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欧州心臓病学会学術集会(ESC 2017)2017年8月26〜30日,バルセロナ
心房細動患者における経口抗凝固薬投与例の認知症新規発症リスクは非投与例より低い
2017.10.2 ESC 2017取材班
Leif Friberg氏
Leif Friberg氏

心房細動患者では,脳卒中のみならず認知症リスク抑制のためにも,早期からの経口抗凝固薬の投与が重要-8月29日,欧州心臓病学会(ESC)にて,Leif Friberg氏(Clinical Sciences, Karolinska Institute, Danderyd University Hospital,スウェーデン)が発表した。

●背景・目的

心房細動は,血管性認知症に限らず,認知症全体と関連するということがこれまでの複数の研究から示されている。心房細動患者の脳卒中予防には長期にわたる経口抗凝固薬(OAC)の投与が求められるが,OACによって認知症リスクも抑制できる可能性に期待が集まっている。ただし,OACを必要とする心房細動患者を対象として,プラセボ群を設けたランダム化比較試験を実施することは,倫理面から現実的とはいえない。そこで,スウェーデンの大規模データベースを用い,OAC投与の有無およびOACの種類と,認知症発症リスクとの関連を検討した。

●方法・対象

スウェーデンの大規模な保険医療データベース(The Swedish Patient RegisterおよびThe Dispensed Drug Register)を用い,後ろ向きの解析を行った。スウェーデンの病院で2006~2014年に心房細動と診断された全例(456,960例)のうち,すでに認知症を有していた12,854例を除いた444,106例を解析対象とした。

死亡による競合リスクを調整するために傾向スコアマッチングを行い,ベースライン時のOAC投与群と非投与群(各80,948例),ならびにベースライン時の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)投与群とワルファリン投与群における認知症の新規発症率をそれぞれ比較した。

●結果

1. OAC投与の有無と認知症新規発症率
(1)intention-to-treat解析

ベースライン時のOAC投与群および非投与群の認知症新規発症率を示すKaplan-Meier曲線は1年以内に乖離しはじめ,OAC投与群のほうが非投与群より低い状況が8年以上持続した。OAC投与群の非投与群に対する認知症新規発症のHR(95%CI)は0.71(0.68-0.74)と,有意に低かった。

多変量解析の結果,認知症新規発症の独立予測因子は,年齢(HR 2.19[2.16-2.23]),OAC非投与(HR 1.41[1.37-1.45]),多量飲酒(HR 1.41[1.30-1.54]),脳梗塞既往(HR 1.34[1.30-1.38])であった。

(2)on-treatment解析

ベースライン時のOAC投与群および非投与群のなかには,OAC投与開始後になんらかの理由で中止した例や,逆にOAC投与を追跡期間中に開始した例(クロスオーバー例)が一定数含まれていた。そのため,OAC投与群のうち追跡期間の80%以上にわたって継続的に投与されていた例(OAC継続投与例50,406例)と,非継続例(48,947例)におけるon-treatment解析を行った。

その結果,認知症新規発症率を示すKaplan-Meier曲線は,OAC継続投与例の発症率が非継続例よりも低いことを示し,その差は投与開始初期から経時的に広がっていく傾向がみられた。OAC継続投与例における認知症新規発症のHRは0.52(0.50-0.55)と,非継続例にくらべて有意に低く,intention-to-treat解析(-29%)よりも大きなベネフィット(-48%)が認められた。

サブグループ解析の結果,年齢が高いカテゴリー(65~74歳,75~85歳,85歳以上)ではいずれもOAC継続投与による有意なベネフィットが認められたが,65歳未満のカテゴリーでは認められなかった。

OAC継続投与の有無と認知症新規発症リスクとの関連における有意な相互作用を示していた背景因子は,心房細動診断後の経過年数(0~1年:HR 0.51[0.48-0.54],1~3年:HR 0.57[0.42-0.77],3~5年:HR 0.81[0.61-1.07],5年以上:HR 0.54[0.46-0.64],p for interaction≦0.001),心不全の有無(あり:HR 0.58[0.52-0.65],なし:HR 0.50[0.47-0.53],p for interaction=0.006)および脳梗塞の有無(あり:HR 0.42[0.37-0.49],なし:HR 0.53[0.50-0.59],p for interaction=0.025)であった。

2. OACの種類と認知症新規発症率
(1)intention-to-treat解析

新たに傾向スコアマッチングを行い,ベースライン時のDOAC投与群とワルファリン投与群における認知症の新規発症率を比較した。

ベースライン時のDOAC投与例とワルファリン投与例とのあいだに,認知症発症リスクの有意差はなかった(HR 0.97[0.67-1.40])。この結果は,すべてのサブグループ(年齢,性別,CHA2DS2-VAScスコア,心不全の有無,高血圧の有無,糖尿病の有無,脳梗塞の有無,心筋梗塞の有無,入院を要する出血の有無)においても同様であった。

(2)on-treatment解析

ベースライン以降のOAC投与状況も考慮し,on-treatment解析を行った結果,DOAC継続投与例のワルファリン継続例に対する認知症新規発症のHRは1.01(0.71-1.43)であり,有意差はみられなかった。

●まとめ

スウェーデンの大規模な保健医療データベースにおける全心房細動患者の登録データを用い,傾向スコアマッチングによる比較(後ろ向き解析)を行った。OAC投与例の認知症新規発症リスクは,OACを投与していない例にくらべて有意に低かった。DOAC投与例とワルファリン投与例のあいだでは,認知症新規発症リスクの差はみられなかった。

なお,本研究ではOAC適応の判断による交絡の可能性を除外しきれないことや,ランダム化比較試験ではないため因果関係を証明できない,などの研究デザインにもとづく限界はある。しかし,本結果は心房細動患者において,脳卒中のみならず認知症リスク抑制のためにも,早期からのOAC投与が重要であることを示唆するものである。特に認知症のリスクを懸念する患者にとって,服薬継続の動機付けのために有用な情報となる可能性がある。さらに,今後のOACの臨床試験では,脳卒中や死亡,出血に加えて,認知症も重要な転帰として含めていくべきと考えられる。


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