異所性脂肪蓄積が心臓に起こると心疾患血管を惹起し,肝臓ではNAFLD/NASHを惹起することはよく知られている。GLP-1受容体作動薬であるexenatide投与群とプラセボ投与群で,MRIとプロトン磁気共鳴スペクトロスコピーを用いて非侵襲的に心臓・肝臓・膵臓のトリグリセリド含量を測定した今回の報告は大変興味深く,臨床的意義が大きいものである。
心外膜脂肪組織(EAT)は2型糖尿病患者における心血管疾患に関連していることが報告されている。exenatide投与群でプラセボ群に比べてEATが9%と中等度に減少しているが,もっと長期間観察できればさらに大きな減少が得られと期待される。外科的にEATを除去すると動脈硬化の進行を遅らせうることがすでに証明されているので,今後の臨床試験が待たれる。
肝臓における肝トリグリセリド量(HTGC)のexenatide投与群での低下は体重減少と関連しているが,体重減少と独立した作用も想定されている。GLP-1受容体作動薬であるliraglutideは少量のインスリンで肝臓での糖新生を抑制し,すなわちインスリン感受性を高めて脂肪の産生を抑制する。加えてGLP-1受容体作動薬の酸化ストレス抑制作用,抗炎症作用,endoplasmic stressの抑制作用やFGF21への作用なども報告されている。また肝細胞のオートファジーを介した生存延長や腸内細菌叢の改善などの可能性も推測されている。
ただ今回の検討では膵トリグリセリド量(PTGC)の変化は見られず,組織によってGLP-1受容体作動薬の作用が異なることも示唆されており,今後のさらなる検討が必要であろう。【片山茂裕】
●目的 | 肥満の2型糖尿病患者において,異所性脂肪蓄積に対するGLP-1受容体作動薬exenatideの効果を検討した。 主要評価項目は,26週後の心外膜脂肪組織(EAT),心筋トリグリセリド量(MTGC),肝トリグリセリド量(HTGC),膵トリグリセリド量(PTGC)。 |
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●デザイン | 無作為。 |
●試験期間 | 登録期間は2011年1月~2015年1月。治療期間は26週。 |
●対象患者 | 44例:経口糖尿病治療薬でコントロール不良の肥満2型糖尿病患者。平均HbA1c 7.5±0.2%,平均BMI 36.1±1.1kg/m2。 登録基準:≧18歳,HbA1c 6.5~10%,BMI≧30kg/m2,3ヵ月間の体重が安定している者,少なくとも3ヵ月間は血糖降下薬の用量が変更されていない者。 除外基準:GLP-1受容体作動薬服用歴,チアゾリジン薬,コルチコイド投与中,既知の肥満症治療,3ヵ月以内の急性冠症候群または不安定狭心症,最近のケトアシドーシス,飲酒量>20g/日(女性)または>30g/日(男性)。 |
●方法 | exenatide 10μg/日(分2)群(22例),対照群(22例)にランダム化。 対照群ではフランスのガイドラインに準拠した強化治療を実施した。 3T磁気共鳴画像法とプロトン磁気共鳴スペクトロスコピーにより,標準食摂取後45分時のEAT,MTGC,HTGC,PTGCを評価した。 |
●結果 | ベースラインでは95%に脂肪肝(HTGC≧5.6%)を認めた。 exenatide群と対照群で,26週後のHbA1c低下度は同等であったが(-0.7±0.3% vs -0.7±0.4%,p=0.29),体重減少はexenatide群で有意に大きかった(-5.5±1.2kg vs -0.2±0.8kg,p=0.001)。 exenatide群は対照群に比し,EAT減少度(-8.8±2.1% vs -1.2±1.6%,p=0.003),HTGC減少度(-23.8±9.5% vs +12.5±9.6%,p=0.007)が有意に大きかったが,PTGCとMTGCには有意差を認めなかった。 exenatide群におけるHTGCおよびEATの減少は体重減少と有意に関連したが(HTGC:r=0.47,p=0.03,EAT:r=0.50,p=0.018),インスリン抵抗性指数,アディポネクチン,HbA1c,フルクトサミンの変化とは有意な関連を認めなかった。 |
●結論 | 肥満の2型糖尿病患者において,exenatideはHTGCとEATの減少に有効であり,この効果は主に体重減少依存性であることが示された。 |
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糖尿病トライアルデータベースは2001年にオープンしました。現在までに,1283件のトライアルを収載しています。