糖尿病腎症は心血管イベントや末期腎不全のハイリスクであり,高血圧やLDL-Cの治療がこれらのイベントの発症を減少させることが示されてきた。腎症における貧血もこれらのイベントの危険因子であり,エリスロポエチン製剤による貧血の治療は,輸血の必要性を低下させ,QOLを改善することが知られている。しかし,本当にエリスロポエチン製剤が心血管イベントや末期腎不全のリスクを低減させるかどうかはまだ証明されていない。
TREAT(Trial to Reduce Cardiovascular Events with Aranesp Therapy)試験は,慢性腎疾患で貧血を有する2型糖尿病患者を対象とし,エリスロポエチン製剤であるdarbepoetin α(Aranesp)群(Hbが13g/dLになるよう投与)と,対照群(Hbが9g/dL以下になった時にのみ同薬を投与)において,全死亡,心血管イベント,末期腎不全の発症までの時間を一次エンドポイントとした無作為化比較試験である。
驚くべきことに,死亡+心血管イベント,死亡+末期腎不全は両群で差がなく,致死的+非致死的脳血管障害は,darbepoetin群で対照群に比べてそのハザード比が1.92倍となった。収縮期血圧は134mmHgと両群で差がなく,拡張期血圧はわずかな差(73 vs. 71mmHg)があったが,この血圧差では説明できないかもしれない。
慢性腎疾患患者を対象とし,Epoetin α製剤を用いて,目標Hbを13.5g/dLに設定した群と11.3g/dLに設定した群を比べたCHOIR (Correction of Hemoglobin and Outcomes in Renal Insufficiency. N Engl J Med. 2006; 355: 2085-98. [PubMed])試験でも,脳血管障害は多発していないものの,心血管イベントのハザード比が前者で1.34倍になり,途中で中止されている。
エリスロポエチン製剤は,悪性腫瘍などを合併した場合に腫瘍を進展させるとの危惧が従来から示されていた。そのような場合を除くと,対照群のない小規模な試験をもとに,エリスロポエチン製剤は好ましいものと考えられてきた。今後は,エリスロポエチン製剤による貧血の治療のリスクとベネフィットを,個々の症例においてよく考慮する必要があるだろう。【片山茂裕】
●目的 | 慢性腎疾患で貧血を有する2型糖尿病において,エリスロポエチン製剤darbepoetin alfaの臨床アウトカムへの効果を検討した。 一次エンドポイントは全死亡+心血管イベント(非致死性心筋梗塞,うっ血性心不全,脳卒中,心筋虚血による入院),全死亡+末期腎疾患。 |
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●デザイン | 無作為,二重盲検,プラセボ対照,多施設(24ヵ国,623施設)。 |
●試験期間 | 登録期間は2004年8月25日~2007年12月4日。2009年3月28日試験終了。追跡期間は29.1ヵ月(中央値)。 |
●対象患者 | 4038例:慢性腎疾患で貧血を有する2型糖尿病患者。平均68歳。女性57.3%。 採用基準:推定糸球体濾過量20~60mL/分/1.73m²,ヘモグロビン値≦11.0g/dL,トランスフェリン飽和度≧15%。 除外基準:コントロール不良高血圧,腎移植の既往または生体血縁ドナーからの腎移植予定,抗生物質静注・化学療法・放射線治療中,癌,HIV感染,出血,血液疾患,妊娠,12週以内の心血管イベント・痙攣大発作・手術・ESA投与。 |
●方法 | darbepoetin alfa群(2012例),プラセボ群(2026例)にランダム化。 ・darbepoetin alfa群では,ヘモグロビン値13g/dL維持を目標とした。 ・プラセボ群では,ヘモグロビン値<9.0g/dLの場合にdarbepoetin alfaを投与。 |
●結果 | 全死亡+心血管イベントの発生は,darbepoetin alfa群632例,プラセボ群602例(ハザード比[HR]1.05,95%CI 0.94-1.17,p=0.41)。全死亡+末期腎疾患の発生は,それぞれ652例,618例(HR 1.06,95%CI 0.95-1.19,p=0.29)。 darbepoetin alfa群では,致死的または非致死的脳卒中が増加し(101 vs. 53例;HR 1.92,95%CI 1.38-2.68,p<0.001),赤血球輸血は有意に少なく(297 vs. 496例;HR 0.56,95%CI 0.49-0.65,p<0.001),患者報告による倦怠感が改善した。 |
●結論 | 慢性腎疾患で貧血を有する2型糖尿病患者において,darbepoetin alfaによる臨床アウトカム改善は認められず,脳卒中リスクが増大した。 |
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Neuen BL, et al.―慢性腎臓病または心血管リスクが高い2型糖尿病患者における,SGLT2阻害薬の高カリウム血症リスクに対する効果
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糖尿病トライアルデータベースは2001年にオープンしました。現在までに,1283件のトライアルを収載しています。