GLP-1受容体作動薬liraglutideにより前糖尿病から糖尿病への移行が抑制されることを示した重要な研究である。これまでもmetformin,acarbose,voglibose,pioglitazone等は耐糖能異常(IGT)から糖尿病への移行を抑制することが報告されている。acarboseとvogliboseではIGTから糖尿病を発症するハザード比をそれぞれ0.75,0.595に減少させ,pioglitazoneは0.28に減少させた。また,DPPでは,糖尿病の発症を,ライフスタイルの修正は58%,metforminは31%減少させた。被験対象は,従来の研究ではIGTであるが,本研究では前糖尿病でやや異なるが,得られたハザード比0.21は他の研究に比較して効果は大きい。しかし,本研究では中止・脱落が約50%あり,結果の解釈には注意を要する。なお,有害事象による中止はliraglutide群で13%,プラセボ群で5%であった。
糖尿病特有の細小血管障害は血糖コントロールと密接な関係があり,HbA1c<7%がこれらの合併症を防ぐ基準である。一方,糖尿病特有ではないが糖尿病により促進される動脈硬化性疾患の治療は糖尿病が発症する前のIGT,前糖尿病の時期からの介入が必要と考えられる。これらの早期介入にはライフスタイルの改善が重要であることは示されており,薬物治療による介入の場合には,有効性と安全性のみならず,費用も考慮しなければならない。
わが国では,vogliboseについては一定の条件下でIGTに対して適応が認められている。【景山 茂】
●目的 | 肥満の前糖尿病患者において,2型糖尿病発症までの期間と体重減少に対する3年間のliraglutideの効果および安全性を検討した。 主要評価項目は2型糖尿病発症までの期間。 |
---|---|
●デザイン | 第IIIa相,無作為,二重盲検,プラセボ対照,多施設(欧州,北米,南米,アジア,アフリカ,オーストラリア27ヵ国,191施設)。 |
●試験期間 | 試験期間は2011年6月1日~2015年3月2日。追跡期間は3年。 |
●対象患者 | 2254例:肥満の前糖尿病患者。前糖尿病の診断は,HbA1c 5.7~6.4%,空腹時血糖5.6~6.9 mmol/L,2時間値7.8~11.0 mmol/Lを少なくとも1つ満たす者。 登録基準:≧18歳,BMI≧30kg/m2またはBMI≧27kg/m2+脂質異常症/高血圧。 除外基準:1型または2型糖尿病,体重に影響する薬剤,肥満手術,膵炎の既往,大うつ病または他の重度精神疾患,多発性内分泌腫瘍症2型または家族性甲状腺髄様がんの家族歴または既往。 |
●方法 | 対象患者をliraglutide 3.0mg/日(分1)皮下注射群(1505例),プラセボ群(749例)に2:1にランダム化。 全例に低カロリー食事療法と運動療法を実施した。 |
●結果 | liraglutide群714例(47%),プラセボ群412例(55%)が脱落後,1128例(50%)が160週の試験を完遂した。 160週後までに2型糖尿病と診断されたのはliraglutide群26/1472例(2%),プラセボ群46/738例(6%)であった。ランダム化から診断までの期間は,liraglutide群99±47週,プラセボ群87±47週であった。 治療群間で診断頻度が異なることを考慮すると,全患者における160週間の2型糖尿病発症までの期間は,liraglutide群でプラセボ群より2.7倍に延長し(95%CI 1.9-3.9,p<0.0001),ハザード比0.21に相当した(95%CI 0.13-0.34)。 160週後の体重減少率は,liraglutide群ではプラセボ群より有意に高かった(Liraglutide群-6.1±7.3 vs. プラセボ群-1.9±6.3%;推定治療差-4.3%,95%CI -4.9 to -3.7,p<0.0001)。 重篤な有害事象は,liraglutide群227/1501例(15%),プラセボ群96/747例(13%)であった。 |
●結論 | 脱落例は追跡はできなかったが,肥満の前糖尿病患者において3年間のliraglutide 3.0mg治療により糖尿病リスクが低下することが示唆された。 |
-
◤ 今月の注目文献
6/15更新
-
◤ 過去の注目文献
6/15更新
-
◎ 更新情報
6/15更新
Neuen BL, et al.―慢性腎臓病または心血管リスクが高い2型糖尿病患者における,SGLT2阻害薬の高カリウム血症リスクに対する効果
-
糖尿病トライアルデータベースは2001年にオープンしました。現在までに,1283件のトライアルを収載しています。