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第37回日本脳卒中学会総会(STROKE 2012) 2012年4月26〜28日,福岡
新規抗凝固薬の特徴
2012.6.18
是恒之宏氏
是恒之宏氏(国立病院機構大阪医療センター)

近年,新規抗凝固薬,新規抗血小板薬の開発が進み,注目を集めている。ここでは,第37回日本脳卒中学会総会(2012年4月26〜28日)にて4月27に開催されたシンポジウム「新規抗血栓薬への期待」から,是恒之宏氏(国立病院機構大阪医療センター)の講演「新規抗凝固薬の特徴」の内容を紹介する。

●心房細動患者における脳卒中予防の現状
日本循環器学会による疫学調査では,わが国の心房細動患者数は人口の高齢化に伴い,今後ますます増加することが予測されている1)。2030年には,心房細動患者は100万人を超えることが予測されているが,これは各都道府県における検診データを基に実施された調査であり,発作性や無症候の心房細動を含めるとさらに多くなると考えられる。

心房細動において最も大きな問題は,脳卒中の主たる原因となることである。心房細動患者における脳卒中発症リスクは,心房細動のない人の約5倍高いとされ2),その発症をいかに予防するかが重要な課題である。

心房細動治療(薬物)ガイドライン2008年改訂版3)では,僧帽弁狭窄症もしくは機械弁に対しては無条件に,非弁膜症性心房細動に対してはリスク保有状況によりワルファリンの使用が推奨されている。これまで,ワルファリンは心房細動における抗凝固療法における唯一の存在であったが,高リスクの心房細動患者に対する実際のワルファリン使用率は6割に満たないことが報告されている4)。この背景には,ワルファリンは治療域が狭く,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)による頻回のモニタリングにより用量調節が必要なこと,食事や併用薬剤の影響を受けやすく,患者により投与量が大幅に異なるといった問題点があることから,やや使用しづらい薬剤であったことが起因している。

●新規抗凝固薬の特徴
こうしたワルファリンの問題点を解決する新規抗凝固薬として,現在,トロンビン阻害剤(ダビガトラン)および第Xa因子阻害剤(リバーロキサバンなど)が期待されている。いずれも非弁膜症性心房細動のみの適応となる。非弁膜症性心房細動とは,「リウマチ性僧帽弁疾患,人工弁および僧帽弁修復術の既往を有さない心房細動」であり,リウマチ性でない僧帽弁閉鎖不全などは非弁膜症性心房細動に含まれる。

新規抗凝固薬は,投与回数のほか,薬理学的な特徴などいくつかの点で異なるが,使用にあたっては,とくに腎排泄率に注意が必要である。ダビガトランはその排泄の80%5)が腎排泄に依存していることから,腎機能低下例では血漿中濃度の上昇がみられる。そのため,クレアチニンクリアランス(ClCr)30mL/分未満の腎機能低下例は禁忌となる。一方,リバーロキサバンの腎排泄率は36%とそれより低く6, 7),腎機能の低下による血漿中濃度の変動は比較的小さいと考えられるが,それでも腎機能低下例には慎重な投与が必要となる(ClCr 15〜49mL/分では慎重投与)。必ずClCrにより腎機能の程度を評価すること,特に,出血リスクの高い高齢者などでは,投与の適否を慎重に判断することが重要である。

●新規抗凝固薬の臨床試験
新規抗凝固薬の第III相試験は,いずれも心房細動患者における脳卒中/全身性塞栓症予防について,ワルファリンに対する非劣性を検証することを目的として行われた。ダビガトランの第III相試験はRE-LY8),apixabanはARISTOTLE9),リバーロキサバンはROCKET AF10)である。

ダビガトラン(110mg 1日2回または150mg 1日2回),apixaban(通常5mg 1日2回,腎機能低下例などでは減量)はいずれも日本人300例ほどを含む国際共同試験が実施され,日本人も海外諸国と同じ投与量が用いられた。一方,リバーロキサバンについては,国際共同試験とは独立して,日本人1,280例を対象としたわが国独自の試験J-ROCKET AFが行われた。本領域では,国内最大規模の試験で,投与量も日本人向けに設定された用量が用いられた点が他剤とは大きく異なる点である(ROCKET AF:通常20mg 1日1回,J-ROCKET AF:通常15mg 1日1回,いずれも腎機能低下例では減量)。

これらの試験は,類似したプロトコールで実施されてはいるが,組み入れられた患者の血栓塞栓症のリスクや出血リスクが異なり,また評価項目の定義なども同一でない。そのため直接比較はできないが,共通していえることは,有効性主要評価項目である脳卒中および全身性塞栓症について,3剤はいずれもワルファリンに対し非劣性を示したこと,いずれも頭蓋内出血の発現がワルファリンに比べ低率であったという点である。

●新規抗凝固薬の使い方
では,新規抗凝固薬は実際にどのように処方されているのか。ダビガトランは2011年3月より使用が可能になってから約1年が経過し,リバーロキサバンは2012年4月より使用が可能になった。是恒氏は,それぞれの特徴を踏まえ,処方時の注意点などについて,次のとおり考察した。

ダビガトランでは,ClCr≧30mL/分の患者が適応となるが,脱水などによってClCrが容易に変動することも考慮して≧40mLの患者を考慮,消化管出血既往がなく,服薬コンプライアンスが良好な患者を選択する。注意事項としては,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を確認し,正常上限の2倍を超える場合はワルファリンへ切り替える,ベラパミル,アミオダロン併用時は110mg 1日2回とする。

一方,リバーロキサバンでは,ClCr≧15mL/分の患者から適応であるものの,安全性を考慮し,当面は<30mL/分の患者は避ける,まずは腎機能が正常で安全と思われる症例から投与する。 注意事項としては,肝代謝であることから,投与前には腎機能のみならず,肝機能についても確認し,肝障害Child-Pugh分類B以上には投与しない,体重50kg未満,75歳以上は出血リスクが高くなることから,リスク・ベネフィットを慎重に判断する。

ワルファリンについては,新規抗凝固薬の登場により,今まで問題と思っていた点が逆に利点と考えられるようになってきた。たとえば手間がかかる治療であるために患者とのコミュニケーションが図れる,患者にもわかりやすい効果判定手段がある(PT-INR)などの点とともに,弁膜症性心房細動,人工弁への適応がある,半世紀にわたる使用経験の蓄積があることなどをあげた。

高齢化に伴い,今後ますます増加する心房細動患者にとって,新しい抗凝固薬の登場は大きな福音となることには間違いない。しかし,臨床試験では,限られた対象での検討であることを忘れてはならず,実臨床から得られた経験を基にさらなる検証が重要となる。是恒氏は「各薬剤の特性を理解し,より多くの患者により適正な抗血栓療法を行うことが求められる」とまとめた。

  • Inoue H, et al. Prevalence of atrial fibrillation in the general population of Japan: an analysis based on periodic health examination. Int J Cardiol 2009; 137: 102-7.
  • Wolf PA, et al. Atrial fibrillation as an independent risk factor for stroke: the Framingham Study. Stroke 1991; 22: 983-8.
  • 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版).Circ J 2008; 72(suppl IV): 1581-638.
  • Ogilvie IM, et al. Underuse of oral anticoagulants in atrial fibrillation: a systematic review. Am J Med 2010; 123: 638-45.e4.
  • Ogawa S, et al. Antithrombotic therapy in atrial fibrillation: evaluation and positioning of new oral anticoagulant agents. Circ J 2011; 75: 1539-47.
  • FDA briefing material.
  • Weinz C, et al. Metabolism and excretion of rivaroxaban, an oral, direct factor Xa inhibitor, in rats, dogs, and humans. Drug Metab Dispos 2009; 37: 1056-64.
  • Connolly SJ, et al. RE-LY Steering Committee and Investigators. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-51.[構造化抄録
  • Granger CB, et al. ARISTOTLE Committees and Investigators. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-92.[構造化抄録
  • Patel MR, et al. the ROCKET AF Investigators. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91.[構造化抄録

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