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第62回日本心臓病学会学術集会(JCC 2014)2014年9月26〜28日,仙台
DPC データから見る新規経口抗凝固薬の臨床現場への影響
2014.10.20
井上雅博氏
井上雅博氏

NOAC導入後,導入前と比較して脳塞栓症による入院患者の平均在院日数が減少-9月26日,第62回日本心臓病学会学術集会にて,井上雅博氏(脳神経センター大田記念病院循環器内科)が発表した。

●背景・目的

新規経口抗凝固薬(NOAC)が発売されてから3年が経過した。ワルファリンしか使えなかった時代から抗凝固療法の選択肢が増え,NOACが処方される頻度も高くなってきた。そこで,NOAC導入が診療に与えた影響について,診断群分類別包括制度(DPC)*のデータを元に調査する後ろ向き解析を実施した。
*:分析可能な全国統一形式の患者臨床情報および診療行為の電子データのセットで,患者臨床情報ならびに診療行為情報が含まれる。2014年4月1日現在,全国の一般病院7,493施設のうち1,585施設に導入されている。

●対象

1. 入院患者
2010年7月~2014年6月の期間に,脳神経センター大田記念病院に入院した患者15,283例のうち,傷病名が「脳動脈の塞栓症による脳梗塞(ICD-10コード I634)」であった918例,さらに抗凝固療法が実施されていた607例を検討対象とした。

2. 外来患者
2012年10月~2014年7月の期間に,当院を外来受診した患者延べ28,592例のうち,抗凝固薬が処方されていた637例を検討対象とした。

●方法

DPCデータ分析システム「girasol(ヒラソル)」を用い,患者特性,ワルファリン/NOAC処方件数の推移,再入院率,入院期間などを調査した。さらに,対照として同システムを導入している他の施設(284施設。入院患者28,622例,抗凝固薬が処方されていた外来患者延べ898,542例)との比較を行った。

●結果

1. 入院患者
解析期間中,当院に脳塞栓で入院した患者は918例であった。平均年齢は77.3歳で,全国284施設の脳塞栓入院患者28,622例のデータとほぼ同様であった。一方,これらの患者の死亡退院率は当院7.0%であり,全国284施設のデータでの11.6%よりも低いものの,脳塞栓患者の死亡リスクが低くないことがあらためて明確になった。

次に脳動脈の塞栓症による当院入院患者の平均在院日数をみた。NOAC発売前でワルファリンのみが処方されていた2010年度は27.2日であったが,2014年度はワルファリン処方例で20.6日,NOAC処方例で15.7日と短縮していた。NOAC処方例の入院日数は短く,ワルファリンと比べると平均5日の違いを認めた。なお,同期間の当院におけるNOACの処方率は2010年度0%,2011年度8.3%,2012年度11.8%,2013年度41.7%,2014年度44.9%と経時的に増加,一方,ワルファリンの処方率はNOACの処方増加にあわせて減少していた。

2. 外来患者
当院でのNOACの外来処方率は2012年度7.28%,2013年度18.9%,2014年度26.5%。入院患者に比し上昇率は緩徐ではあるものの,年々上昇する傾向がみられた。抗凝固薬処方中に脳卒中で入院したケースがワルファリン処方例で18例,NOAC処方例で5例認められた。このうち,退院時の転帰良好(modified Rankin Scale[mRS]0~2)がワルファリン処方例で8/18例(44.4%),NOAC処方例で4/5例(80.0%),死亡はワルファリン処方例に1例(5.6%)認められ,NOAC処方例では比較的転帰が良好な傾向を認めた。

●結論

NOAC導入により,導入前と比較して心原性脳塞栓症患者の平均在院日数が減少し,早期の転院,リハビリ移行が可能となっていると考えられた。また,抗凝固療法中の外来患者が脳卒中で入院した場合,ワルファリン処方患者にくらべてNOAC処方患者の退院時mRSが良好な傾向が認められた。今後,DPCシステム導入病院以外の病院を含めたリアルワールドの解析がまたれる。


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