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第37回日本脳卒中学会総会(STROKE 2012) 2012年4月26〜28日,福岡
一般住民における心房細動の発症状況と予後
2012.6.18
秦淳氏
秦淳氏(九州大学)

第37回日本脳卒中学会総会(2012年4月26〜28日)では「心房細動〜抗凝固療法のパラダイムシフト〜」と題したシンポジウムが4月27日に行われた。ここでは,秦淳氏(九州大学)が久山町研究をもとに日本人の一般住民における心房細動患者の発症状況と予後について報告した内容を紹介する。

●久山町研究とは
久山町研究は1961年に開始された,福岡県糟屋郡久山町(2010年の人口8,400人)の住民を対象としたコホート研究である。久山町の人口分布,職業分布はわが国全体のそれと近似しており,同研究の結果は日本全体の結果を反映していると考えられる。

同研究では九州大学と久山町が協力し,40歳以上の住民に健診を行ってきた。健診受診率は78〜90%,追跡率は99%以上と非常に高いことが特徴の1つである。

1961年に健診に参加した1,658例を第1集団,1974年の2,135例を第2集団,1988年の2,742例を第3集団,2002年の3,298例を第4集団とし,これらの集団を長期にわたり前向きに追跡することで,心血管疾患をはじめとする疾患の発症率,死亡率の長期推移を検討している。また,剖検率が75%と高いことから,正確な死因の特定が可能になっている。

●心房細動の診断
同研究では,心房細動の発症は毎年行う健診の心電図での調査に加え,久山町の実地医家,医療機関から心電図,カルテを取り寄せて判定している。 今回の発表における心房細動とは,発作性,持続性,慢性のすべてと,まれだが心房粗動も含む(ミネソタコード:8-3)。

●心房細動有病率の推移
4つの集団をまとめた解析によると,1961年における心房細動の年齢・性別補正後有病率は0.7%であったが,1974年にはほぼ倍増し,その後は横ばいで,2007年では1.3%であった。非弁膜症性心房細動(NVAF)は1961年の0.4%から2007年の1.1%まで一貫して増加しており(傾向p<0.05),したがってNVAFの割合が相対的に増加した。

2007年の調査では,男性の年齢補正後有病率は1.8%で,女性の0.7%に比し高かった(p<0.001)。有病率は年齢が高くなるほど上昇し(傾向p<0.001),80歳以上では6.1%であった。

また抗血栓療法実施率について調査を行ったところ,ワルファリン単独は68%,ワルファリン+抗血小板薬併用は12%,抗血小板薬単独は13%,非実施は7%であった。

●心房細動新規発症率の推移
1961年からの4つの集団をそれぞれ7年間追跡した結果,男性では,1961〜1968年の年齢補正後発症率は心房細動1.9/1,000人・年,NVAF 1.4/1,000人・年であったが,2002〜2009年では心房細動3.3/1,000人・年,NVAF 3.1/1,000人・年(NVAFのみ傾向p<0.05)と上昇した。

女性でも同様に,1961〜1968年の年齢補正後発症率は心房細動1.4/1,000人・年,NVAF 1.2/1,000人・年であったが,2002〜2009年では心房細動1.9/1,000人・年(傾向p<0.05),NVAF 1.6/1,000人・年(いずれも傾向p<0.05)と上昇した。

心房細動発症率を年代別にみたところ,2002〜2009年における70歳代の発症率は8.0 /1,000人・年,80歳以上では16.4/1,000人・年と,年齢が高くなるほど上昇していた。

●心房細動新規発症のリスク因子
第3集団(2,680例)において心房細動新規発症のリスク因子を検討したところ,血圧,虚血性心疾患,血糖値,メタボリックシンドロームがリスク因子として浮かび上がった。 至適血圧(<120/<80mmHg)における発症率を1とすると,ステージ1の高血圧(140〜159/90〜99mmHg)では心房細動,NVAFとも補正後ハザード比(HR)1.7(心房細動のみp<0.05),ステージ2の高血圧(160〜179/100〜109mmHg)での補正後HRは心房細動:2.3(p<0.05),NVAF:2.0(p<0.05),ステージ3の高血圧(≧180/≧110mmHg)での補正後HRは心房細動:2.8(p<0.05),NVAF:3.0(p<0.05)と上昇した。

また,健診時に虚血性心疾患を有していた人の新規発症リスクは,心房細動:補正後HR 2.6,NVAF:補正後HR 2.5であった(非虚血性心疾患の人に比し,いずれもp<0.05)。 血糖値については,空腹時血糖値では明らかな相関はみられなかったが,ブドウ糖負荷試験2時間後の血糖値では相関がみられた(心房細動,NVAFとも負荷後血糖値≧200mg/dLの補正後HR 1.6[<140mg/dLに比し,心房細動のみp<0.05])。

また,メタボリックシンドロームについても相関がみられた(心房細動,NVAFとも補正後HR 1.5,非メタボリックシンドロームの人に比し,いずれもp<0.05)。

●心房細動が脳卒中発症および死亡に及ぼす影響
第3集団(2,680例)における調査では,心房細動は脳卒中の発症および死亡と相関がみられた。
[非心房細動に対する多変量HR(95%CI),p値)
脳卒中発症:1.82(1.06-3.11),p=0.03
脳梗塞発症:2.17(1.23-3.86),p=0.008
心原性脳塞栓症発症:7.48(3.46-16.14),p<0.001
心血管疾患死:2.28(1.36-3.82),p=0.002
脳卒中死:2.88(1.29-6.45),p=0.01
脳梗塞死:5.34(2.12-13.44),p<0.001

以上より秦氏は「日本人一般住民において,心房細動の有病率,発症率は過去50年で著しく増加していた」と指摘し,「高血圧,虚血性心疾患,負荷後高血糖,メタボリックシンドロームは心房細動新規発症のリスク因子であり,心房細動は脳梗塞発症および脳梗塞死のリスクを有意に上昇させていた」と総括した。


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