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第77回日本循環器学会学術集会(JCS 2013) 2013年3月15〜17日,横浜
CREDO-Kyoto PCI/CABG Registry Cohort-2
2013.3.29
後藤貢士氏
後藤貢士氏(京都大学)

心房細動患者では,脳卒中予防のための抗凝固療法が必要となるが,PCIを施行した心房細動患者において,ワルファリン使用率は低く,そのコントロールは不十分——第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で15日に行われた「Late Breaking Cohort Studies1」にて,後藤貢士氏(京都大学)が報告した。

●背景・目的

PCI施行患者の約10%は心房細動を合併しているとされ,脳卒中または全身性塞栓症予防のための抗凝固療法と,ステント血栓症予防のための抗血小板療法が必要となる。また,薬剤溶出性ステント留置例では,アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬による2剤併用抗血小板療法(DAPT)が推奨されている。こうした抗凝固療法とDAPTによる3剤抗血栓療法を受ける患者では,出血リスクの上昇が懸念されるが,リアルワールドでの抗血栓療法の実態は明らかになっていない。

CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2のデータから,心房細動合併例の特徴,抗凝固療法の実施率と強度,および3剤併用抗血栓療法における抗凝固療法の有効性と安全性について,評価を行った。

●対象患者

CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2では,2005年1月〜2007年12月の期間中,日本の26施設から初回冠動脈血行再建術を受けた15,939例を登録,本解析ではPCIを施行した12,716例を対象とした。主要評価項目は脳卒中(出血性および虚血性),副次評価項目は死亡,心筋梗塞,大出血(GUSTO出血基準)。追跡期間(中央値)は5.1年である。

対象患者の平均年齢は心房細動群72.5歳で,非合併群67.6歳にくらべ高齢で(p<0.0001),高血圧(85%および82%,p=0.007),脳卒中既往(19%および10%,p<0.0001),頭蓋内出血既往(3%および2%,p=0.008),DES使用率(48%および53%,p=0.0009),DAPT実施率(94%および97%,p<0.0001)などについて有意差が認められた。

●結果

5年時点での主要評価項目である脳卒中発症率は心房細動合併群12.8%で,非合併群5.8%にくらべ有意に高かった(補正後ハザード比[HR]2.04,95%CI 1.67〜2.50,p<0.0001)。内訳は,虚血性脳卒中10.8%および4.4%(補正後HR 2.17,95%CI 1.74〜2.72,p<0.0001),出血性脳卒中2.8%および1.5%(補正後HR 1.82,95%CI 1.18〜2.79,p=0.006)であった。

副次評価項目は,全死亡(補正後HR 1.48,95%CI 1.30〜1.69,p<0.0001),大出血(補正後HR 1.40,95%CI 1.10〜1.78,p=0.004)は心房細動群のほうが多かったが,心筋梗塞については有意な差は認められなかった(補正後HR 1.31,95%CI 0.99〜1.73,p=0.06)。

つぎに心房細動合併例について,退院時のワルファリン投与の有無別に解析を行った。退院時にワルファリン投与を受けていたのは48%(506例)で,半数に満たなかった。ワルファリン投与群(506例)では非投与群(551例)にくらべ男性が多く(76%および67%,p=0.002),75歳以上例が少なかった(42%および48%,p=0.04)。CHADS2スコアの分布については,特に差異はみられなかった。

5年時点での脳卒中発症率はワルファリン投与群13.8%および非投与群11.8%で,両群で同程度であった(補正後HR 1.15,95%CI 0.78〜1.69,p=0.49)。虚血性脳卒中(11.5%および10.3%)および出血性脳卒中(3.4%および2.2%)についても差はなかった。全死亡,大出血にも有意差はみられなかったが,心筋梗塞はワルファリン群のほうが少なかった(補正後HR 0.45,95%CI 0.24〜0.85,p=0.01)。なお,ワルファリン群におけるDAPT中止率は74.2%で,非投与群82.1%にくらべ低かった(p=0.02)。

Time in the therapeutic range(TTR,プロトロンビン時間国際標準比[PT-INR])のデータが入手できた409症例について,PT-INR2〜3とした場合のTTRは24.2%,1.6〜2.6とした場合は52.6%と,低めにコントロールされていることが明らかになった。

さらにこれらをTTR≧65%群(154例,38%)および<65%群(255例,62%)に分け解析を行った。≧65%群は<65%群にくらべ平均年齢が低かったが(69.8歳および72.3歳,p=0.002),CHADS2スコアの分布はほぼ同様であった。脳卒中発症率は≧65%群6.9%で,<65%群15.1%にくらべ有意に低かった(補正後HR 0.30,95%CI 0.12〜0.79,p=0.01)。その内訳では出血性脳卒中には差はなかったが,虚血性脳卒中ではTTR≧65%群では4.9%と,>65%群の12.6%と比べ有意に低かった(p=0.01)。全死亡,大出血,心筋梗塞発症率は両群で同程度であった。さらに脳卒中発症例において,発症前30日以内の直近PT-INR値をみたところ,PT-INR<1.6でコントロールされていた症例における虚血性脳卒中の発症がほとんどを占めた。

●結論

CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2では,PCI施行患者のうち8.3%に心房細動の合併を認めた。PCI施行の心房細動患者では,ステント血栓症予防のための抗血小板療法は行われているものの,脳卒中または全身性塞栓症予防のためのワルファリン使用率は低く,そのコントロールは不十分であった。ワルファリンの使用はリアルワールドでの長期脳卒中転帰を改善しなかったが,ワルファリン使用患者をTTR で層別化すると,≧65%の症例では虚血性脳卒中リスクが顕著に抑制された。PCI施行の心房細動患者では,たとえDAPTを受けていたとしても脳卒中予防のための至適抗凝固療法は必須であり,これらの患者における至適抗血栓療法についてのさらなる検討が必要である。

後藤信哉氏
後藤信哉氏(東海大学)

コメンテーターの後藤信哉氏(東海大学)は,本研究は臨床試験と実地臨床の相違を明確にしたと高く評価した。臨床試験とは異なり,実地臨床ではCHADS2スコアなどにもとづいてではなく,医師の判断や患者の意向によりワルファリンが用いられている。本研究で虚血性脳卒中および出血合併症発症率がワルファリン使用の有無にかかわらず同程度であったことは,実地臨床におけるワルファリン投与の選択が適切であったことを示していると指摘した。

さらに本研究により,死亡リスクは新規抗凝固薬により抑制することができるか,PT-INRコントロールが良好な患者と不良の患者に差異はあるのか,インターベンション施行後の患者における脳卒中リスクが心筋梗塞より高いのは日本に特有であるのかなど重要な課題が提起されたとし,今後の解析に期待するとまとめた。


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