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第38回日本脳卒中学会総会(STROKE 2013) 2013年3月21〜23日,東京
NVAFを有する急性期脳梗塞・TIA患者の多施設共同前向き観察研究
—SAMURAI-NVAF Study—
2013.5.14
有廣昇司氏
有廣昇司氏(国立循環器病研究センター)

非弁膜症性心房細動(NVAF)を有する脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)に対する再発予防の選択として,新規経口抗凝固薬は約3割を占め,その使用は在院日数短縮の因子であった−第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われた一般口演での有廣昇司氏(国立循環器病研究センター)の発表内容を紹介する。

●研究の現状

Stroke Acute Management with Urgent Risk Factor Assessment and Improvement (SAMURAI)-NVAF研究は,発症7日以内に入院または外来診療を開始したNVAFを有する急性期脳梗塞・TIA患者を対象とした,全国18施設による多施設共同前向き観察研究である。2011年9月に登録を開始し,抗凝固療法の選択内容によって脳梗塞の再発や出血イベントなどの転帰にどのような差異が生じるか,長期間追跡して解明することを目的としている。

2013年3月20日時点の登録数は594例であるが,今回は2012年12月末時点で退院時転帰までの入力が完了した394例における中間報告として,抗凝固薬別の在院日数,新規経口抗凝固薬の選択関連因子,在院日数に与える影響について検討した。

●患者背景

対象患者の平均年齢は78歳,女性は45%,入院前のmodified Rankin Scale(mRS)は0(中央値)であった。発症前の抗血栓療法としては,抗凝固薬が36%(うちワルファリン93%),抗血小板薬が26%(うちアスピリン87%)に投与されていた。登録時の脳梗塞・TIA発症によりNVAFがはじめて同定された割合は36%であり,既知のNVAF例のうち,約半数(発作性で55%,持続性で45%)で抗凝固療法が行われていなかった。

患者背景は高血圧69%,糖尿病24%,脂質異常症32%,喫煙40%,飲酒20%,肝機能障害2%,腎機能障害6%,脳卒中・TIAの既往29%,急性冠症候群の既往10%であった。発症前の各リスクスコア(中央値)は,CHADS2スコアは2点,CHA2DS2-VAScスコア4点,HAS-BLEDスコア2点であった。

●診断結果と治療

脳卒中の病型は脳梗塞96%,TIA 4%で,病巣は内頸動脈系が77%を占めていた。分布は単発61%,多発39%,梗塞巣サイズは小(≦1.5cm)25%,中49%,大(血管支配領域≧33%を占める)26%であった。梗塞部の出血性変化は,入院時の6%から入院7日後には27%に,National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアは入院時は8(中央値),入院7日後は3(中央値)であった。

急性期治療としては,tPA静注療法は18%,エダラボン投与は73%,血管内治療は8%に行われた。ヘパリンは78%に投与され,その内訳は固定用量投与69%,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)調整31%であった。退院時のmRSは3(中央値)で,抗凝固療法は95%(うちワルファリン73%,ダビガトラン23%,リバーロキサバン4%),抗血小板療法は12%(うちアスピリン71%)に行われていた。死亡は10例(2.5%),虚血イベントは15例(4%),出血イベントは6例(2%)であった。

●在院日数

抗凝固薬別の在院日数(中央値)は,ダビガトラン(84例)では15日で,ワルファリン(266例)の27日にくらべ短かった(p<0.0001)。リバーロキサバン(15例)でも19日とワルファリンにくらべ短かった(p=0.0170)。

●新規経口抗凝固薬の選択に関連する因子

ダビガトラン,リバーロキサバン投与例を新規経口抗凝固薬群としてまとめ,ワルファリン群との登録時背景の比較を行った。新規経口抗凝固薬群はワルファリン群にくらべ年齢が若く,女性が少なく,身長・体重が大きかった。新規経口抗凝固薬群では,肝機能異常,腎機能異常,脳梗塞・TIAの既往は少なく,発症前の抗凝固療法実施率は低かった。発症前のCHADS2スコア,CHA2DS2-VAScスコア,HAS-BLEDスコア,mRS,入院時のNIHSSはすべて新規経口抗凝固薬群のほうが有意に低く,梗塞巣サイズも小さい患者の割合が多かった。より軽症例に新規経口抗凝固薬が選択されている状況が明らかになった。

●在院日数の予測因子

患者背景,入院時の重症度などを調整して在院日数の予測因子について重回帰分析を行った。その結果,入院時NIHSSが高いこと,梗塞巣サイズが大きいことが在院日数延長の因子であり,新規経口抗凝固薬投与は在院日数短縮の因子であった。

●まとめ

発症前の抗凝固療法施行率については脳卒中データバンク20091)での報告と比較して高かったが,すでにNVAFと診断されている症例において,約半数で抗凝固療法が施行されていない現状も明らかになった。新規経口抗凝固薬投与例は登録全体の約3割を占め,在院日数の短縮に寄与する可能性がある。NVAFを有する脳梗塞・TIAにおける再発予防の治療選択肢として,抗凝固療法のさらなる普及が期待される。

文献
  1. 小林祥泰編.脳卒中データバンク2009.中山書店,東京,2009.

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