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第77回日本循環器学会学術集会(JCS 2013) 2013年3月15〜17日,横浜
新規抗凝固薬の使用において凝固能モニタリングは必要か
2013.4.8
高橋尚彦氏
高橋尚彦氏(大分大学医学部臨床検査・診断学講座・循環器内科)

出血のリスク指標としてダビガトランでは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が,リバーロキサバンではトラフ時のプロトロンビン時間(PT)延長が有用かもしれない——第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で17日に開催された「教育セッションIII 新しい抗凝固薬の臨床」から,高橋尚彦氏(大分大学医学部臨床検査・診断学講座・循環器内科)の発表「新規抗凝固薬によるモニタリング:必要か否か」を紹介する。

●PT,APTTは何をみているのか

PTおよびAPTTは,止血機能スクリーニングとして通常用いられる代表的な検査である。PTはクエン酸加血漿に組織因子(組織トロンボプラスチン)およびCa2+を添加して,フィブリンが析出するまでの時間を測定するもので,凝固カスケードの外因系凝固因子の機能を反映する。APTTはクエン酸加血漿にリン脂質,接触因子活性化剤,Ca2+を添加してフィブリンが析出するまでの時間を測定するもので,内因系凝固因子の機能を反映する。

ワルファリンは複数の凝固因子(II,VII,IX,X)を抑制するが,なかでも半減期が短い外因系の第VII因子をとくに抑制するため,APTTにくらべPTにより影響をおよぼす。このため,通常われわれはプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を用いて用量の調整を行っている。

●ダビガトランはPTよりもAPTTを強く延長

ダビガトランはPT,APTTのいずれにも影響をおよぼすが,血中濃度とAPTT比(患者血漿と正常血漿の値の比)およびPT-INRとの関係をみたところ,APTT比はPT-INRにくらべダビガトランの血中濃度に応じてより急峻に上昇していた1)。ダビガトランはトロンビンの活性を直接抑制するが,それにともないトロンビンのポジティブフィードバック機構も抑制され,その結果第V,VIII,XI因子の活性化も抑制される。したがって,内因系凝固因子の異常を反映するAPTTのほうをより強く延長させると考えられる。

ダビガトラン投与の自験例を提示する。300mg/日で投与を開始したが,APTTのモニタリングによりその後減量することになった症例である。2例とも体格がよく,腎機能も正常であったため300mg/日投与が適切と考えられたが,APTTは症例1(58歳男性)では開始日の30.2秒から5ヵ月後には73.5秒,症例2(50歳女性)では開始日の30.6秒から2.5ヵ月後には70.6秒と,いずれも70秒以上に延長した。当施設では正常値(25〜35秒)上限の2倍である70秒以上の症例には減量もしくは中止が必要と考えており,2例とも220mg/日に減量した。APTTの延長は体格やベースライン時の腎機能からは予想できなかった。このような症例は少なからずあり,モニタリングは必要ではないかと考えられる。

●リバーロキサバンはPTと正の相関

リバーロキサバンについては,データが少ないため明確なことはいえないが,出血性の指標としてPTが有用かもしれない。Hillarpら2)の報告では,リバーロキサバンの血中濃度とPT-INRは比較的鋭敏に正の相関を示すが,PT-INRは試薬間で大きく異なることが示されている(試薬によって感度が異なる)。このデータに当施設で用いている試薬(Thromborel S)をあてはめると,リバーロキサバンの推定最高血中濃度(250〜300μg/L)時のPT-INRは1.4程度に相当することになる。一方,最も感度が高いSTA-Neoplastineでは2.1程度に相当し,試薬間でこれだけの開きがあることになる。現時点で,リバーロキサバンの出血リスクの指標となる基準値や程度などは明らかになっていない。

しかし,リバーロキサバンは1日1回投与の薬剤であり,トラフ時には血中濃度はベースラインに戻っていると考えられることから,トラフ時のPTが高値を示すような場合には,薬剤の蓄積が疑われるかもしれない。このような場合には出血リスクが高いかもしれず,これを安全性の指標として用いることができるのではと考えている。

●まとめ

新規経口抗凝固薬の使用にあたっては,凝固能のモニタリングが不要という点がメリットとされてきたが,緊急時や,出血リスクの評価など,安全性の指標としては必要であるかもしれない。

ダビガトランでは投与前,投与2週後,1ヵ月後にAPTTを測定し,基準値の2倍以上の場合は中止もしくは他の抗凝固薬へ変更する。APTTの延長がみられなければ,以降は2〜3ヵ月ごとに血算,腎機能,APTTを測定する。

リバーロキサバンは投与2週後,1ヵ月後にPTを測定し,トラフ値(朝食後投与であれば,翌日の内服直前に採血)で,PTが明らかに延長している場合(程度は断言できない)は蓄積の可能性を疑い,中止もしくは他の抗凝固薬に変更する。そうでなければ,以降は2〜3ヵ月ごとに血算,腎機能,PTを測定する。

いずれにしても,現時点ではまだ十分な情報量がなく,今後経験を重ねることにより,議論が深まることを期待する。

文献
  1. Stangier J, et al. The pharmacokinetics, pharmacodynamics and tolerability of dabigatran etexilate, a new oral direct thrombin inhibitor, in healthy male subjects. Br J Clin Pharmacol 2007; 64: 292-303.
  2. Hillarp A, et al. Effects of the oral, direct factor Xa inhibitor rivaroxaban on commonly used coagulation assays. J Thromb Haemost 2011; 9: 133-9.

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