編集:片山茂裕 河盛隆造 景山茂 西尾善彦 西村理明 綿田裕孝
2020年3月現在,1226報収載!
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Tofte N, Lindhardt M, Adamova K, Bakker SJL, Beige J, Beulens JWJ, Birkenfeld AL, Currie G, Delles C, Dimos I, et al.; PRIORITY investigators: Early detection of diabetic kidney disease by urinary proteomics and subsequent intervention with spironolactone to delay progression (PRIORITY): a prospective observational study and embedded randomised placebo-controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2020; 8: 301-312. [PubMed]

まず,PRIORITY(proteomic prediction and renin angiotensin aldosterone system inhibition prevention of early diabetic nephropathy in type 2 diabetic patients with normoalbuminuria)試験に用いられた尿プロテオミクス,CKD273の解説から始める。CKD273は,273の尿中のペプチドを解析し,後ろ向きに慢性腎臓病の進行を調べ,そのリスクを予測しようとして開発されたものである(Good DM, et al. Mol Cell Proteomics 2010; 9: 2424-37)。本試験では1,775名の正常アルブミン尿の2型糖尿病患者において,尿プロテオミクスによりCKD273を解析し,そのリスクスコアを>0.154の高リスク群と≦0.154の低リスク群に分け,1,559名の低リスク群は2.5年間にわたり経過を観察した。高リスク群は,spironolactone投与群とプラセボ投与群にランダム化し,介入効果を2.5年間にわたり追跡した。結果は抄録の通りであるが,尿中プロテミクス検査によるCKD273のスコアで高リスクとなった患者では,微量アルブミン尿への進展リスクが増加し,さらにはCKDの3期あるいは4期への進展やeGFRの低下も大であった。糖尿病腎症の領域では,尿プロテオミクスを用いた世界で初めてともいうべき本試験で,CKD273によるスコア化が有用であることが示された臨床的意義は大きいといえる。一方,微量アルブミン尿の患者ではspironolactoneがアルブミン尿を減少させることが既に報じられているが,今回は正常アルブミン尿の高リスク患者において,spironolactoneは微量アルブミン尿への進展を抑制しなかった。CKD273にはコラーゲンをはじめとして細胞外基質のマーカーも含まれており,spironolactoneが腎臓での間質の線維化を抑えるとすれば,微量アルブミン尿への進展を抑制するという仮説を検証しようとしたわけだが,尿プロテオミクスを用いた今回のトライアルでは証明できなかったこととなる。対象患者数が少なかったこと,追跡期間が短かったこと,プラセボ群も高リスク群であったことなどがその理由かもしれない。
現在はCKD273の実施に1検体あたり€850のコストがかかる。尿プロテオミクスが糖尿病腎症のリスクのある患者の選択などに有用であることがさらに多くの試験で示されれば,糖尿病腎症の薬効をみる臨床試験などに用いられるばかりでなく,糖尿病腎症の進展リスクを予測して個々の患者に最適な治療を選択するのに有用な検査法になるかもしれない。【片山茂裕

●目的 正常アルブミン尿の2型糖尿病患者において,尿中プロテオミクス検査によるリスク分類(CKD273)スコアは微量アルブミン尿の発症を予測するか検討し(観察研究),さらにミネラルコルチコイド受容体拮抗薬spironolactoneは微量アルブミン尿への進展を抑制するかを検証した(ランダム化比較試験[RCT])。
一次エンドポイントは,微量アルブミン尿の発症(観察研究),微量アルブミン尿への進展(RCT)。
●デザイン RCT(二重盲検,intention-to-treat解析),観察研究,多施設(15施設,欧州の10ヵ国)。
●試験期間 登録期間は2014年3月25日~2016年8月31日,試験終了は2018年9月30日。追跡期間中央値は2.51年(四分位範囲2.0~3.0)(観察研究),2.5年(2.0~3.1)(RCT)。
●対象患者 腎機能が保持された正常アルブミン尿の2型糖尿病患者1,775例(観察研究 1,775例[低リスク群1,559例,高リスク群216例],RCT 209例[spironolactone群102例,プラセボ群107例])。
男性は低リスク群61%,spironolactone群68%,プラセボ群73%,平均年齢はそれぞれ61歳,63歳,63歳,平均糖尿病罹病期間は11年,14年,14年,平均推算糸球体濾過量(eGFR)は88 mL/分/1.73m2,81 mL/分/1.73m2,82 mL/分/1.73m2,尿中アルブミン-クレアチニン比(UACR)中央値は5 mg/g,7 mg/g,7 mg/g,HbA1cは7.3%,7.5%,7.5%。
登録基準:18~75歳,正常アルブミン尿(UACR<30 mg/g[早朝尿連続3回のうち2回以上],eGFR>45 mL/分/1.73m2)。
除外基準:レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬を2剤使用,またはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬使用者。
●方法 ・観察研究
尿中プロテオミクス検査によるリスク分類CKD273スコアにより,>0.154を高リスク群(216例),≦0.154を低リスク群(1,559例)として分類した。
一次エンドポイントである微量アルブミン尿の発症は,UACR>30 mg/g(早朝尿連続3回のうち2回以上の値),かつUACR(幾何平均値)が30%以上高い(vs. 導入期間のサンプル),あるいはUACR(幾何平均値)>40 mg/gとなった場合と定義した。
・RCT
CKD273スコアで高リスクの209例(216例のうち,同意が得られない7例を除外)を,層別化(施設,RAAS治療の有無)により,spironolactone群(25 mg 1日1回,102例)とプラセボ群(107例)に1:1にランダム化した。
一次エンドポイントである微量アルブミン尿への進展は,CKD273スコアにより高リスクとなった場合と定義した。
●結果 ・観察研究
微量アルブミン尿の発症率は,高リスク群(28%[61例])にくらべ,低リスク群(9%[139例])で有意に低く,ベースライン変数(年齢,性別,HbA1c,収縮期血圧,網膜症,UACR,eGFR)で調整後のハザード比(HR)は2.48(95%CI 1.80 to 3.42,p<0.0001)であった。
腎機能低下(eGFR<60 mL/分/1.73m2)は,高リスク群26%,低リスク群8%に認められ,HRは3.50(95%CI 2.50 to 4.90,p<0.0001)であった。
後付け解析により, eGFR 30%の低下(vs.ベースライン)を認めたのは,高リスク群19%,低リスク群4%であった。ベースライン変数(eGFR,UACR)で調整後のHRは 5.15(95%CI 3.41 to 7.76,p<0.0001)であった。
・RCT
高リスク例における微量アルブミン尿への進展は,プラセボ群33%(35例),spironolactone群25%(26例)と,有意な群間差は認められなかった(HR 0.81,95%CI 0.49 to 1.34,p=0.41)。
安全性解析では,血漿カリウム値>5.5 mmol/Lを認めたのは,spironolactone群13%(13例),プラセボ群4%(4例)で,女性化乳房はspironolactone群で3%(3例)に対し,プラセボ群ではみられなかった。死亡はプラセボ群で心イベントによる死亡が1例,spironolactone群で試験薬に関連しない癌死が1例であった。
●結論 正常アルブミン尿の2型糖尿病で,尿中プロテミクス検査によるCKD273のスコアで高リスクとなった患者では,中央値2.5年間において,微量アルブミン尿への進展リスクが増加し,その増加は臨床的特徴とは独立したものであった。一方,高リスク患者において,spironolactoneは微量アルブミン尿への進展を抑制しなかった。