循環器トライアルデータベース

EMPEROR-Preserved
Empagliflozin Outcome Trial in Patients with Chronic Heart Failure with Preserved Ejection Fraction

目的 左室駆出率(LVEF)の低下した心不全(HFrEF)患者を対象に行われたEMPEROR-Reduced試験では,心不全の標準治療へのSGLT2阻害薬empagliflozinの追加はプラセボにくらべ,糖尿病の有無にかかわらず,心不全の悪化および心血管死リスクを低下させた。ただし,駆出率の保たれた心不全(HFpEF)に対する有効性は不明である。本試験では,HFpEF患者において,empagliflozinの有効性を検討した。

一次エンドポイントは,心血管死+心不全による入院の複合。
コメント SGLT2阻害薬が糖尿病の有無にかかわらずHFrEF患者の予後改善に有効であることは,複数の大規模臨床試験(DAPA-HFEMPEROR-Reduced)で確立されたが,HFpEF に対して有効か否かは疑問であった。今回,EMPEROR-Preserved 試験でempaglifrozinが初めてその有効性を示したことは画期的である。本試験は,心血管死と心不全による入院の複合エンドポイントで評価しているが,心血管死の抑制効果は小さく(HR 0.92),統計学的には有意には至っていないことに留意する必要がある。しかし,左室駆出率の層別でみても有効性は一貫していること,eGFRで評価した腎機能の低下速度はプラセボ群より緩徐であり,腎保護作用が示唆されていることは,本剤の有用性を支持するものと考えられる。他のSGLT2阻害薬でも同様の成績が得られることを期待したい。(
デザイン ランダム化,二重盲検,プラセボ対照,多施設(23ヵ国,622施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間中央値26.2ヵ月。
登録のためのスクリーニング期間は2017年3月27日~2020年4月13日。
対象患者 5,988例。18歳以上,NYHA心機能分類II~IV,LVEF>40%のHFpEF患者で,NT-proBNP>300pg/mL(心房細動を有する場合は>900pg/mL)の症例。
おもな除外基準:心不全と関係なく臨床経過を変えうる疾患を有するなど。

■登録時患者背景:平均年齢はempagliflozin群71.8歳,プラセボ群71.9歳,各群の女性44.6%,44.7%。NYHA心機能分類II 81.1%,81.9%,III 18.4%,17.8%,IV 0.3%,0.3%。平均SBP 131.8 mmHg,131.9 mmHg。平均LVEF 54.3%,54.3%。NT-proBNP中央値994 pg/mL,946 pg/mL。平均eGFR 60.6 mL/分/1.73 m²,60.6 mL/分/1.73 m²。12ヵ月以内の心不全による入院23.3%,22.4%,心房細動51.5%,50.6%,糖尿病48.9%,49.2%,高血圧90.8%,90.4%。
治療法 地域,糖尿病の状態,eGFR(<60または≧ 60 mL/分/1.73 m²),LVEF(<50または≧ 50%)による層別化後,empagliflozin群(2,997例):10mg/日またはプラセボ群(2,991例)に1:1の比でランダム化。
いずれも心不全標準治療への追加投与。
結果 [一次エンドポイント:心血管死+心不全による入院の複合]
empagliflozin群は415例(13.8%)と,プラセボ群511例(17.1%)にくらべ,有意に低下した[ハザード比(HR)0.79,95%CI 0.69-0.90,P<0.001]。
これはおもに心不全による入院リスクが抑制されたことによるものであった。
心血管死:HR 0.91,95%CI 0.76-1.09。
心不全による入院:HR 0.71,95%CI 0.60-0.83。
empagliflozinによる一次エンドポイント抑制効果は,糖尿病の有無にかかわらず一貫していた(糖尿病患者:HR 0.79,0.67-0.94,非糖尿病患者:HR 0.78,0.64-0.95)。

[二次エンドポイント:心不全による全(初回および再)入院,二重盲検治療期間のeGFR低下率]
心不全による入院はempagliflozin群407件で,プラセボ群541件にくらべ,有意に少なかった(HR 0.73,95%CI 0.61-0.88,P<0.001)。
eGFRの低下率(/年)はempagliflozin群(-1.25 mL/分/1.73 m²)で,プラセボ群(-2.62 mL/分/1.73 m²)より低下がゆるやかであった(P<0.001)。

[安全性]
重篤な有害事象はempagliflozin群1,436例(47.9%),プラセボ群1,543例(51.6%)に発生した。治療の中止に至った有害事象はそれぞれ571例(19.1%),551例(18.4%)。
empagliflozin群ではプラセボ群にくらべ,合併症を伴わない生殖器/尿路感染症および低血圧が多く認められた。


★結論★ 心不全に対する推奨療法を受けているHFpEF患者において,2型糖尿病の有無にかかわらず,empagliflozin群はプラセボ群にくらべ,心血管死+心不全による入院のリスクを有意に抑制。
ClinicalTrials. gov No: NCT03057951
文献
  • [main]
  • Anker SD, et al.; EMPEROR-Preserved Trial Investigators: Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2021; 385: 1451-1461. Epub 2021 Aug 27. PubMed
  • [substudy]
  • empagliflozinの心血管死/心不全による入院リスクまでの時間を短縮させる効果は,ベースライン時のカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)の数値にかかわらず一貫していた(<62.5点:HR 0.83,95%CI 0.69-1.00,62.5~83.3点:HR 0.70,0.55-0.88,≧83.3点:HR 0.82,0.62-1.08,傾向P=0.77)。心不全による総入院についても同じような結果がみられ,empagliflozin群のKCCQ臨床サマリースコアはプラセボ群にくらべ,12週時+1.03点,32週時1.24点,52週時+1.50点改善した(P<0.01)。症状スコア,全体スコアについても同様であった。
    12週時のKCCQ-CSS,臨床サマリースコアは,empagliflozin群はプラセボ群にくらべ,5点以上の上昇(1.2,1.10-1.37),10点以上の上昇(1.15,1.03-1.27),15点以上の上昇(1.13,1.02-1.26)のORが高く,5点以上の低下(0.85,0.75-0.97)のORが低かった。32週時,52週時も同様の結果がみられた。 PubMed
  • empagliflozin群はプラセボ群に比べ,心不全悪化リスク(心血管死,心不全による入院,静脈内治療を要する心不全の緊急/応急通院の複合)を抑制した(HR 0.77,95%CI 0.67-0.87,P<0.0001)。このベネフィットは,ランダム化18日後に統計学的に有意となった。また,empagliflozin群は集中治療を必要とする心不全入院の総数(HR 0.71,95%CI 0.52-0.96,P=0.028),昇圧薬/強心薬静注を必要とする入院の総数(HR 0.73,95%CI 0.55-0.97,P=0.033)を抑制した。
    Packer M, et al. Effect of Empagliflozin on Worsening Heart Failure Events in Patients With Heart Failure and Preserved Ejection Fraction: EMPEROR-Preserved Trial. Circulation. 2021; 144: 1284-94. PubMed

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収載年月2021.09
更新年月2021.12