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PCI施行CAD REG1群 vs bivalirudin群 3日後のCVD:REG1群≒bivalirudin群
出血↑:REG1群>bivalirudin群
REGULATE-PCI 
A Study to Determine the Efficacy and Safety of REG1 Compared to Bivalirudin in Patients Undergoing PCI
冠動脈疾患患者において,PCI施行時の新規抗血栓システムREG1(新規抗凝固薬のペグニバコギン[pegnivacogin]*とのその中和剤のアニバメルセン[anivamersen]**の2剤からなる)の静注とbivalirudinとで3日後のCVD(死亡,非致死的MI,非致死的脳卒中,緊急TLR)に差はみられなかったが,中等度-重度の出血はREG1群のほうが多かった。同群での重大なアレルギー反応のため早期中止(第III相試験)。
*第IXa因子に結合するRNAアプタマーにPEGを結合させた薬剤
**pegnivacoginに特異的に結合することにより同薬剤の抗凝固作用を中和する。中和の程度を両薬剤のモル比に基づいて調節可能。
コメント 新規経口抗凝固薬としてトロンビン,Xaなどの阻害薬はなんとか最終的段階までの開発を終えた。人体が複雑精妙な調節系であるため,薬剤の有効性,安全性の事前予測は極めて困難であるとの認識は以前よりも強調されるようになった。実際,第III相試験を大規模に行って科学的仮説を検証しても,実臨床の結果はランダム化比較試験とは異なる場合がある。第III相試験による認可承認のハードルを下げるかわりに,企業に承認後のpost marketing試験の義務を課して,果たせない場合には承認取り消しを考える欧州の方向性は,医療の「予測不能性」の認識の観点にて正しいと考える。
実臨床に基づいた第IV相試験による撤退の可能性を踏まえれば,第III相試験が「科学的仮説の検証試験」であるとの認識は明確になる。基礎医学と臨床医学の乖離が著しい現在,基礎医学的アプローチと臨床医学的アプローチの橋渡し研究は重要である。臨床研究が「ヒトを対象とした実験的研究」であることを改めて認識する必要がある。本試験では抗Xaよりも出血イベントが増えると想定される第IX因子の産生を阻害して,一種人工的「血友病」を作り出している。「血友病」が出血性疾患であることは広く知られているので,まさに「実験的研究」である。長期間「血友病」状態にすれば必ず重篤な出血イベントが起こる。そこで,「血友病」状態の時相を短くするために,中和剤を用意した。急性冠症候群急性期の血栓イベントリスクの高い時相のみ薬剤を用い,即座に中和して出血リスクを防ぐとの戦略は如何にも「基礎医学」的アプローチである。発想は正しそうに見えるが,人体は複雑精妙である。過剰介入に対するアナフィラキシーという問題があることは試験を施行して初めてわかった。
ヒトに対する薬剤介入の有効性,安全性の予測は難しい。それゆえ臨床試験を行って試験の結果に基づいて科学的医療を行うEvidence-Based Medicineの思想体型が生まれた。「アナフィラキシーを起こす薬剤を用いて人体実験を行った」と本研究を批判するのは簡単である。医療の全てに実験的要素があることを社会のコンセンサスとして積極的に実験的研究を推進している欧米社会にわれわれは近づくべきなのであろうか?「医は仁術」の文化の我が国の医師,患者,社会に「ヒトを対象とした実験的研究」に対する議論を惹起する例である(コメント:後藤信哉)。
目 的 PCI施行予定の冠動脈疾患(CAD)患者において,新規抗血栓システムREG1の静注による3日後の虚血イベントおよび出血リスクをbivalirudinと比較する。
デザイン ランダム化,オープン,多施設(北米と欧州の17ヵ国225施設),intention-to-treat解析。
一次エンドポイント 有効性の一次エンドポイントは,3日後の死亡,非致死的心筋梗塞(MI),非致死的脳卒中,緊急標的病変再血行再建術(TLR)の複合エンドポイント。
安全性の一次エンドポイントは,3日後のBARC基準3または5のCABG非関連出血。
対 象  3,232例。PCI施行予定のCAD患者。
■患者背景:平均年齢65歳,女性25%,糖尿病35%,BMI 30kg/m²,MI既往36%,PCI既往(REG1群51%,bivalirudin群53%),EF<55%(38%,41%),アレルギー既往(32%,33%),PCI後の服用薬(clopidogrel:68%,71%;ticagrelor:18%,17%,prasugrel:14%,13%;aspirin:両群99%),経橈骨アクセス(50%,52%),DES使用(81%,52%)。
期 間 追跡期間は30日。
登録開始は2013年9月13日。
治 療 REG1群(1,616例):PCI直前にpegnivacogin 1.0mg/kgを2分間ボーラス静注し,PCI終了時にanivamersen 0.5mg/kgを1分間静注。
bivalirudin群(1,616例):PCI直前に0.75mg/kg 2分間ボーラス静注後,手技終了まで1.75mg/kg/時で持続点滴。
結 果 予定症例数は13,200例であったが,REG1群の重篤なアレルギー反応のため2014年8月に早期中止。

[有効性の一次エンドポイント]
3日後の複合エンドポイント発生率はREG1群6.7% vs bivalirudin群6.4%(P=0.72)。
死亡(0.5% vs 0.7%),MI(6.8% vs 6.4%),脳卒中(両群0.2%),緊急TLR(0.4% vs 1.0%;P=0.06)に群間差はなく,30日後の結果も同様。

[安全性の一次エンドポイント]
3日後のBARC基準3または5のCABG非関連大出血は,0.4% vs 0.1%(P=0.10)。
BARC基準2,3,または5のCABG非関連大・小出血は,REG1群が有意に多かった(3日後:6.5% vs 4.1%;P=0.002,30日後:7.6% vs 4.8%;P=0.001)。

[その他]
ステント血栓症はREG1群が有意に少なかった(3日後:0.1% vs 0.8 %;P<0.01,30日後も変わらず)。

「有害事象」
重度のアナフィラキシーショックは9例(1例死亡),1例。

presenter: Roxana Mehran, MD ( The Icahn School of Medicine at Mount Sinai, USA )
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