高血糖と高血圧が糖尿病腎症や網膜症のリスク因子となることはよく知られている。これらの細小血管障害の発症予防や進展抑制には,高血糖と高血圧の治療が重要であることは言をまたないが,低血糖や低血圧の問題から厳格なコントロールにも限度がある。そこで,残余リスク,とくに脂質の管理に目が向けられるが,トリグリセリドが腎症の進展に関与するとの成績はいくつかあるものの,HDL-コレステロールの意義は不明であった。
本研究は後ろ向きの検討であるが,トリグリセリド値が高いほど,またHDL-コレステロール値が低いほど細小血管障害のリスクと関連することが示された。すなわち,トリグリセリド値が44.4mg/dL増加するごとに細小血管障害リスクは16%上昇し,HDL-コレステロール値が8.9mg/dL増加するごとに細小血管障害リスクは8%低下した。これらの因子は,細小血管障害のうち,とくに腎症の進展リスクとなることが明らかにされたといえる。網膜症についても同様の傾向と考えられるが,腎症に比べるとその関連性は弱かった。その原因として,血液と網膜とのバリアーが血漿リポ蛋白の漏出を弱め,その影響が減弱するためである可能性が考えられる。【片山茂裕】
●目的 | 2型糖尿病でLDL-C≦130mg/dLの患者において,HDL-C低値およびトリグリセリド高値は,独立して糖尿病腎症または網膜症と関連するかを検討した。 |
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●デザイン | 症例対照研究,多施設(24施設,13ヵ国)。 |
●試験期間 | 登録期間は1990~2009年,追跡期間は2008~2010年。 |
●対象患者 | 2,535例:2型糖尿病で細小血管障害を伴う患者(腎症1,891例,網膜症/黄斑症1,202例)。 対照は,腎症または網膜症などの細小血管障害を伴わない2型糖尿病患者で,症例に対して年齢,性別,糖尿病罹病期間,LDL-Cをマッチングさせた3,683例。 登録基準:2型糖尿病,40歳以上,LDL-C≦130mg/dL。 |
●方法 | トリグリセリドまたはHDL-Cのそれぞれ五分位の線形スコアリング(linear scoring triglyceride/HDL-C quintiles)(0~4スケール)を用いて,細小血管障害(糖尿病腎症,網膜症/黄斑症のいずれか)のオッズ比(OR)を求めた。さらに糖尿病腎症,網膜症/黄斑症それぞれへの影響について,スタチン治療,高血圧,HbA1cにより調整後のOR,さらにHDL-Cとトリグリセリドの相互作用も含めた調整後のORを求めた。 |
●結果 | 五分位の線型スコアリングを用いた評価では,トリグリセリドが0.5mmol/L(1/5分位,44.4mg/dLに相当)増加するごとに,細小血管障害リスクは上昇し(OR 1.16,95%信頼区間1.11-1.22),HDL-Cが0.2mmol/L(1/5分位,8.9mg/dLに相当)増加するごとに,細小血管障害リスクは低下した(OR 0.92,0.88-0.96)。 細小血管障害を個別に評価すると,糖尿病腎症リスクは,同じくトリグリセリドが0.5mmol/L増加するごとに上昇し(調整OR 1.23,1.16-1.31),HDL-Cが0.2mmol/L(1/5分位)増加するごとに低下した(OR 0.86,0.82-0.91)。トリグリセリドとHDL-Cの相互調整後の値は,それぞれOR 1.20(1.13-1.28),0.92(0.87-0.97)であった。 糖尿病網膜症リスクについては,未調整(対照をマッチさせたのみ)の解析では有意な関連が認められたが,高血圧およびHbA1cなどで調整後には有意性が消失し,トリグリセリドが0.5mmol/L増加するごとの調整ORは1.04(0.98-1.11),HDL-Cが0.2mmol/L増加するごとの調整ORは0.97(0.90-1.05)となった。トリグリセリドとHDL-Cの比率も,網膜症リスクとの関連を認めなかった(OR 1.04,0.98-1.11)。 |
●結論 | LDL-Cコントロールが良好な患者において,糖尿病腎症はトリグリセリド高値およびHDL-C低値と独立した有意な関連を認めたが,糖尿病網膜症とトリグリセリドおよびHDL-Cとの関連は弱かった。 |
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糖尿病トライアルデータベースは2001年にオープンしました。現在までに,1283件のトライアルを収載しています。