 |
新しいクラスの心不全治療薬として注目されている選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbilは,左室駆出率(LVEF)の低下した慢性心不全(HFrEF)患者において,選択的に心筋サルコメアを増加させることにより心筋収縮能を改善する作用をもつとされている。 これまでのomecamtiv mecarbilの試験では同薬のHFrEF患者における心機能改善効果は認められたが,心血管転帰に対する効果については検証されていない。 GALACTIC-HF試験では,心不全の標準治療を受けているHFrEF患者へのomecamtiv mecarbil上乗せ投与が症状の改善,心不全イベント抑制,心血管(CV)死リスクを低減するという仮説を検証した。
一次エンドポイントは,初回の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)またはCV死の複合。 |
 |
 |
Omecamtiv mecarbilは,これまでの強心薬と異なり,細胞内Ca²⁺を動員しない究極の強心薬としてその効果が期待されていた。今回のGALACTIC-HF試験は8000例を超える大規模な国際共同試験であり,十分な対象患者数を長期間(21.8カ月)追跡した質の高い第III相試験といえる。その結果,初回の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)または心血管死の複合エンドポイントを有意に低下(HR 0.92, P =0.03)させたが,心血管死および全死亡はプラセボ群と比較して抑制できなかったことは残念である。 これまで慢性心不全の治療薬として開発された強心薬は,症状の改善,心不全入院の減少はみられるが,心血管死の増加が認められるため,低用量のジギタリス製剤を除いて慢性心不全の治療薬として認められていない歴史があった。本薬が心血管死を増加させないことが示されたことは新しい知見として特記すべきであるが,本試験ではICD が32%に装着されており,ICDにより不整脈死が一定数抑制されていた可能性がある。サブ解析において,ICD植え込み症例で本薬の有効性がプラセボ群に比し大きいように見受けられるのは,このデバイス治療により不整脈死が抑制された結果,本薬とプラセボの差が消失したのかもしれない。一方で,NYHA III/IV度の重症例や低駆出率例(LVEF <28%)で本薬の有効性が示されているのは本薬の強心作用がメリットとして働いていることを示唆する。しかし,心房細動患者には有効性が示されていないことも注目すべきであり,今後の詳細なサブ解析が必要である。明確に本薬の有効性を示すためには,対象症例の選択が厳密になされたうえで,新たな臨床試験が実施される必要があるかもしれない。(堀) |
 |
 |
無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(35カ国,945施設),intention-to-treat解析。 |
 |
 |
登録期間は2017年1月~2019年7月。 |
 |
 |
8256例(解析対象8232例)。18~85歳,NYHA心機能分類II~IV度,BNP上昇(BNP≧125 pg/mLまたはNT-proBNP≧400 pg/mL),LVEF≦35%の症候性慢性心不全で,登録時に入院中または登録前の1年間に心不全による救急外来受診歴か入院歴があり,現行ガイドラインに則った心不全標準治療を受けている者。 おもな除外基準:血行動態不安定,収縮期血圧<85 mmHg,eGFR<20 mL/分/1.73m²,最近の急性冠症候群イベントの既往または心臓デバイス植込み例など。
■患者背景:平均年齢65歳,女性21%,白人78%,入院患者の割合25.3%。- 登録時の主な併存症:冠動脈疾患62%,心房細動/粗動27%,高血圧70%,糖尿病40%
- 登録時の心不全治療の状況:ACE阻害薬/ARB/ARNI 87%,ARNI 19.4%,β遮断薬 94%,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 78%,ICD 32%,CRT 14%
- 登録時の心不全の状態(NYHA心機能分類):II度 53%,III/IV度 47%
- 登録時のLVEF平均値:27%
- 登録時の平均心拍数:72 bpm
- 登録時のKCCQ総合症状スコア(KCCQ-TSS)中央値:66
- 登録時のNT-proBNP値中央値:1971 pg/mL
|
 |
 |
現行のガイドラインが推奨する心不全の標準治療に加え,omecamtiv mecarbil(4120例)1日2回またはプラセボ(4112例)を経口投与する群に1:1の比でランダム化。 omecamtiv mecarbilは,薬物動態に応じて25 mg/回,37.5 mg/回,50 mg/回のいずれかを投与。 |
 |
 |
追跡期間中央値21.8カ月。
[一次エンドポイント:初回の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)またはCV死の複合] omecamtiv mecarbil(以下,OM)群1523例(37.0%)vs. プラセボ群1607例(39.1%)[ハザード比(HR)0.92; 95%信頼区間(CI)0.86~0.99; P =0.03]。OM群はプラセボ群にくらべ,心不全イベントまたはCV死の複合リスクを8%低下させた。
[二次エンドポイント:CV死/24週時点のKCCQ-TSSの変化量/心不全による初回入院/全死亡]- CV死:OM群808例(19.6%)vs. プラセボ群798例(19.4%); HR 1.01(95%CI 0.92~1.11; P =0.86)
- 24週時点のKCCQ-TSS変化量の平均群間差:〈入院患者〉2.5ポイント(95%CI 0.5~4.5)/〈外来患者〉-0.5ポイント(-1.4~0.5)。
- 心不全による初回入院:OM群27.7% vs. プラセボ群28.7%(HR 0.95)。
- 全死亡:25.9% vs. 25.9%(HR 1.00)。
[その他]- ベースラインから投与後24週のNT-proBNP値はOM群でプラセボ群にくらべ10%低下したが,収縮期血圧は変わらず,心拍数は軽度の低下であった。
★結論★ 左室駆出率が低下した慢性心不全患者に対するomecamtiv mecarbilの上乗せ投与は,プラセボにくらべ,心不全イベントおよび心血管死の複合リスクを低減させた。 ClinicalTrials. gov No: NCT02929329 |
 |
 |
- [main]
- Teerlink JR, et al for the GALACTIC-HF Investigators: Cardiac Myosin Activation with Omecamtiv Mecarbil in Systolic Heart Failure. N Engl J Med. 2021; 384: 105-116. PubMed
|
|
このサイトは国内外の循環器疾患の臨床試験や疫学調査の情報を集めた医療従事者向けのサイトです。日本では認可されていない治療法,保険適用外の治療法,国内では販売されていない医薬品に関する情報も含まれています。一般の方に対する医療情報提供を目的としたものではありません。
あなたは医療従事者ですか?
薬剤や治療法が有効であったとの論文上の記述の引用も,本サイトがその有効性を保証するものではありません。
サイト内で紹介する学説・情報等については,ライフサイエンス出版および提供会社が支持,推奨するものではありません。
サイト内の情報については正確を期しておりますが,薬の使用法や副作用情報は更新されることがありますので,ご留意下さい。
情報内容およびその利用により生じる一切の損害につき,ライフサイエンス出版および提供会社は責任を負いません。