欧米ではアルツハイマー病が認知機能低下の最大の原因疾患であり,糖尿病がそのリスク因子であることもよく知られている。インスリン抵抗性が認知機能低下に関連することを示す横断研究はいくつかあるが,縦断的研究は多くはない。そのうちの一つであるAtherosclerosis Risk in Communities(ARIC)[PubMed]では,空腹時インスリン濃度やHOMA-IRが3年後と9年後の認知機能低下と関連することが報告されている。
今回の検討により,空腹時インスリン濃度およびHOMA-IRは,前頭葉や側頭葉の機能を反映するとされている発話流暢性不良の独立した予測因子であることが示された。アルツハイマー病では,PETでみた前頭葉や側頭葉のブドウ糖利用の低下が報告されていることと一致し,興味深い。一方,アルツハイマー病では記憶力の低下が初期の症状ではあるが,今回の検討では記憶力と関連する単語リスト学習または単語リスト遅延想起と空腹時インスリンおよびHOMA-IRとの関連が明らかでなかった。対象が比較的若かったことが原因の可能性もあり,より長期の詳細な検討が必要であろう。【片山茂裕】
●目的 | フィンランドの健康診断の参加者において,インスリン抵抗性が認知機能低下の独立した予測因子であるかを検討した。 |
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●デザイン | 集団ベース研究。 |
●試験期間 | 追跡期間は11年。 |
●対象患者 | 2000年と2011年の健康診断に参加したフィンランドの一般住民3,695例。2000年調査時の平均年齢49.3歳,女性55.5%。 |
●方法 | 認知機能の予測因子としてのインスリン抵抗性(HOMA-IRで評価),空腹時インスリン濃度,空腹時血糖値,HbA1c,hs-CRPを評価。 発話流暢性カテゴリー,単語リスト学習,単語リスト遅延想起により認知機能を評価した。 |
●結果 | 年齢,性別,教育レベル,アポリポタンパク質Eε4(APOEε4)遺伝子型,2型糖尿病,BMI,収縮期血圧,HDLおよび非HDL-コレステロール,トリグリセリドを調整後,ベースラインのHOMA-IR高値と空腹時インスリン高値は発話流暢性不良の独立した予測因子であり(いずれもp=0.0002),追跡期間中の有意な発話流暢性低下と関連したが(いずれもp=0.004),単語リスト学習または単語リスト遅延想起との有意な関連は認めなかった。 認知検査では,HOMA-IRとAPOEε4遺伝子型,hs-CRP,2型糖尿病に相互作用は認めなかった。 ベースラインの空腹時血糖値,hs-CRPは認知機能との関連を認めなかった。 |
●結論 | 空腹時インスリン高値とインスリン抵抗性は発話流暢性不良の予測因子であった。 |
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