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欧州心臓病学会(ESC 2016)2016年8月27~31日,イタリア・ローマ
ワルファリンからNOACへの移行期における抗凝固療法の変化と転帰への影響―Fushimi AF Registryより
2016.9.14 ESC 2016取材班

2011年の発売後,非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は心房細動患者における主要な経口抗凝固薬となったが,転帰には現時点で大きな変化はみられず―欧州心臓病学会(ESC 2016)にて,赤尾昌治氏(国立病院機構京都医療センター循環器内科部長),山下侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科学)が発表した。


心房細動はよくみられる不整脈疾患であり,特に脳卒中の発症率や死亡率を上昇させる。経口抗凝固薬は心房細動患者の脳卒中発症抑制に有効であるが,最近までは唯一ワルファリンのみが使用可能であった。2011年,NOACが発売され,その使用率は年々上昇している。しかしながら,この薬剤移行期における経口抗凝固療法の変化や臨床転帰の変化については,まだ十分に評価されていない。

Fushimi AF Registryは,京都市伏見区の心房細動患者の特性や治療の実態調査,予後追跡を行うことを目的として開始された,地域ベースの前向き研究である。2011年3月に登録を開始し,3,749例について1年以上の追跡データが得られている(追跡期間中央値1,099日)。ここでは,赤尾昌治氏による抗凝固療法の推移および転帰,山下侑吾氏によるNOAC投与患者の患者特性および転帰に関する発表を紹介する。

赤尾昌治氏
赤尾昌治氏
抗凝固療法の推移および転帰
赤尾昌治氏(国立病院機構京都医療センター循環器内科部長

●目的・方法

ワルファリンからNOACへの移行期における抗凝固療法やその転帰への影響について,評価を行った。登録初年の2011年に2,604例,以降は新規患者を中心に2012年404例,2013年449例,2014年287例を登録し,臨床背景およびイベント発症率を比較した。

●結果

1. 患者背景

対象患者全体の平均年齢は73.6歳,男性は59.3%であった。心房細動の病型は発作性49.1%,持続性8.7%,永続性42.2%で,平均CHADS2スコアは2.03であった。

登録年ごとにみると,対象患者の年齢に変化がみられた(平均年齢は2011年73.8歳,2012年74.3歳,2013年72.7歳,2014年72.0歳,p=0.01)。男性の割合(それぞれ59.8%,58.7%,57.7%,58.2%)は変わらなかった。心房細動の病型は,最近登録された患者のほうが発作性が多く,永続性は少なくなっていた(2011年は発作性46.4%,持続性7.4%,永続性46.3%,2014年はそれぞれ64.5%,13.6%,22.0%,p=0.01)。

また,平均CHADS2スコア(2011年2.08,2012年2.06,2013年1.81,2014年1.86,p<0.01),平均CHA2DS2-VAScスコア(それぞれ3.42,3.40,3.09,3.22,p<0.01)にも変化を認めた。

2. 抗血栓薬の割合

登録時の抗血栓薬の使用割合は,登録年による大きな変化はなく,2011年は抗凝固薬40%,抗凝固薬+抗血小板薬14%,抗血小板薬18%,なし28%,2012年はそれぞれ41%,9%,13%,37%,2013年44%,10%,11%,35%,2014年は50%,9%,11%,30%となっていた。

また抗凝固薬の内訳は,2011年はワルファリン52%,NOAC 2%,なし46%から,2012年はそれぞれ43%,7%,50%,2013年は33%,21%,46%,2014年は24%,34%,42%と,年ごとにワルファリンが減少し,NOACが増加した(p<0.01)。

3. イベント発症率

脳卒中/全身性塞栓症発症率は2011年2.21%/年,2012年3.04%/年,2013年2.76%/年,2014年1.00%/年で,2014年で数値的には低かったものの有意な変化を認めなかった(p=0.13)。大出血発現率も同様に,それぞれ1.74%/年,2.35%/年,2.09%/年,1.32%/年と変化はみられなかった(p=0.35)。全死亡は5.62%/年,8.75%/年,5.65%/年,4.28%/年であった。2014年の登録症例については,脳卒中/全身性塞栓症も大出血も他の年よりも少ない傾向がみられているが,患者数も少なく観察期間も短いので,今後のさらなる観察が必要である。

●結論

2011年の発売以降,NOACは心房細動患者における主要な経口抗凝固薬となった。しかしながら,日本のリアルワールドにおいて,脳卒中/全身性塞栓症および大出血発症率は,現時点ではNOAC発売以前と大きな変化を認めなかった。

山下侑吾氏
山下侑吾氏
登録時NOAC投与患者の患者背景および転帰
山下侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科学)

●目的・方法

2015年11月時点で1年以上の追跡が終了した3,749例のうち,登録時の抗凝固療法に関するデータが得られなかった症例を除く3,731例を対象に,登録時にNOACを投与されていた患者の患者背景および転帰を調査した。登録時の抗凝固薬の投与状況によってNOAC投与群(270例),ワルファリン投与群(1,728例),非治療群(1,733例)に分類し,各群での患者背景および転帰について比較した。

●患者背景

NOAC群は,ワルファリン群にくらべ若齢で(平均年齢:NOAC群72.0歳,ワルファリン群74.4歳,非治療群73.1歳),体重が重く(平均体重:NOAC群62.0kg,ワルファリン群59.6kg,非治療群58.3kg),脳卒中の既往歴は少なく(NOAC群17%,ワルファリン群24%,非治療群13%),脳卒中の塞栓症リスクは低かった(CHADS2スコア:NOAC群2.0,ワルファリン群2.3,非治療群1.8,CHA2DS2-VAScスコア:NOAC群3.2,ワルファリン群3.7,非治療群3.1)(ここまですべてp<0.001)。一方で,大出血の既往歴は同程度であった(NOAC群3.3%,ワルファリン群3.7%,非治療群4.2%)。抗血小板療法の実施率には差異がみられた(NOAC群17%,ワルファリン群25%,非治療群34%,p<0.001)。

抗凝固療法の施行状況は5年間で大きな変化がみられ,個々の症例で追跡期間中にさまざまな変遷を辿り,結果としてワルファリン群は2011年の51%から2015年には37%へ,非治療群は47%から36%へそれぞれ減少した。一方,NOAC群は2%から26%に大きく増加した。

●転帰

脳卒中/全身塞栓症および大出血のイベント発症率は,NOAC群とワルファリン群,非治療群の間にLog rank検定で有意差を認めなかった(脳卒中/全身性塞栓症:Log rank p=0.43,大出血:Log rank p=0.25)。

CHA2DS2-VAScスコアの因子で補正した脳卒中/全身性塞栓症についてのNOAC群の調整ハザード比(HR)は,ワルファリン群に対し調整HR 0.96,95%信頼区間[CI]0.50-1.84,p=0.91,非治療に対しHR 1.00,95%CI 0.52-1.92,p=0.99。大出血についてはワルファリン群に対し調整HR 0.74,95%CI 0.32-1.70,p=0.48,非治療に対し調整HR 0.80,95%CI 0.35-1.86,p=0.61であった。

●結論

リアルワールドにおいて,登録時の抗凝固療法の状況別に層別化すると,NOAC投与患者における脳卒中/全身性塞栓症,大出血発症率は,ワルファリン投与患者と同程度であった。しかしながら,リアルワールドでは個々の症例において経時的に抗凝固療法は大きく変化しているため,本結果の解釈には抗凝固療法の変遷を考慮に入れた更なる解析が必要である。


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