循環器トライアルデータベース

DAPA-HF
Dapagliflozin And Prevention of Adverse-outcomes in Heart Failure

目的 糖尿病治療薬SGLT2阻害薬の心血管アウトカム試験として行われた臨床試験(EMPA-REG OUTCOMECANVAS ProgramDECLARE-TIMI 58など)において,同剤が心血管イベント(心血管死および心不全による入院)抑制効果をもつことが示された。これらの試験結果からSGLT2阻害薬の心保護作用に注目が集まったが,これまでの試験対象の多くは心不全を合併していない糖尿病患者であった。
DAPA-HF試験では,糖尿病の有無にかかわらず,左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)症例に対し,SGLT2阻害薬dapagliflozinが心血管アウトカムを改善するのか,安全性も含め検討した。

一次エンドポイントは,心不全の悪化(入院または経静脈投与を必要とする救急受診)および心血管死の複合。
コメント EMPA-REG OUTCOME試験,CANVAS Program試験,DECLARE試験において,SGLT2阻害薬が心不全入院及び心血管死を抑制することが示されたが,いずれも糖尿病患者を対象に実施された試験であった。DAPA-HF試験は,糖尿病合併の有無を問わず,HFrEF患者を対象に実施された試験であり,心不全の標準治療にdapagliflozinの上乗せ投与により,心血管死(HR:0.82)も心不全(HR:0.70)も糖尿病の有無に関わらず,ほぼ同等に抑制することが示された。また,QOLも有意に改善した。興味深いのはdapagliflozinの有効例はNYHA II度群の患者で多く,NYHA III,IV度の重症になるとdapagliflozinの有効性が低下した点である。これは,NTproBNPが中間値より低い症例で本剤が有効である傾向と一致する。NYHA III,IV度群にはICDやCRTを装着した症例が多く,それが重症例の悪化を抑制した可能性は否定できない。安全性については腎機能の悪化が懸念されたが,その懸念は払拭された。また,低血糖もまれであった。今回の試験は,dapagliflozinが心不全(HFrEF)治療薬として有効であることが示された画期的な成果といえよう。HFpEFに対する有効性はDELIVER試験にゆだねられているが,その結果に期待したい。(
デザイン 無作為割付け,二重盲検,多施設(20ヵ国,410施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間中央値18.2ヵ月。
登録期間は2017年2月~2018年8月。
対象患者 4744例。
≧18歳以上のHFrEF症例(LVEF≦40%,NYHA心機能分類II~IV度,NT-proBNP≧600 pg/mL*)で心不全の標準治療**を受けているもの。
* 直近12ヵ月間に心不全による入院歴がある症例はNT-proBNP≧400 pg/mL,心房細動または心房粗動症例はNT-proBNP≧900 pg/mL。
** 植込み型除細動器(ICD)または心臓再同期療法(CRT)などのデバイス治療および薬物治療[ACE阻害薬,ARB,β遮断薬など]。
除外基準:SGLT2阻害薬による治療を最近開始したものまたは同剤に関連する有害事象が認められたもの,1型糖尿病,低血圧または収縮期血圧<95 mmHg,推算糸球体濾過量(eGFR)<30 mL/分/1.73m²。
■患者背景:平均年齢66.35歳,女性23.4%,人種(白人70.3%,アジア系23.5%,黒人4.8%),ベースラインの平均LVEF 31.1%,NT-proBNP中央値(dapagliflozin群 1428 pg/mL vs. プラセボ群 1446 pg/mL)。
  • 登録時の既往歴:心不全による入院(dapagliflozin群47.4% vs. プラセボ群47.5%),心房細動(38.6% vs. 38.0%),糖尿病(45% vs. 45%)。
  • 登録時の主な心不全治療薬の使用:利尿薬(dapagliflozin群93.4% vs,プラセボ群93.5%),β遮断薬(96.0% vs. 96.2%),ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(71.5% vs. 70.6%),ACE阻害薬(56.1% vs. 56.1%),ARB(28.4% vs. 26.7%)など。
  • 登録時の主な血糖降下薬の使用:ビグアナイド系薬(50.8% vs. 51.7%),インスリン(27.6% vs. 26.9%),SU薬(23.0% vs. 21.2%)など。
治療法 dapagliflozin群(2373例):10mg/日またはプラセボ群(2371例)に1:1の比でランダム化。
いずれも標準治療への追加投与。
ランダム化後14日および60日時点で,心不全症状,体液状態,有害事象,腎機能,血清カリウム値を評価。
その後の評価は,4ヵ月ごとに実施。
結果 [一次エンドポイント:心不全の悪化または心血管死]
  • dapagliflozin群はプラセボ群にくらべ有意にリスクが減少した[dapagliflozin群386例(16.3%)vs. プラセボ群502例(21.2%); ハザード比(HR)0.74; 95%CI 0.65~0.85; P <0.001]。
  • 一次エンドポイントを構成する各エンドポイントでみても,発生はいずれもdapagliflozin群で低かった。最も多い心不全悪化のイベントは,入院[231例(9.7%)vs. 318例(13.4%); HR 0.70]。心血管死は,dapagliflozin群227例(9.6%)vs. プラセボ群273例(11.5%); HR 0.82。
  • 1エンドポイントあたりのNNTは,21。
  • dapagliflozinの有効性は,サブグループ解析においても一貫して示された。
  • dapagliflozinの有効性は,NYHA心機能分類II度の患者にくらべ,III度またはIV度の患者で低下した(HR:II度0.63/ III度またはIV度0.90)。
[一次エンドポイントにおける2型糖尿病合併 vs. 非合併の比較:サブグループ解析]
  • リスクの減少は,2型糖尿病合併の有無にかかわらず認められた[合併:dapagliflozin群215例 vs. プラセボ群271例,HR 0.75/ 非合併:171例 vs. 231例; HR 0.73]。
[主要な二次エンドポイント:心不全による入院および心血管死の複合]
  • dapagliflozin群はプラセボ群にくらべ有意に低かった(HR 0.75; 95%CI 0.65~0.85; P <0.001)。
[QOLの評価]
  • ベースラインから8ヵ月後までのKansas City Cardiomyopathy Questionnaire(KCCQ)のスコア変化は,プラセボにくらべ dapagliflozin群でより大きく,5ポイント以上のスコア上昇がみられた割合もdapagliflozin群で多かった[オッズ比(OR)1.15]。
0~100にスコア化され,心不全患者の健康状態を示す指標。高スコアほど心不全症状と身体活動制限が少ない。
[全死亡]
  • プラセボ群にくらべ,dapagliflozin群でリスクは減少した(HR 0.83; 95%CI 0.71~0.97)。
[安全性の評価:体液減少,腎イベント,重症低血糖,骨折,糖尿病ケトアシドーシス,足切断]
  • 治療を中断するような有害イベントはごくわずかであった。
  • 重度の体液減少:dapagliflozin群29例(1.2%)vs. 40例(1.7%),P =0.23。
  • 重度の腎イベント:38例(1.6%) vs. 65例(2.7%),P =0.009。

★結論★左室駆出率が低下した心不全患者において,心不全の標準治療へのSGLT2阻害薬dapagliflozinの追加は,糖尿病の有無にかかわらず,プラセボにくらべ心不全の悪化および心血管死のリスクを低下させた。
ClinicalTrials. gov No: NCT03036124
文献
  • [main]
  • McMurray JJV, et al.; DAPA-HF Trial Committees and Investigators: Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction. N Engl J Med. 2019; 381: 1995-2008. Epub 2019 Sep 19. PubMed
  • [substudy]
  • 追跡期間中央値18.2ヵ月において,プラセボ群2,371例のうち 318例(計469回), dapagliflozin群2,373例のうち230例(計340回)が心不全による入院を経験した。
    dapagliflozinによる心不全入院/心血管死の率比は0.75, 95%CI 0.65-0.88, P=0.0002(Lei-Wei-Yang-Yingモデル),0.81, 95%CI 0.67-0.98, P=0.0282(joint frailtyモデル)。
    Jhund PS, et al. Dapagliflozin and Recurrent Heart Failure Hospitalizations in Heart Failure With Reduced Ejection Fraction: An Analysis of DAPA-HF. Circulation. 2021; 143: 1962-72. PubMed
  • HFrEFに対するdapagliflozinの効果におけるベースラインの収縮期血圧(SBP)の影響は小さく,心不全増悪による入院およびCV死に対するベネフィットは,SBP値にかかわらず一貫して認められた。
    血圧低下による転帰不良への懸念がHFrEFに対する有益な治療を控える原因となっていることはしばしば指摘されるところだが,本解析では,HFrEF患者のベースラインの収縮期血圧(SBP)値がdapagliflozinに及ぼす影響を検討。
    ベースラインのSBP値により対象(4744例)を4つに層別化(カテゴリー①<110 mmHg,カテゴリー②≧110~<120 mmHg,カテゴリー③≧120 ~<130 mmHg,カテゴリー④≧130 mmHg)。SBP値はフォローアップ期間中,外来で定期的に測定(14, 60, 120, 240, 360日後,以後は4カ月ごと)。
    SBP値の各群の分布は,以下の通り; ①1205例(25.4%),②981例(20.7%),③1149例(24.2%),④1409例(29.7%)。
    一次エンドポイントは,心不全増悪による入院およびCV死の複合。
    [一次エンドポイント:心不全増悪による入院およびCV死の複合]
    • dapagliflozinの有効性および安全性は,すべてのSBPカテゴリーで認められた。また,SBPが低値であるほど一次エンドポイントの発生率は高かった(①発生率:dapagliflozin 15.9% vs. プラセボ20.6%; HR 0.76,②12.0% vs. 15.9%; HR 0.76,③11.0% vs. 13.4%; HR 0.81,④9.0% vs. 13.8%; HR 0.67)。
    • SBP値のカテゴリーごとにdapagliflozinのベネフィットを比較すると,SBP値がもっとも低い層の一次エンドポイント発生は,プラセボに比べ1000人・年あたり54人少なかったのに対し,もっとも高い層では36人と,dapagliflozinのベネフィットはSBP値が低い層でより得られることが示された。
    [安全性のエンドポイント:出血による再入院]
    • 治療中断率および有害事象は,SBP値のカテゴリーにかかわらず,dapagliflozin群とプラセボ群で同等。
    • 体液量減少に関連する有害事象は重篤なケースも含め,SBPカテゴリー④(<110 mmHg)を除いては,いずれのカテゴリーにおいてもプラセボ群での発生が多かった。
    Serenelli M,et al: Effect of dapagliflozin according to baseline systolic blood pressure in the Dapagliflozin and Prevention of Adverse Outcomes in Heart Failure trial (DAPA-HF). Eur Heart J. 2020; 40: 3402-18. PubMed
  • 左室駆出率が低下した慢性心不全患者に対するSGLT2阻害薬dapagliflozinの上乗せ投与は,心不全悪化によるイベントおよび心血管(CV)死の発生において,プラセボと比較して心不全の基礎治療の状況にかかわらず, 一貫して効果が認められた。
    本解析は,心不全の基礎治療(薬物療法,デバイス治療)がdapagliflozinの効果に影響を及ぼすかを,併用例も含めて検討した事後解析。心不全の基礎治療として,利尿薬,digoxin,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA),RAS系阻害薬(ACE阻害薬/ARB),β遮断薬,アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(sacubitril/valsartan),ivabradine,植込み型除細動器(ICD),心臓再同期療法(CRT)のいずれかを受けている患者およびそれらの併用例をそれぞれサブグループとして検討。
    さらに,RAS系阻害薬,β遮断薬,MRAについては,ガイドライン推奨量とイベントリスクとの関連についても解析。
    [一次エンドポイント:CV死,心不全悪化によるイベントの発生率の複合]
    プラセボと比較したdapagliflozin投与による一次エンドポイントにおけるベネフィットは,すべてのサブグループで一貫して認められた(HR 0.74; 95%CI 0.65~0.85; P <0.0001)。
    [RAS系阻害薬,β遮断薬,MRA投与量とCV死との関連]
    RAS系阻害薬(ACE阻害薬/ARB),β遮断薬,MRAのいずれにおいても,ガイドライン推奨量の多寡にかかわらず,dapagliflozinはプラセボにくらべCV死リスクを低減。
    〈RAS系阻害薬〉ガイドライン推奨量≧50%服用例のHR 0.64 / <50%服用例のHR 0.84。
    〈β遮断薬〉≧50%のHR 0.75 / <50%のHR 0.83。
    〈MRA〉≧50%のHR 0.79 / <50%のHR 0.96。
    [その他]
    〈QOLとの関連〉
    すべてのサブグループにおいて,基礎治療の内容いかんにかかわらず,プラセボと比較してdapagliflozin投与群でKCCQスコアの改善が認められた。
    Docherty KF, et al on behalf of the DAPA-HF Investigators and Committees: Effect of dapagliflozin in DAPA-HF according to background heart failure therapy. Eur Heart J. 2020; 41: 2379-92. PubMed
  • 75歳以上も含めた,若年から高齢までの幅広い年齢層において,心不全標準治療へのdapagliflozinの上乗せ投与は心血管死および心不全悪化のリスクを低減させ,症状改善に効果があることが認められた。
    事後解析。年齢カテゴリー別にdapagliflozinのリスク低減および症状改善効果を検討。対象は,22~94歳の4744例。平均年齢は,66歳。高齢層で女性,白人,欧州および北米での登録患者が多い傾向にあった。対象を年齢により,<55歳(636例; 13.4%),55~64歳(1242例; 26.2%),65~74歳(1717例; 36.2%),≧75歳(1149例; 24.2%)の4つに層別化。
    [一次エンドポイント:心血管死および心不全悪化(入院または救急外来受診)の複合]
    発生率は,<55歳:dapagliflozin群11.8/100人・年vs. プラセボ群13.6/100人・年(HR 0.87),55~64歳:11.4/100人・年 vs. 15.7/100人・年(HR 0.71),65~74歳:11.4/100人・年 vs. 15.1/100人・年(HR 0.76),≧75歳:12.6/100人・年 vs. 18.0/100人・年(HR 0.68)。
    [症状の改善]
    8カ月後のKCCQ-TSS(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire total symptom score)の変化
    ・KCCQ-TSSを5ポイント以上改善した割合はいずれの年齢層においてもプラセボにくらべdapagliflozin群で多く,5ポイント以上低下した割合はいずれの年齢層においてもdapagliflozin群の方が少なかった(それぞれの交互作用のP =0.96)
    [安全性]
    有害事象による試験中断は,いずれの年齢層においても両群で類似していた(≧75歳の場合:dapagliflozin群5.8% vs. プラセボ群5.9%)。
    有害事象のうち,体液減少の発生率は,dapagliflozin群1.2% vs. プラセボ群1.7%。腎イベント発生率は,1.6% vs. 2.7%であった。
    Martinez FA, et al: Efficacy and Safety of Dapagliflozin in Heart Failure With Reduced Ejection Fraction According to Age: Insights From DAPA-HF. Circulation. 2020; 141: 100-11. Epub 2019 Nov 17. PubMed

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収載年月2019.11
更新年月2021.05