抗血栓トライアルデータベース
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米国心臓協会学術集会(AHA 2017)2017年11月11〜15日,アナハイム
経口抗凝固療法中の心房細動患者に対する新規の出血予測モデル
2017.12.21 AHA 2017取材班
Alvaro Alonso氏
Alvaro Alonso氏

米国の民間保険請求データベースを用い,経口抗凝固薬(OAC)開始後の出血リスクが高い心房細動患者を同定するモデル(年齢,腎臓病,慢性閉塞性肺疾患,出血イベントの既往,貧血,心不全,抗血小板薬,利尿薬,糖尿病,がん既往,抗不整脈薬,脳梗塞,冠動脈疾患,性別,OACの種類)を開発-11月12日,米国心臓協会学術集会(AHA)にて,J'Neka S Claxton氏,Alvaro Alonso氏(Emory University,米国)が発表した。

●背景・目的

現行のガイドラインでは,心房細動患者における血栓塞栓症の発症抑制として,OACが推奨されているが,出血リスクに注意する必要がある。

心房細動患者における出血リスクスコアはすでに存在しているものの,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)使用例でのリスクスコアは開発されていない。本研究では,2つの独立した民間保険請求データベースを用い,OACを開始した心房細動患者における出血予測モデルを作成し,その妥当性を検証した。

●方法・対象

まずMarketScanデータベース(導出コホート)中の2007~2014年にOACを開始した非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の集団から,ブートストラップ法でデータを1,000回再抽出し,ステップワイズ回帰法を用い,OAC開始後1年間における出血予測因子を選択した。次に,Optum Clinformaticsデータベース(検証コホート)に登録された,2009~2015年にOACを開始したNVAF患者において,このモデルの妥当性を検証した。

対象患者は,導出コホートはワルファリン群82,205例,ダビガトラン群14,611例,リバーロキサバン群15,695例,アピキサバン群6,572例であった。平均年齢はそれぞれ71歳,68歳,68歳,69歳,CHA2DS2-VAScスコアは3.8点,3.4点,3.3点,3.5点であった。

検証コホートは,ワルファリン群49,894例,ダビガトラン群9,088例,リバーロキサバン群14,043例,アピキサバン群8,260例であった。平均年齢はそれぞれ74歳,70歳,72歳,74歳,CHA2DS2-VAScスコアは4.6点,3.9点,4.1点,4.4点であった。

●結果

導出コホートの119,083例(平均追跡期間21ヵ月)のうち,OAC開始後の出血イベントは4,030例に発現した。出血に関連する因子として,年齢(ハザード比[HR]1.02,95%CI 1.02-1.03),腎臓病(1.35,1.24-1.46),慢性閉塞性肺疾患(1.21,1.13-1.30),出血の既往(1.27,1.18-1.36),貧血(1.38,1.29-1.48),心不全(1.24,1.16-1.33),抗血小板薬(1.25,1.16-1.35),利尿薬(1.17,1.10-1.26),糖尿病(1.24,1.16-1.32),がん既往(1.19,1.10-1.28),抗不整脈薬(0.75,0.66-0.85),脳梗塞(1.15,1.07-1.23),冠動脈疾患(1.11,1.03-1.19),男性(女性に対し0.95,0.89-1.02),DOAC(ワルファリンに対し,ダビガトラン0.74,0.66-0.83,リバーロキサバン1.01,0.90-1.15,アピキサバン0.59,0.45-0.78)が同定された。この新規モデルの予測能について、C統計量は0.68(0.67-0.69)であった。

検証コホートでは,81,285例(平均追跡期間22ヵ月)において,出血イベントは3,238例発現した。新規モデルの因子の検証コホートにおけるハザード比は,年齢(HR 1.03,95%CI 1.02-1.03),腎臓病(1.18,1.09-1.28),慢性閉塞性肺疾患(1.14,1.06-1.22),出血イベント既往(1.35,1.26-1.46),貧血(1.35,1.25-1.45),心不全(1.19,1.10-1.29),抗血小板薬(1.23,1.12-1.34),利尿薬(1.27,1.17-1.37),糖尿病(1.21,1.13-1.30),がん既往(0.99,0.91-1.08),抗不整脈薬(0.88,0.74-1.03),脳梗塞(1.07,0.99-1.15),冠動脈疾患(1.20,1.11-1.30),男性(女性に対し1.00,0.93-1.08),DOAC(ワルファリンに対し,ダビガトラン0.72,0.64-0.82,リバーロキサバン0.90,0.81-1.00,アピキサバン0.54,0.45-0.65)となり,予測能は導出コホートと同じであった(C統計量0.68, 0.67-0.69)。

既存のスコアと比較すると,新規モデルの予測能はもっとも高かった。導出コホートならびに検証コホートにおけるC統計量は,HAS-BLEDスコアではそれぞれ0.64(0.63-0.65),0.63(0.62-0.65),ATRIAスコア0.65(0.64-0.66),0.65(0.64-0.66),HEMORR2HAGESスコア0.65(0.64-0.66),0.64(0.63-0.65),ORBITスコア0.65(0.64-0.66),0.65(0.64-0.66)であった。

●研究の強みと限界

本研究の強みのひとつは,OACを開始した心房細動患者の最新のデータを用いて出血リスクを包括的に評価した点である。また,保険請求をベースとした診断コードを使用したため,新規スコアは診療現場に容易に適応することが可能である。また,日常臨床を反映した異なる保険請求データベースを用いて検証を行ったことも強みである。

一方,出血予測因子の評価は,データベースから入手できたリスク因子のみによるものである。モデルの予測能は,保険請求データに記載された変数や転帰の正確性に依存する。また本解析では,治療開始後の抗凝固療薬の変更やアドヒアランスは評価していない。そのため,本研究対象患者以外に一般化することができない可能性もある。

●結論

民間保険請求データベースを用い,OAC開始後の出血リスクが高い心房細動患者を同定するモデル(年齢,腎臓病,慢性閉塞性肺疾患,出血イベントの既往,貧血,心不全,抗血小板薬,利尿薬,糖尿病,がん既往,抗不整脈薬,脳梗塞,冠動脈疾患,性別,OACの種類)を開発した。このモデルでは,DOACはワルファリンより出血リスクが低いことが勘案されている。


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