現在,糖尿病臨床でもっとも汎用されているDPP-4阻害薬であるが,これまでの米国での臨床研究では心血管イベントを抑制する結果が得られていない。悪影響を及ぼす可能性は否定されているので臨床上の使用に何ら問題はないが,基礎研究の成果から心血管合併症に対して何らかの臨床効果が出るのではという期待もあったのは事実である。
本研究はインスリンを使用している,すなわち糖尿病患者のなかでも比較的合併症リスクの高い患者群においてDPP-4阻害薬sitagliptinを検討したものであり,本剤が動脈硬化の進展を抑制することを示した点が画期的である。つまり,これまでの臨床研究よりも長期にフォローすればイベント抑制効果も期待しうることを示している。実際にGLP-1受容体作動薬の注射製剤では心血管イベント抑制効果も報告されていることから,DPP-4阻害薬についても今後,長期の観察により同様の結果が得られることが大いに期待される。ただし,本研究ではDPP-4阻害薬がどのように動脈硬化抑制に作用したのかが明らかにされておらず,その点は今後の課題として残る。【西尾善彦】
●目的 | インスリン治療を行っている2型糖尿病患者において,頸動脈内膜中膜壁肥厚(IMT)に対するsitagliptin追加の効果を検討した。 主要評価項目は総頸動脈の平均IMTおよび最大IMT。 |
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●デザイン | PROBE(prospective,randomized,open-label,blinded-endpoint),多施設(日本12施設)。 |
●試験期間 | 追跡期間は104週。 |
●対象患者 | インスリン治療を行っている心血管疾患(CVD)既往のない2型糖尿病患者282例。平均年齢sitagliptin群63.8/対照群63.6歳,男性61/60%,高血圧55/63%,脂質異常症66/61%,糖尿病罹病期間17.2/17.3年,インスリン注射回数2.9/2.9回/日。 登録基準:運動/食事療法およびDPP-4阻害薬以外の糖尿病治療薬に加え,インスリン治療で3ヵ月以上の目標血糖コントロールが得られない者,≧30~<80歳。 除外基準:1型/二次性糖尿病,重度感染症・手術前後・重度外傷,心筋梗塞・狭心症・脳卒中・脳梗塞の既往,網膜症の既往/1年以内の治療歴,中等度~重度腎機能障害,重度肝機能障害,中等度~重度心不全,インクレチン製剤による治療中,インクレチン製剤の併用が禁忌の薬剤,妊娠・授乳。 |
●方法 | 対象患者をsitagliptin群(25mg1日1回投与,142例),対照群(140例)にランダム化し,インスリンに追加投与した。 治療グループ,時間(週),治療グループと時間の相互作用,ベースラインIMTを固定効果として,反復測定混合効果モデルで主要評価項目を解析した。 |
●結果 | sitagliptin群は対照群に比し,104週後のHbA1c低下度が大きく(-0.5±1.0 vs. -0.2±0.9%,p=0.004),低血糖エピソードや体重の増加は認めなかった。 sitagliptin群は対照群に比し,平均IMT変化度(-0.029 vs. 0.024mm,p=0.005)と左最大IMT変化度(-0.065 vs. 0.022mm,p=0.021)が有意に大きかったが,右最大IMT変化度には有意差を認めなかった(-0.007 vs. 0.027mm,p=0.45)。 |
●結論 | インスリン治療を行っているCVD既往のない2型糖尿病患者において,sitagliptin追加により頸動脈IMTの進展が抑制された。 |
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糖尿病トライアルデータベースは2001年にオープンしました。現在までに,1283件のトライアルを収載しています。