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ESC2011 Hot Line II

RESET  
Randomized Evaluation of Sirolimus-eluting versus Everolimus-eluting Stent Trial
日常臨床における1年後の標的病変血行再建術抑制において,everolimus溶出ステントのsirolimus溶出ステントに対する非劣性が認められた。
背景・目的 everolimus溶出ステント(EES)のpaclitaxel溶出ステントと比べた臨床転帰に対する2年間の有効性はこれまでのランダム化比較試験(RCT)で明らかであるが,最近実施されたいくつかのRCTによると,EESとsirolimus溶出ステント(SES)の1年後の臨床転帰に差はなかったが,いずれの試験もステント植込み後の標的病変血行再建術(TLR),標的血管血行再建術(TVR)などに対する有効性を検証するには不十分な症例数だった。
そこで,3,000例を超える症例でEESとSESの有効性を比較するall-comer試験(非劣性・優越性試験)を実施した。
[有効性の一次エンドポイント]12ヵ月後のすべての再TLR。
[安全性の一次エンドポイント]3年後の死亡,あるいは心筋梗塞(MI)。
コメント RESET試験は本邦でのPCI領域初の大規模無作為化比較臨床試験である。J-Cypherや市販後調査などの結果から論理的に算出されTLRや心血管イベントを語るに十分な圧倒的症例数は,世界に眼を向けても,DES対DESのRCTではSPIRIT IVに次ぐものである。上市と同時に半年間で約3200例をリクルートした研究者たちの気合いが伝わってくる。さらに,all comerにもかかわらず両群ともに99%を超えるステント成功・病変成功率からは本邦のinterventionalistたちの優れた技術が改めて実証され,高い臨床追跡率も含めて完成度の高い試験となっている。
結果としては,1年後の有効性・安全性エンドポイント・CAGエンドポイントいずれにおいても,everolimus-eluting stent (EES) のsirolimus-eluting stent (SES) に対する非劣性が示された。最近のDESでの非劣性試験は,SESに比して内膜増殖抑制効果が若干劣るとされるTaxus stentがコントロールとなる傾向にある。しかし今回は,あえてSESが選ばれた。折りしも,数多くの臨床試験でDESの功罪を明らかにしてきたSES (Cypher stent®) が製造中止となり,一線から引くこととなった。late restenosisやvery late thrombosisについては後の報告まで待たなければならないが,仮にEESがSESの“魂を引き継ぐ”ことになれば,DESの新しいcornerstoneとなる。そして当面,少なくともわが国おいては,DESのピボタル試験として議論が展開されるであろう。
昨年ESC/EACTガイドライン「Guidelines on myocardial revascularization」が示された。DES vs CABGの代表的無作為化比較試験であるSYNTAX trialの結果が強く反映され,冠動脈多枝疾患の血行再建術のスタンダードがCABG側に大きく舵を切られている。Taxus stentではなく他のDESだったら,と忸怩たる思いが内科サイドにはあったはずである。従って,次に期待するのはEES版のSYNTAXである(コメント:中野明彦)。
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoint),多施設(日本100施設),intention-to-treat解析。
対象 3,197例・3,927病変。
除外基準:なし。

■患者背景:平均年齢(EES群68.9歳,SES群69.3歳),男性(78%,76%),BMI(24.2kg/m2,24.3kg/m2),糖尿病(両群とも45%;インスリン治療例:11%,10%),高血圧(79%,81%),喫煙率(21%,20%),スタチン投与例(両群とも77%),臨床診断:急性MI(6.5%,5.2%),不安定狭心症(11%,13%),安定狭心症(両群とも82%)。既往:MI(29%,31%),脳卒中(11%,10%),PCI(47%,51%;P=0.06),CABG(3.9%,6.2%;P=0.003)。
多枝病変(両群とも47%), SYNTAXスコア*(11.3,11.1)。

■病変背景:左主幹部(2.4%,1.8%),左前下行枝(両群とも43%),左回旋枝(22%,23%),右冠動脈(32%,31%),グラフト(0.4%,1.0%)。
ST上昇型MI責任病変(3.8%,2.8%),分岐部病変(18%,19%),慢性完全閉塞(6.2%,6.0%),ステント内再狭窄(両群とも11%),参照血管径≦2.75mm(64%,65%),病変長>18mm(34%,33%)。
*冠動脈造影(CAG)所見(病変部位や病変数,複雑病変など)によってスコア化し,冠動脈疾患の複雑構造を分類し解剖学的特徴を明確にするツール。スコアが高いほど複雑度が高い。

期間 追跡期間は3年。
登録期間は2010年2月-7月。
治療 EES群(1,597例・1,967病変),SES群(1,600例・1,960病変)。
CAGはステント植込み時に全例に行い,追跡CAGはCAGサブスタディ登録患者,TVR例に実施。
施設,糖尿病,画像サブスタディ参加,により層別。
画像サブスタディ:CAG;515例,IVUS/光干渉断層法(OCT),血管内皮機能検査。
結果 ステント非植え込み例16例(EES群5例,SES群11例)のおもな理由は,ガイドワイヤー不全,拡張不能病変,合併症。 1年追跡完遂例は3,146例(98.4%):EES群1,565例,SES群1,581例。

[手技関連]
治療病変数/患者(両群とも1.23),植え込みステント本数:1.51/患者,1.48/患者;1.23/病変,1.21/病変,総ステント長:31.0mm/患者,31.4mm/患者;25.9mm/病変,26.3mm/病変,ステント径(2.97mm,2.96mm),ダイレクトステント(26%,23%;P=0.01),最大拡張圧(14.5atm,17.2atm;P<0.0001),IVUS使用(81%,82%)。 ステント成功率(99.95%,99.7%),病変成功率(99.6%,99.0%;P=0.02)。 試験ステントのみの使用(98.9%,98.0%;P=0.03),手技所要時間(68.0分,69.4分)。

[有効性の一次エンドポイント:1年後のTLR]
EES群のSES群に対する非劣性が認められた。
EES群4.3% vs SES群5.0%(P<0.0001 for non-inferiority,P=0.34 for superiority)。

[その他の1年後の結果]
・総死亡(ハザード比0.75;95%信頼区間0.46-1.2),MI(0.85;0.58-1.26),臨床的に必要な(clinically-driven)TLR(0.78;0.53-1.14),TVR(0.99;0.75-1.29),死亡+MIの複合エンドポイント(0.78;0.57-1.07)に両群間差はなく,ステント血栓症発生率も両群(0.39% vs 0.38%)とも低かった。
・CAG一次エンドポイント(8-12ヵ月後のセグメント内遠隔期損失径)についてもEES群のSES群に対する非劣性が認められた(0.07mm vs 0.03mm,非劣性 P<0.0001,優越性 P=0.26)。

[サブグループ]
事前に指定したサブグループであるインスリン治療糖尿病患者で,EES群は有意にTLRを抑制した(175例[5.4%]vs 163例[12.3%],P=0.03)。

presenter: T Kimura, MD ( Kyoto University Graduate School of Medicine , Japan )

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