンセンサスステートメントでは,「低体重患者においてもリバーロキサバンを減量する必要はない」と記されている。

5. ダビガトラン

ダビガトランの血中濃度もまた体重の影響をうける。体重50~100kgにくらべて50kg未満では血中濃度が約20%増加し,100kg超では20%低下する。しかしRE-LYにおいて,肥満(全体の12%)あるいは低体重(全体の2%)の症例を対象にしたサブグループ解析では,薬剤の相対的有効性および安全性に体重の影響は認められなかった26, 27)

コンセンサスステートメントでは,「腎機能低下のない50kg未満の患者に対しては,ダビガトランの減量はせずに,注意深いモニターを行う。腎機能低下をともなう50kg未満の患者に対しては,ダビガトランの減量を考慮したほうがよい」と記されている。

●まとめ

低体重患者では,特に出血リスク,重度肥満患者では,体内での薬物濃度の低下に注意を払う必要がある。しかし,臨床試験では低体重や重度肥満患者などは除外されており,DOACのエビデンスはない。現時点では,極端な体重を示す患者に対しては,Xa活性,エカリン凝固時間(ECT),希釈トロンビン時間など簡易な検査を用いて薬物の効果をチェックすることもよいだろう。検査結果が予想と大きく異なった場合には,VKAへの切り替えもオプションの一つと考える。

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