FinnDiane Studyにおいては,腎症を伴う1型糖尿病患者では腎症を伴わない患者に比べて,心血管疾患が10倍の高率で生じることが明らかになっている。そして,アルブミン尿が心血管疾患の予測因子になることも明らかにされている。さらに,2型糖尿病患者ではアルブミン尿を減少させることが心血管疾患の発症を軽減させることも報告されている。しかしながら,1型糖尿病患者でも同様な効果がみられるかどうかについては,ほとんど検討されていない。DCCT/EDICにおける検討では,アルブミン尿の退縮は心血管疾患を減少させなかった。
今回のFinnDiane Studyでは,微量あるいは顕性アルブミン尿の患者の23%において病期が1段階ずつ改善し,糖尿病腎症の退縮は非進展例と同等レベルに心血管疾患のリスクを低下させることが示唆された。これらの結果は,顕性アルブミン尿の患者では必ずしもRAAS (renin-angiotensin-aldosterone system)阻害薬の使用とは関連がなく(88% vs. 84%),微量アルブミン尿の患者では退縮を示した患者で53% vs. 65%とむしろ低率であり,特定はできないが好ましい健康状態にあったと想定される。いずれにしても,1型糖尿病患者の心血管予後を改善するためには,アルブミン排泄率をできるだけ正常に近づける努力が重要である。【片山茂裕】
●目的 | 1型糖尿病患者において,アルブミン尿の退縮を評価し,心血管イベントおよび全死亡/心血管死に対するアルブミン尿の退縮の影響を検討した。 |
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●デザイン | 観察研究。 |
●試験期間 | 追跡期間は14.0年(中央値)。 |
●対象患者 | ベースラインの24時間尿サンプルおよびアルブミン尿既往のデータが得られた≧18歳の1型糖尿病患者3,642例。 登録基準:発症時年齢≦40歳,診断後1年以内に永続的にインスリン治療を開始した者。 除外基準:末期腎疾患。 |
●方法 | アルブミン排泄率(AER)に基づき,ベースラインの正常群(2,729例),微量アルブミン尿群(438例),顕性アルブミン尿群(475例)に分類。Cox回帰分析により,AERカテゴリーが上位から下位に変更した場合に,アルブミン尿の退縮とした。 追跡期間中の心血管イベント(心筋梗塞,脳卒中,冠動脈インターベンション)および死亡に対する退縮の影響を評価した。 |
●結果 | 微量アルブミン尿群の102例(23.3%),顕性アルブミン尿群の111例(23.4%)でアルブミン尿の退縮を認めた。 ベースライン時に心血管イベントのない3,449例において,正常群に対する心血管イベントの年齢調整ハザード比(HR)は,微量アルブミン尿からの退縮例で1.42(95%CI 0.75-2.68),微量アルブミン尿維持例で2.62(95%CI 1.95-3.54),顕性アルブミン尿からの退縮例で3.15(95%CI 2.02-4.92),顕性アルブミン尿維持例で5.49(95%CI 4.31-7.00)であった。 全死亡/心血管死についての正常群に対する年齢調整HRは,微量アルブミン尿からの退縮例で1.32(95%CI 0.65-2.69)/1.41(95%CI 0.51-3.87),微量アルブミン尿維持例で2.87(95%CI 2.11-3.91)/3.21(95%CI 2.09-4.93),顕性アルブミン尿からの退縮例で3.86(95%CI 2.55-5.83)/4.31(95%CI 2.41-7.68),顕性アルブミン尿維持例で7.22(95%CI 5.69-9.14)/9.90(95%CI 7.14-13.7)であった。 |
●結論 | 糖尿病腎症の進展は心血管疾患および死亡のリスクを上昇させ,糖尿病腎症の退縮は非進展例と同等レベルにリスクを低下させることが示唆された。 |
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