抗血栓トライアルデータベース
抗血栓トライアルデータベース
home
主要学会情報
テキストサイズ 
第80回日本循環器学会学術集会(JCS 2016)2016年3月18〜20日,仙台
NOACによるVTEの新しい治療戦略
2016.4.1
>山本 剛氏
山本 剛氏

NOACはVTE患者の入院日数短縮と外来治療を実現させ,治療の標準化と適正化を促進する-3月18日,第80回日本循環器学会学術集会(JCS 2016)にて,山本剛氏(日本医科大学心臓血管集中治療科講師)が発表した。

●はじめに

静脈血栓塞栓症(VTE)治療の中心は抗凝固療法であり,1960年代から長らくワルファリンが用いられてきた。ただし,ワルファリンの至適投与量には個人差があり,頻回なPT-INR測定によって投与量の調整が必要なこと,また効果発現までに数日かかるため,PT-INR値が治療域に達するまでヘパリンとの併用が必要となり,その結果,出血リスクが高まるなどの課題があった1)

近年,薬効動態が予測可能で,定期的なモニタリングを不要とする非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が登場し,VTE治療は大きく変化した。当施設での治療成績をもとに,NOACがもたらしたVTE治療のパラダイムシフトならびに治療選択のポイントを紹介する。

●NOACによるVTEの新しい治療戦略

1. スイッチング療法

NOACの登場により,VTEに対して二つの治療法を新たに用いることができるようになった。一つ目は,未分画ヘパリン静注またはフォンダパリヌクス皮下注の後,NOAC(エドキサバン60mg 1日1回)に移行するスイッチング療法である。

2013年8月~2015年7月,当施設の循環器内科で入院診療した急性VTEの連続症例79例のデータを示す2)。エドキサバンの承認前後により承認前群(2013年8月~2014年8月,36例)と承認後群(2014年9月~2015年7月,43例)に分けて検討した。疾患の内訳は肺塞栓症(PE)がそれぞれ22%,40%,深部静脈血栓症(DVT)が78%,60%であった。

承認前群では94%にワルファリンが用いられていたが,承認後群では33%のみで,残りの67%にはエドキサバンが投与されていた。重大な出血は承認後群に1例(ヘパリン投与中の肺胞出血)みられたのみで,VTE再発は両群とも認めなかった。承認後群の入院期間の中央値は12日と,承認前群の17日に比べ有意に短縮していた(p<0.01)。

2. シングルドラッグアプローチ(初期~維持までNOAC単剤療法)

もう一つは,シングルドラッグアプローチ(NOAC単剤療法)である。本治療法はヘパリンからNOACへの切り替えを必要とせず,初期から維持期までNOAC単剤を用いる。リバーロキサバンは15mg 1日2回を3週間投与後,15mg 1日1回投与,アピキサバンは10mg 1日2回を1週間投与後,5mg 1日2回投与を行う。

2015年8月~2016年2月に入院診療した急性VTE連続症例19例に関するデータを提示する。疾患の内訳はPE 63%,DVT 37%であった。当該期間におけるワルファリン投与は11%,NOAC投与は89%で,ワルファリン投与がさらに少なくなっていた。また入院期間中央値は8日で,シングルドラッグ導入により短縮されていた。

また,上記の入院症例以外に,7例に外来治療のみ,10例に入院併診で治療を行った。このことは,VTEに対しNOAC単剤療法を用いることができるようになったことで,これまで入院が必要であったような患者でも外来での治療が可能になったことを示し,VTE治療の適正化・標準化が進んでいることを示唆する。入院,外来,併診を合わせた全36例における抗凝固薬の内訳は,ワルファリン6%,エドキサバン25%,リバーロキサバン44%,アピキサバン25%であった。

●VTEに対する抗凝固療法の選択基準

欧州心臓学会(ESC)の急性PEガイドライン3)では,PEに対する治療として,ショックや低血圧を伴う高リスク患者では血栓溶解療法を行うことが推奨されている。それより重症度が低い症例では, スイッチング療法やNOAC単剤療法が推奨されている。ただし,NOACの投与が禁忌となる症例ではワルファリン投与を行う。また,各患者の出血リスク(年齢,腎機能,体重)やがんの有無,発症からの期間,血栓量,併存疾患,ADLなども考慮に入れる必要がある。

DVTの場合は,近位型か遠位型かにより重症度が異なる。PEと同様に出血リスクや患者の状況も考慮し,近位型では原則抗凝固療法が適応となる。その際,スイッチング療法またはNOAC単剤療法,NOAC禁忌症例ではワルファリンの投与を行う。遠位型では必ずしも治療が必要ではないケースもあり,NOACの維持用量投与がよいと考えられる。

各NOACの特徴は異なる。リバーロキサバンやアピキサバンでは,初期の強化療法が可能であり,外来治療ができる点などが利点である。いずれの薬剤もRCTでのエビデンスは示されているが,臨床試験では十分に検討されていない下腿限局病変や日本人での延長治療の是非などについては,今後のエビデンスの集積が求められる。

●まとめ

NOACの登場により,VTEに対する抗凝固療法はワルファリンからNOAC主体に移行し,入院期間が有意に短縮されたほか,単剤療法による外来治療が可能になった。NOACはVTE治療の標準化と適正化を促進すると考えられた。

文献

  • Goldhaber SZ, Bounameaux H. Pulmonary embolism and deep vein thrombosis. Lancet 2012; 379: 1835-46.
  • Suzuki K, et al. Circ J (in submission)
  • Konstantinides S, et al. 2014 ESC Guidelines on the diagnosis and management of acute pulmonary embolism: The Task Force for the Diagnosis and Management of Acute Pulmonary Embolism of the European Society of Cardiology (ESC)Endorsed by the European Respiratory Society (ERS). Eur Heart J 2014; 35: 3033-73.


▲TOP
抗血栓療法トライアルデータベース