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第42回日本脳卒中学会学術集会(STROKE 2017)2017年3月16〜19日,大阪
日本人ESUS患者の臨床的特徴および長期予後
2017.4.17 STROKE 2017取材班
喜友名扶弥氏
喜友名扶弥氏

 日本人におけるESUSの再発リスクは心原性脳塞栓症と同等であり,抗凝固療法を含めた塞栓源別の治療の確立が急務-3月17日,第42回日本脳卒中学会学術集会(STROKE 2017)にて,喜友名扶弥氏(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学)が発表した。

●背景・目的

 脳梗塞のうち,原因が特定できない潜因性脳卒中は全体の15~35%を占めている。その多くは塞栓性の機序をもつと考えられており,最近,塞栓源不明の脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)という新しい疾患概念が提唱されている1)

 欧州の登録研究Athene Stroke Registryからは,ESUSの臨床的な特徴(塞栓源として潜在性の発作性心房細動が多い)や予後(心原性脳塞栓症例より死亡リスクは低いものの,脳卒中再発リスクは同等)について報告され2),抗凝固療法の有用性を検討する複数の国際共同臨床試験も進行中である3, 4)。しかし,わが国独自のESUSの詳細や予後に関する報告は少ない。

 そこで,日本人脳卒中患者の前向き登録研究である福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry:FSR)のデータを用い,(1)ESUSの臨床的特徴や治療状況,ならびに(2)ESUSの長期予後について明らかにするべく,検討を行った。

●方法・対象

 福岡県内の脳卒中専門病院7施設においてFSRに登録された,発症7日以内の脳梗塞患者を対象とした。それぞれの検討対象は以下のとおりである。

1. ESUSの臨床的特徴

 2007年6月~2015年3月に登録された脳梗塞患者9,276例のうち,CT/MRIにより病変を確認できた8,269例を,TOAST分類およびESUSの定義*1により,心原性脳塞栓症,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,ESUS,その他のいずれかに分類。入院時National Institute of Health stroke scale(NIHSS)や入院中の治療状況,短期予後(入院中の脳梗塞再発,退院時modified Rankin scale(mRS))を比較するとともに,ESUSの潜在性塞栓源別*2でも検討を行った。なお,退院時mRS3~6を退院時機能予後不良とした。

2. ESUSの長期予後

 上記の患者を平均2.5年追跡した。入院中に脳卒中を再発または死亡した510例を除いた7,759例を上記と同様に分類。退院時の治療状況,ならびに長期予後(退院後の脳梗塞再発および死亡)について比較した。さらに,ESUSの潜在性塞栓源別*2でも検討を行った。

●結果

1. ESUSの臨床的特徴

(1) 脳梗塞病型およびESUSの潜在性塞栓源の内訳

 脳梗塞病型の内訳をみると,ESUSは1,786例(22%)を占めており,心原性脳塞栓症は1,758例(21%),アテローム血栓性脳梗塞は1,605例(19%),ラクナ梗塞は1,738例(21%),その他は1,382例(17%)であった。

 ESUS例における潜在性塞栓源の内訳をみると,特定不能であった44%を除いてもっとも多かったのは動脈原性塞栓31%で,次いで低リスク心内塞栓源10%,奇異性塞栓症9%,担癌性4%,潜在性発作性心房細動2%であった。

(2) 脳梗塞病型別にみた入院時の神経学的重症度および入院中の治療状況

 入院時NIHSSの中央値は,ESUSでは3(四分位範囲1~6)であったのに対し,心原性脳塞栓症8(3~17),アテローム血栓性脳梗塞3(2~7),ラクナ梗塞2(1~4),その他4(2~6)と,病型により差異がみられた(すべてp<0.05)。

 入院中の再灌流療法実施率は,ESUS(7.8%)に対し,心原性脳塞栓症(20.4%)で有意に高かった。入院中に抗凝固療法のみが行われたのは,ESUSでは18.7%であったのに対し心原性脳塞栓症(68.2%)が,抗凝固療法と抗血小板療法の併用は,ESUS(70.4%)に対しアテローム血栓性脳梗塞(85.0%)が,もっとも多かった(すべてp<0.05)。

(3) 脳梗塞病型別の短期予後

 ESUS例における入院中の脳梗塞再発率は4.3%であった。ESUS例を基準とした性・年齢調整オッズ比(OR)は,心原性脳塞栓症例(3.9%,OR 0.89,95%信頼区間[CI]0.64-1.25,p=0.51),その他(4.1%,OR 0.98,0.69-1.40,p=0.92)では同程度であったが,アテローム血栓性脳梗塞例では有意に高く(7.0%,OR 1.68,1.24-2.26,p<0.001),ラクナ梗塞例(0.8%,OR 0.17,0.10-0.31,p<0.001)では有意に低かった。

 ESUS例における退院時機能的予後不良は36.8%であった。ESUS例を基準とした多変量調整ORは,心原性脳塞栓症例(58.9%,OR 0.89,95%CI 0.72-1.10,p=0.27)ではESUS例と同程度であったが,アテローム血栓性脳梗塞例(44.9%,OR 1.56,1.28-1.88,p<0.001),その他(43.8%,OR 2.30,1.89-2.80,p<0.001)では有意に多く,ラクナ梗塞例(21.0%,OR 0.80,0.66-0.98,p=0.03)では有意に少なかった。

(4) ESUS例の潜在性塞栓源別の臨床的特徴

 入院時のNIHSS中央値は,低リスク心内塞栓源6,潜在性発作性心房細動5,担癌性5,動脈原性塞栓2,奇異性塞栓症2,塞栓源特定不能塞栓症3と,潜在性発作性心房細動を除き有意差がみられた(塞栓源特定不能塞栓症に対しp<0.05)。

 入院中の脳梗塞再発について,塞栓源特定不能塞栓症に比しての性・年齢調整ORは,担癌性でのみ有意に高くなっていた(OR 5.48,95%CI 2.76-10.9,p<0.001)。

 退院時機能的予後不良について,塞栓源特定不能塞栓症に対する多変量調整ORは,担癌性で有意に高く(OR 4.07,95%CI 2.08-7.99,p<0.001),一方で動脈原性塞栓(OR 0.55,0.39-0.77,p<0.001)および奇異性塞栓症(OR 0.32,0.17-0.60,p<0.001)では有意に低かった。

2. ESUSの長期予後

(1) 退院時の抗血栓療法

 ESUS例に対する退院時の抗血栓療法は,抗血小板療法が66%に,抗凝固療法(単独または抗血小板療法との併用)が30%に行われていた。潜在性塞栓源別にみると,抗凝固療法の実施率にはそれぞれ違いがみられ,もっとも低かったのは動脈原性塞栓であった。

(2) 脳梗塞病型別の再発および死亡リスク

 ESUS例における脳梗塞再発率は4.8/100人・年であった。ESUS例とくらべた多変量調整ハザード比(HR,死亡を競合リスクとして考慮)は,心原性脳塞栓症5.7/100人・年(HR 1.02,95%CI 0.81-1.28),アテローム血栓性脳梗塞5.3/100人・年(HR 1.06,0.86-1.31),ラクナ梗塞3.5/100人・年(HR 0.83,0.67-1.04),その他3.6/100人・年(HR 0.87,0.69-1.10)で,いずれの病型についてもESUSと同程度であった。

 ESUS例における死亡率は7.3/100人・年であった。ESUS例とくらべた多変量調整HRは,アテローム血栓性脳梗塞(7.5/100人・年,HR 0.83,95%CI 0.71-0.98),ラクナ梗塞(3.4/100人・年,HR 0.67,0.55-0.81),その他(5.0/100人・年,HR 0.70,0.58-0.84)で,ESUSにくらべて有意に低かった。心原性脳塞栓症は14.3/100人・年と同程度であった(HR 1.01,0.86-1.18)。

(3) ESUSの潜在性塞栓源別にみた再発および死亡率

 ESUSの潜在性塞栓源別にみた脳梗塞再発率は,低リスク心内塞栓源4.6/100人・年,潜在性発作性心房細動2.8/100人・年,担癌性17.1/100人・年,動脈原性塞栓6.9/100人・年,奇異性塞栓症1.5/100人・年,塞栓源特定不能塞栓症4.3/100人・年であり,担癌性と動脈原性塞栓では心原性脳塞栓症(5.7/100人・年)にくらべ高かった。

 ESUSの潜在性塞栓源別にみた死亡率は,低リスク心内塞栓源12.9/100人・年,潜在性発作性心房細動7.2/100人・年,担癌性80.5/100人・年,動脈原性塞栓6.1/100人・年,奇異性塞栓症2.3/100人・年,塞栓源特定不能塞栓症6.5/100人・年であり,心原性脳塞栓症(14.3/100人・年)にくらべ高かったのは担癌性のみであった。

●まとめ

1. ESUSの臨床的特徴

 ESUSは脳梗塞の22%を占めており,心原性脳塞栓症とくらべると入院時NIHSSは低かったが,短期予後は同等であった。ただし,潜在性塞栓源の分布の相違や,ESUSの治療が確立されていないことなどから,予後の単純な比較は容易でないと考えられる。ESUSの潜在性塞栓源別にみると,短期予後がもっとも不良であったのは担癌性であった。

 潜在性塞栓源の内訳を欧州の登録研究とくらべると,FSRでは動脈原性塞栓が多い一方で,潜在性発作性心房細動が少なかった。この背景には人種差5, 6),診断基準,画像診断の実施率や精度の違いが影響していると考えられた。

2. ESUSの長期予後

 ESUS例の脳梗塞再発リスクは,心原性脳塞栓症例およびアテローム血栓性脳梗塞例と同等であった。ESUS例のなかで潜在性塞栓源別に脳梗塞再発率を比較すると,担癌性でもっとも高く,奇異性塞栓症でもっとも低かった。

 現在,ESUS例に対する再発予防としておもに抗血小板療法が行われている2, 7)。ただし,低リスク心内塞栓,動脈原性塞栓,奇異性脳塞栓を塞栓源とするものについては抗凝固療法が有用である可能性が指摘されており8~10),臨床試験3, 4)も進行中である。その結果が待たれるとともに,潜在性塞栓源ごとの病態ならびに適切な治療を明らかにしていく必要がある。

*1:ESUSの定義
以下の4項目をすべて満たす脳梗塞をESUSと定義した。
・CT/MRIでラクナ梗塞が否定された梗塞病変
・病変へ灌流する頭蓋外/頭蓋内主幹動脈に50%以上の狭窄がない
・主要な心内塞栓源がない
・血管炎,解離,片頭痛/血管攣縮,薬剤など特定の原因がない

*2:ESUSの潜在性塞栓源の分類
ESUS例の退院時に潜在性塞栓源の特定を行い,以下のいずれかに分類した。
・低リスク心内塞栓源(minor-risk potential cardioembolic source)
・潜在性発作性心房細動(covert paroxysmal atrial fibrillation)
・担癌性(cancer-associated)
・動脈原性塞栓(arteriogenic emboli)
・奇異性塞栓症(paradoxical embolism)
・塞栓源特定不能塞栓症(undetermined embolism)

文献

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