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米国心臓協会学術集会(AHA 2016)2016年11月12~16日,米国・ニューオーリンズ
低用量NOACとワルファリンの有効性と安全性
—心房細動患者を対象にしたデンマークの全国調査より
2016.11.17 AHA 2016取材班
Peter B Nielsen氏
Peter B Nielsen氏

リアルワールドにおけるNOACの低用量処方の割合は,第Ⅲ相試験と乖離がみられた。低用量NOACのリアルワールドでの有効性と安全性プロファイルはNOAC間で異なり,リバーロキサバンではワルファリンに対する出血リスクの増加をきたすことなく,虚血性脳卒中/全身性塞栓症の発症リスクを抑制—11月13日,米国心臓協会学術集会(AHA 2016)にて,Peter B. Nielsen氏(Aalborg University,デンマーク)が発表した。

●背景

抗凝固療法は非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳卒中発症リスクを低下させるが,同時に出血リスクを高める。ワルファリンと非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)を比較したランダム化比較試験(RCT)では,脳卒中発症リスクの低下において,NOACはワルファリンに対する非劣性を示し,頭蓋内出血のリスクを低下させた1~3)。こうした知見は,リアルワールドでの観察研究の結果とも一致している。

しかし,NOACの投与量については,RCTとリアルワールドとのあいだに乖離がみられる。たとえばROCKET-AF試験では,腎障害患者に低用量(リバーロキサバン15mg 1日1回)*を投与するプロトコールが設定された結果,対象者の約20%が低用量投与に該当した1)。ARISTOTLE試験では年齢80歳以上,体重60kg以下,血清クレアチニン1.5mg/dL以上のいずれか2つに該当した場合に低用量が投与されたが,該当したのは対象者の約5%であった。一方,RE-LY試験では減量基準は設けられず,ダビガトラン標準用量群(150mg 1日2回)と低用量群(110mg 1日2回)に1:1の割合で割付けられていた3)。しかし,英国,ドイツ,フランスでの調査によれば,NOAC投与患者のうち,低用量投与が行われている患者の割合はリバーロキサバンで約25~40%,アピキサバンで約35~50%,ダビガトランで約55%~65%であった。さらにデンマークの調査でも各NOACの低用量投与の割合は30~40%と,リアルワールドではRCTとやや異なる処方状況となっている4)

そこで今回,デンマークの3つの国民登録レジストリーにおける個人データを用いて,NOAC低用量(アピキサバン2.5mg 1日2回,ダビガトラン110mg 1日2回,リバーロキサバン15mg 1日1回)の安全性および有効性をワルファリンと比較した。

●方法

対象は,2011年8月~2016年2月のあいだに,ワルファリンあるいはNOACの低用量による抗凝固療法を新規に開始したNVAF患者55,644例である。有効性の転帰として「虚血性脳卒中/全身性塞栓症」,安全性の転帰として「受診を要する出血イベント(部位は問わない)」を設定した。inverse probability of treatment weighting (IPTW)法を用いて患者の背景因子を調整し,COX回帰分析にてNOACの有効性および安全性をワルファリンと比較した。

●結果

1. 患者背景

対象者の内訳は,リバーロキサバン低用量群3,476例(平均年齢77.9歳),アピキサバン低用量群4,400例(平均年齢83.9歳),ダビガトラン低用量群8,875例(平均年齢79.9歳),ワルファリン群38,893例(71.0歳)であった。女性の割合はそれぞれ53.2%,60.6%,53.7%,40.4%,平均CHA2DS2-VAScスコアは3.6,4.3,3.8,3.0であった。

2. 転帰

虚血性脳卒中/全身性塞栓症の年間発症率は,アピキサバン低用量群が4.7%ともっとも多く,次いでワルファリン群3.7%,リバーロキサバン低用量群3.5%,ダビガトラン低用量群3.3%であった。出血イベントの年間発現率は,アピキサバン低用量群とワルファリン群がともに5.4%,リバーロキサバン低用量群が5.8%,ダビガトラン低用量群が4.3%であった。

各NOAC群とワルファリン群とを比較した結果,虚血性脳卒中/全身性塞栓症に関して,アピキサバン低用量群のハザード比(HR)は1.18,95%信頼区間(CI)0.95-1.47となり,アピキサバンの低用量は虚血性脳卒中/全身性塞栓症リスクが高まる傾向が認められた。対して,リバーロキサバン低用量およびダビガトラン低用量では,虚血性脳卒中/全身性塞栓症リスクが低下する傾向が認められた(リバーロキサバン群:HR 0.89,95%CI 0.68-1.15,ダビガトラン群:HR 0.89,95%CI 0.77-1.02)。

出血イベントに関しては,ダビガトラン低用量でリスクの有意な低下が認められ(HR 0.80,95%CI 0.70-0.91),アピキサバン低用量とリバーロキサバン低用量は,ともにワルファリンと同程度であった(アピキサバン低用量群:HR 0.97,95%CI 0.75-1.27,リバーロキサバン低用量群:HR 1.06,95%CI 0.87-1.28)。

3. 高齢者および腎機能患者に関するサブグループ解析

つぎに,高齢者(80歳以上)あるいは腎機能障害(中等度~重度)に該当する患者でのサブグループ解析を実施した。本コホートでは80歳以上の高齢者が8~9割強を占め(リバーロキサバン低用量群92.0%,アピキサバン低用量群96.1%,ダビガトラン低用量群96.5%,ワルファリン群80.4%),腎機能障害はそれぞれ15.6%,12.1%,6.5%,27.4%であった。

80歳以上あるいは腎機能障害を有する患者において,リバーロキサバン低用量はワルファリンと比べ出血リスクの増加をきたすことなく(HR 1.00,95%CI 0.81-1.23),虚血性脳卒中/全身性塞栓症リスクを有意に低下させた(HR 0.63,95%CI 0.47-0.85)。一方,アピキサバン低用量およびダビガトラン低用量は,出血リスクを低下させたものの(アピキサバン低用量群:HR 0.78,95%CI 0.61-0.98,ダビガトラン低用量群:HR 0.80,95%CI 0.69-0.92),虚血性脳卒中/全身性塞栓症リスクは低下させず,アピキサバン低用量ではむしろリスクの上昇が認められた(HR 1.25,95%CI 1.00-1.57)。ダビガトラン低用量群では同程度であった(HR 0.93,95%CI 0.70-1.10)。

●まとめ

今回,抗凝固療法を新規に開始するNVAF患者において,NOAC低用量に関する大規模なコホート研究を実施した。その結果,アピキサバン2.5mg 1日2回はワルファリンにくらべ,虚血性脳卒中/全身性塞栓症の発症率が上昇する傾向がみられた。反対にリバーロキサバン15mg 1日1回,ダビガトラン110mg 1日2回では,虚血性脳卒中/全身性塞栓症の発症率が低下する可能性が示唆された。

また,80歳以上あるいは腎機能障害を有する患者において,リバーロキサバン15mg 1日1回はワルファリンに対する安全性プロファイルを変えることなく,虚血性脳卒中/全身性塞栓症の発症率を有意に低下させた。一方,アピキサバンやダビガトラン低用量は出血リスクを低下させたものの,虚血性脳卒中/全身性塞栓症のリスクは,アピキサバン低用量でむしろ増加を示した。

*:海外では,NVAF患者における脳卒中発症抑制としてのリバーロキサバンの投与量は日本と異なり,20mg 1日1回(腎機能障害患者では15mg 1日1回)。

文献

  • Patel MR, et al; the ROCKET AF Investigators. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91.
  • Granger CB; ARISTOTLE Committees and Investigators. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-92.
  • Connolly SJ; RE-LY Steering Committee and Investigators. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-51.
  • Staerk L, et al. Ischaemic and haemorrhagic stroke associated with non-vitamin K antagonist oral anticoagulants and warfarin use in patients with atrial fibrillation: a nationwide cohort study. Eur Heart J. 2016 Oct 14. pii: ehw496. [Epub ahead of print]


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