抗血栓トライアルデータベース
home
主要学会情報
テキストサイズ 
HOME > 主要学会レポート
第38回日本脳卒中学会総会(STROKE 2013) 2013年3月21〜23日,東京
脳卒中データバンクからみた最近の脳卒中の疫学的動向
2013.5.7
山口修平氏
山口修平氏(島根大学)

虚血性脳卒中の予後は出血性脳卒中にくらべ改善してはいるものの,心原性脳塞栓症,高血圧性脳出血の発症はこの10年あまりで増加傾向が認められ,一般市民に対する脳卒中予防のための啓発活動の実施などさらなる努力が必要−−第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われたシンポジウム2「多分野とのクロストーク1:各領域からみた脳卒中」での山口修平氏(島根大学)の発表内容を紹介する。

●脳卒中データバンクとは

脳卒中データバンクは脳卒中の急性期治療を標準化し,日本人におけるエビデンスの検証と確立を目指す登録研究である。1999年の開始以降,3回にわたり成果を出版しており1〜3),2013年2月の時点で,全国193施設から111,534例(男性58%,女性42%)の脳卒中患者が登録されている。今回はその解析結果を報告する。

●病型と年齢の関連

虚血性脳卒中における各病型の割合は,アテローム血栓性梗塞31%,ラクナ梗塞29%,心原性脳塞栓症26%,一過性脳虚血発作(TIA)7%,その他7%であった。患者の年齢別にみると,心原性脳塞栓症は59歳以下では15%であったが,60〜69歳では22%,70〜79歳では26%,80歳以上では36%と,加齢とともに増加傾向がみられた。

出血性脳卒中における各病型の割合は,高血圧性脳出血61%,クモ膜下出血26%,脳動静脈奇形2%,その他12%であった。患者の年齢別にみると,高血圧性脳出血は59歳以下では54%であったが,60〜69歳では67%,70〜79歳では63%,80歳以上では63%と,加齢とともに増加傾向がみられた。

●臨床病型の経年変化

患者を登録年により1999〜2004年,2005〜2008年,2009〜2012年に分けて臨床病型の経年推移をみたところ,全体的にわずかな変化ではあるが,心原性脳塞栓症および高血圧性脳出血は増加傾向,アテローム血栓性梗塞およびクモ膜下出血は減少傾向が認められた。ラクナ梗塞,TIAはほとんど変化がみられなかった。

また,患者を登録年により2006年より前,2006〜2008年,2009〜2012年に分けて機能転帰(modified Rankin Score)の経年推移をみたところ,心原性脳塞栓症,アテローム血栓性梗塞ではともに重症例の減少傾向がみられた。出血性脳卒中ではとくに変化を認めなかった。

●tPA静注療法の現状

虚血性脳卒中患者は76,376例(全登録患者の68.5%)登録されている。19,811例(25.9%)が発症から3時間以内に来院し,このうち1,892例(9.5%)にtPA静注療法が行われた。tPAが2005年に承認された後の2006年以降の患者に限定すると,発症から3時間以内に来院したのは11,792例で,1,885例(16.0%)にtPA静注療法が行われた。病型別の内訳は心原性脳塞栓症が65.0%ともっとも多く,ついでアテローム血栓性梗塞18.3%,ラクナ梗塞5.0%,アテローム血栓性塞栓4.9%,その他6.8%であった。

tPA静注療法の実施割合を病型別にみると,心原性脳塞栓症では10.4%に実施され,アテローム血栓性塞栓では3.7%,アテローム血栓性梗塞では2.1%,ラクナ梗塞では0.8%に実施されていた。患者の年齢別では,40歳未満では5.4%,80歳以上では4.5%にtPA静注療法が行われており,若齢者でやや高い傾向がみられた。入院時の重症度別にみると,National Institute of Health stroke scale(NIHSS)≦4では1.3%,5〜10では8.4%,11〜16では15.7%,17〜22では13.4%,23以上では7.6%に行われていた。

次に,虚血性脳卒中患者におけるtPA静注療法実施率の経年推移をみたところ,2006〜2008年の4.2%から2009〜2010年は4.9%,2011〜2012年は5.0%と微増にとどまっていた。発症から3時間以内に来院した症例に限っても,2006〜2008年の13.8%から2009〜2010年は15.6%,2011〜2012年は16.9%とわずかに増加したにすぎなかった。実施率には地域差がみられ,東北がもっとも低く1.7%,近畿がもっとも高く4.7%であった。

虚血性脳卒中患者のうち,発症から3時間以内に来院した患者の割合は,2006年以前は32.9%,2006〜2008年は34.3%,2009〜2010年は32.4%,2011〜2012年は33.6%で,大きな変化はみられなかった。地域別にみると,発症から3時間以内に来院した患者の割合は東北がもっとも低く40.8%,中部がもっとも高く48.9%であった。

●まとめ

心原性脳塞栓症,高血圧性脳出血はこの10年あまりで増加傾向が認められた。虚血性脳卒中の機能転帰は改善傾向がみられた。虚血性脳卒中発症から3時間以内の搬送率にはこの10年で大きな変化はなく,tPA静注療法実施率も4%から5%の微増にとどまっており,地域差も存在した。ひとりでも多くの患者を救うため,また後遺障害軽減のためにも,tPA 療法をはじめとする急性期脳卒中診療の体制の整備のほか,一般市民に対する脳卒中予防のための啓発活動の実施などさらなる努力が必要である。

文献
  1. 小林祥泰編.脳卒中データバンク.中山書店,東京,2003.
  2. 小林祥泰編.脳卒中データバンク2005.中山書店,東京,2005.
  3. 小林祥泰編.脳卒中データバンク2009.中山書店,東京,2009.

▲TOP