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第82回日本循環器学会学術集会(JCS 2018)2018年3月23〜25日,大阪
DOACの血中濃度測定による薬物動態の検討
2018.5.8 JCS 2018取材班
菅原里恵氏
菅原里恵氏

各DOACの血中濃度測定に基づく薬物動態の検討から,各DOAC間でその動態は異なっていた。それぞれの特性を理解し,個々の患者に適した薬剤選択の必要性が示唆-3月24日,第82回日本循環器学会学術集会にて,菅原里恵氏(獨協医科大学循環器・腎臓内科)が発表した。

●背景・目的

直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は,定期的な抗凝固能モニタリングを必要としない。また,DOACは血中濃度半減期(T1/2)が短いため,ピーク/トラフを有し,同日中でも測定時間により血中濃度は大きく異なる。

第Xa因子阻害薬(リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)のT1/2に大きな違いはないが,投与回数,用量設定はそれぞれ異なる。リバーロキサバンは標準用量15mg 1日1回,減量用量10mg 1日1回,アピキサバンは標準用量5mg 1日2回,減量用量2.5mg 1日2回,エドキサバンは標準用量60mg 1日1回,減量用量30mg 1日1回である。 今回,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンについて,標準用量と減量用量投与時の血中濃度の推移を比較し,さらに血中濃度と臨床的転帰との関連性についても検討した。

●方法・対象

2015年4月1日~2016年3月31日の期間に,非弁膜症性心房細動(NVAF)または静脈血栓塞栓症(VTE,エドキサバン群の一部のみ含まれる)を発症し,DOACを4週間以上服用している患者460例(リバーロキサバン161例,アピキサバン188例,エドキサバン111例)を対象とした。平均追跡期間は3.6年であった。

DOACの血中濃度は,抗Xa活性より算出する市販キット(STA-Liquid Anti-Xa)を用いて測定した。検討に先立ち,同キットを用いてリバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンでキャリブレーションを実施し,3薬剤の較正曲線が互いに類似し,ほぼ一致したことから,同キットから求めた血中濃度が等しければ,抗Xa活性がほぼ等しいと考えられた。

●結果

1. 患者背景

各薬剤について標準用量群と減量用量群に分け,患者背景を比較した。アピキサバン(標準用量群70.2歳,減量用量群79.2歳)およびリバーロキサバン(それぞれ65.7歳,74.8歳)は,減量用量群で平均年齢が有意に高かった。エドキサバンは66.4歳,74.8歳で有意差はなかった。

平均CHADS2スコアもアピキサバン(標準用量群1.88点,減量用量群2.48点)とリバーロキサバン(標準用量群1.25点,減量用量群1.81点)は,減量用量群で有意に高かったが,エドキサバン(標準用量群1.60点,減量用量群1.61点,NVAFの症例のみ)では差はなかった。 また,体重およびクレアチニンクリアランスは,3薬剤いずれも減量用量群で有意に低かった。

なお,減量用量群で減量基準を満たしていない患者の割合は,アピキサバン群25/87例(28.7%),リバーロキサバン群23/38例(60.5%),エドキサバン群10/75例(13.3%)であったが,その多くは減量基準に近い値を有するか,出血の既往またはPCI後のDAPT服用中の症例であった。

2.血中濃度

推定血中濃度曲線下面積(AUC)は,アピキサバン標準用量群4,413ng・h/mL,減量用量群では2,765ng・h/mLと,用量間で有意な差を認めた。一方,リバーロキサバンではそれぞれ 3,322ng・h/mL,3,145ng・h/mL,エドキサバンでは 2,297ng・h/mL,2,060 ng・h/mLで,2つの用量間で有意な差を認めなかった。

血中最大濃度(Cmax)については,いずれのDOACも減量用量群にくらべ,標準用量群で有意に高値であったが,血中最小濃度(Cmin)は用量間で有意な差を認めなかった。また,DOAC間ではアピキサバン標準用量群のCmaxやCminが,他に比較し最も高かった。

3. 脳卒中,出血イベントとの関連

アピキサバン群では4例に脳卒中が発症したが,これらの症例の血中濃度は全体の平均値と差はなかった。また,大出血イベントが4例,小出血イベントは9例に発現したが,いずれも血中濃度との関連はみられなかった。

リバーロキサバン群では,大出血イベントが3例,小出血イベントが8例に生じたが,これらの症例の血中濃度にも全体の平均値との差は認められなかった。

エドキサバン群では小出血イベントが6例に生じ,このうち消化管出血をきたした2例については全体の平均値よりも血中濃度が高かったが,他の4例については血中濃度の上昇は認められなかった。

●まとめ

DOACの標準用量群と減量用量群間のAUCについて,薬剤により違いがあり,リバーロキサバンとエドキサバンでは差はなかったが,アピキサバンでは用量間で差がみられた。今回の検討では,DOACの血中濃度とイベント発現に関連性は認められなかった。解析対象症例数が少ない場合,イベント発現には,血中濃度ではなく個々の症例のリスクが大きく影響する可能性があると考えられた。血栓症予防のためのDOAC投与においては,各薬剤の血中濃度の推移と個々の患者のリスクを考慮した薬剤選択が望まれる。


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