循環器トライアルデータベース

J-DOIT3
Japan Diabetes Optimal Treatment Study for 3 Major Risk Factors of Cardiovascular Diseases

目的 2型糖尿病患者では血糖コントロールにより細小血管合併症リスクは抑制できる。しかし,正常HbA1cは重症低血糖リスクを上昇させ急性冠動脈疾患や致死的不整脈の誘因となり得るなど,血糖コントロールのみでは大血管イベントリスクの低下は十分ではないため,ガイドラインでは目標HbA1cを正常域より高い7.0%としている。
血圧コントロールで大・小血管合併症,スタチン治療で大血管合併症リスクが低下する。血圧については,日本糖尿病学会は目標降圧値を130/80mmHgとしているが世界的には議論が続いている。また,Steno-2から多因子(血糖,血圧,脂質)コントロールの2型糖尿病患者における大・小血管合併症に対する有効性が示されたものの,160例と小規模で達成HbA1cが高かった。
日本人2型糖尿病患者において,3因子(血糖,血圧,脂質[LDL-C])に対する厳格な統合的強化治療による血管合併症,死亡抑制の安全性,有効性を現行標準治療と比較する。

一次エンドポイントは,大血管イベント,全死亡の複合エンドポイント。
心筋梗塞(MI),CABG,経皮的冠動脈形成術(PTCA),脳卒中,頸動脈内膜切除術,経皮的脳血管形成術,頸動脈ステント。
コメント ■コメント 桑島 巌
■コメント 堀 正二

高血圧,高脂血症を合併している2型糖尿病患者において,血圧,LDL-C,HbA1cという3つのリスク因子を,ガイドラインで示されている標準目標値よりもさらに厳格に治療することが,脳心血管疾患発症をさらに抑制できるかという仮説が立てられ,わが国81医療機関から2542例が参加し,8.5年間追跡したオープンランダム化大規模臨床試験である。
結果は残念ながら,その仮説は否定的された。すなわち強化目標群の主要エンドポイント(心筋梗塞,脳卒中,総死亡)の発生に,従来目標群との間に有意な差は認められなかった。しかし,発生疾患の内訳をみてみると,心筋梗塞と総死亡には両群間に差は認めなかったが,脳卒中発症だけは強化治療群で有意に少なかった。
この結果は,同じく2型糖尿病患者において厳格降圧群(収縮期血圧<120mmHg)と従来降圧群(<140mmHg)とを比較し,冠動脈疾患発生には差はなかったものの脳卒中では強化降圧群が有意に少なかったというACCORD BP試験と類似した結果であった。
脳心血管合併症予防に関して,血圧,血糖およびコレステロール値という3大リスク因子のそれぞれがthe lower, the betterか否かが長い間の論争であった。しかし本試験の結果やSPRINT,ACCORDなどの結果をみると,強化療法と合併症予防の関係は,3つのリスク因子それぞれで異なることがより明確になってきた。
この結果は,2型糖尿病患者ではガイドラインが示すレベル以上の積極的なHbA1c低下と積極的脂質低下は大血管疾患を抑制しないことを示唆している。すなわち,血糖値とLDL-Cに関しては強力に低下させることが必ずしも心血管合併症につながらないが,血圧だけはthe lower the betterの関係が成立するようである。J-DOIT3試験では有意差には至らなかったものの,強化治療群のほうが19%も抑制したことには脳卒中抑制効果が複合エンドポイントの一つである脳卒中の抑制に大きく寄与したことが示される。
本試験は2006年から2009年に被検者のリクルートが開始され8.5年という長い年月追跡された試験であるが,この期間には循環器科診療に大きな変化があったことも,本試験の結果に大きな影響を与えたであろう。すなわちDPP-4阻害薬などの新しいタイプの糖尿病治療薬が登場した一方において,低血糖の危険性が強調され始めたため両群ともHbA1c達成値が各々7.2%,6.8%と想定よりも差がつかなかったことも結果に影響を与えた可能性がある。また,LDL-Cに関しては高リスク群での積極的低下療法の意義が強調されたことで,従来目標群でも当初の達成目標値<120mg/dLを大幅に下回る104mg/dLまで下がったことで,強化群との差が予想より縮まったことも脂質管理の重要性を示すことができなかった一因と考えられる。
ともあれ,2型糖尿病に限らず厳格な降圧こそが脳卒中予防に有効である可能性を示した点では,SPRINT試験の結果とともに重要なエビデンスをもたらしたことで本試験は意義がある。(桑島


J-DOIT3 試験は,血糖(HbA1c),血圧,脂質の統合的強化療法を標準療法と比較した大規模医師主導試験であり,デンマークで実施されたSteno-2試験の日本版試験といえる。Steno-2試験では,小規模ながら,大血管イベント及び死亡の有意な減少が認められたが,J-DOIT3試験では大規模な介入を実施したにもかかわらず,微小血管障害(microangiopathy)の抑制は見られたものの,目標とした大血管障害(macroangiopathy)及び死亡の有意な抑制は認められなかった。しかし,ad-hoc解析では,脳血管イベントの有意な減少が認められた。今回のJ-DOIT3試験は,対象患者数が多く(n=2542),長期の追跡(中央値8.5年)も行われていることから,Steno-2試験結果との違いは,近年のライフスタイルや医療環境の改善によるイベント発生率の低下が大きく貢献しているものと考えられる。標準療法でも禁煙指導,食事・運動指導がしっかり行われており,イベント発生率が以前より低くなっているため,強化療法のメリットが出にくくなっているのであろう。しかし,脳血管イベントと冠血管イベントの抑制に差があるのは民族差が関係しているかもしれないが,強化療法における低血糖イベントの影響が脳血管と冠血管で異なる可能性も否定できない。J-DOIT3試験でも,非重症低血糖は強化療法群で標準療法群の2倍近く発生しているからである。統合的強化療法のメリットが今後の追跡試験でmetabolic legacy効果として検証されることを期待したい。(
デザイン 無作為割付け,オープン,多施設(81施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は中央値8.5年。
ランダム化期間は2006年6月16日~’09年3月31日,試験終了は2016年3月31日。
対象患者 2,542例。45~69歳の2型糖尿病患者で,高血圧,脂質異常,あるいは両方を合併しているもの:食事・運動療法実施例,食事・運動療法+経口糖尿病治療薬1剤あるいは+α-グルコシダーゼ阻害薬(αGI)およびその他の経口糖尿病治療薬投与にもかかわらずHbA1c≧6.9%;外来随時血圧が降圧薬非服用例≧140/90mmHg,ACE阻害薬,ARB,Ca拮抗薬服用例≧130/80mmHg;薬物非服用でLDL-C≧120mg/dL,トリグリセライド(TG)≧150mg/dL,HDL-C<40mg/dL。
除外基準:薬物治療にもかかわらず血圧コントロール不良(≧200/120mmHg),インスリン治療例,非糖尿病性腎疾患,LDL-C≧200mg/dL,腎機能不全(血清クレアチニン:男性;≧2.0mg/dL,女性;≧1.5mg/dL,心不全あるいは既往,BNP≧100pg/mLで心筋梗塞・狭心症(既往)・CABGおよびPTCA既往・その他の心疾患など。
■患者背景:平均年齢(強化治療群58.9歳,標準治療群59.1歳),女性38%,糖尿病罹病期間(8.58年,8.47年),喫煙歴(29%, 33%),CVD既往(12%, 11%),BMI(24.8, 24.9㎏/m²),空腹時血糖値(159.6, 158.7mg/dL),HbA1c(8.01%, 7.98%),血圧(133.5/79.3, 134.1/80.0mmHg),LDL-C(125.5, 125.6mg/dL),HDL-C(54.4, 54.5mg/dL),TG(中央値121, 123mg/dL)。
治療法 性,年齢(<60歳,≧60歳),HbA1c(<8.9%, ≧8.9%),CVD既往の有無で層別して,dynamic balancing minimisation法でランダム化した。
3因子に対する統合的強化治療群(1,269例):HbA1c<6.2%),血圧<120/75mmHg),LDL-C<80mg/dL(CAD既往の場合は<70mg/dL),HDL-C≧40mmHg,TG<120mg/dLを目標にした。
標準治療群(1,271例):HbA1c<6.9%),血圧<130/80mmHg),LDL-C<120mg/dL(CAD既往の場合は<100mg/dL),HDL-C≧40mmHg,TG<150mg/dLを目標にした。
治療は標準治療群では,ガイドラインに従い血糖治療は経口糖尿病治療薬GLP-1受容体作動薬,あるいはインスリン使用で目標値に達しない場合は医師の判断で併用薬を追加,血圧治療はレニン・アンジオテンシン阻害薬,Ca拮抗薬を第一選択薬,脂質治療はスタチンを推奨した。大血管合併症既往例は抗血小板治療,抗凝固療法あるいはこれらの併用治療を実施した。一方,厳格治療群では薬物治療の他に,全例,食事・運動療法も実施しながら3因子に対する試験前の治療を継続し,BMI≧25kg/m²例では理想体重の25kcal/kg, <25kg/m²例では27kcal/kgの食事制限を行った。また,記録機能付きの加速度計を提供し15~30分×≧2回/日歩くように指導し,患者は1日の消費エネルギー,歩行数を報告した。医師または看護師は患者の身体活動状況を把握し,3か月以内にHbA1cが目標値に達しない,あるいは>1.0%低下しない場合は治療を強化した。
月ごとの外来の際に採血し,尿中アルブミンは6か月ごとに測定,ECGおよび胸部X線検査を毎年実施した。
結果 最初,一次エンドポイントを全死亡,脳卒中,MIの複合エンドポイントとしていたが,最初の3年間の発生率が1.9%と低く,血行再建術を加えると3.4%だったため2010年1月に一次エンドポイントを変更した。
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試験完了例は2,328例(92%):強化治療群1,168例,標準治療群1,160例。患者外来回数:70回,63回。
禁煙奨励で現喫煙例が減少した(試験開始時26%→終了時14%,21%→ 12%)。
[治療の変化]
糖尿病治療薬:SU薬(厳格群:ベースライン40.3%→最終外来43.7%,標準群:41.5%→ 48.5%;p=0.017), metformin(13.8%→ 62.0%, 15.7%→ 56.5%;p=0.005), αGI(29.0%→ 29.9%, 28.8%→ 25.5%;p=0.015), pioglitazone(6.8%→ 41.8%, 8.3%→ 23.5%;p<0.0001),DPP-4阻害薬(-→ 51.2%, -→ 54.2%),インスリン(-→ 14.1%, -→ 9.8%;p=0.001),降圧薬:ARB(30.2%→ 57.0%, 29.4%→ 50.5%;p=0.001),Ca拮抗薬(23.6%→ 37.0%, 24.7%→ 37.8%),LDL-C低下薬:atorvastatin, pitavastatin, rosuvastatin(18.4%→ 77.8%, 19.8%→ 49.8%;p<0.0001),抗血栓薬:低用量aspirin(10.0%→ 12.5%, 10.7%→ 14.9%)。
[血糖,血圧,脂質の変化]
治療中のHbA1c(6.8% vs 7.2%:目標値達成例は18%,40%),血圧(収縮期/拡張期:123/71mmHg vs 129/74mmHg:38%/63%, 50%/67%),LDL-C(85 vs 104mg/dL:43%, 74%)は,いずれも強化治療群のほうが標準治療群より有意に低かった(全p<0.0001)。
[一次エンドポイント]
一次エンドポイントは242例で,強化治療群のほうが標準群よりも少なかったが有意差はなかった(109例 vs 133例:ハザード比0.81;95%信頼区間0.63~1.04, p=0.094)。
事前に予定されていたベースライン時の危険因子で調整した感度解析では,厳格群の有意な低下が認められた(0.76;0.59~0.99, p=0.042)。
[post-hoc解析]
一次エンドポイント構成イベントのハザード比は,全死亡(49例 vs 48例):1.01;0.68~1.51, p=0.95),冠イベント(48例 vs 55例:0.86;0.58~1.27, p=0.44)は両群同等だったが,脳血管イベントリスクは強化治療群のほうが有意に低かった(18例 vs 42例:0.42;0.24~0.74, p=0.002)。8年間の強化治療による脳血管イベント予防のNNTは47.6。
[その他]
主要二次エンドポイント(全死亡,MI,脳卒中の複合)も両群間に有意差は認められなかった(0.74;0.54~1.01, p=0.055)。
腎症(181例 vs 257例:0.68;0.56~0.82, p<0.0001。透析導入例は標準治療群で5例),網膜症の発症,進展(317例 vs 362例:0.86;0.74~1.00, p=0.046)は厳格群で有意に少なかったが,下肢血管イベント(切断,血行再建術)は19例のみで群間差はなかった(9例 vs 10例)。
非重症低血糖(521例 vs 283例,p<0.0001),浮腫(193例 vs 129例,p=0.0001),アラニンアミノトランスフェラーゼ上昇(44例 vs 18例,p=0.001)は標準治療群のほうが有意に少なかったが,重症低血糖(7例 vs 4例),悪性腫瘍(119例 vs 137例),主要な有害事象(121例 vs 127例)などに有意な両群間差はなかった。
★考察★2型糖尿病患者において3因子に対する統合的強化治療の標準治療にくらべた複合心血管リスク(冠・脳血管イベント,全死亡)低下を完全に支持する結果は得られなかった。しかし,強化治療による脳血管イベント予防の可能性が示された。
ClinicalTrials.gov No: NCT00300976
文献
  • [main]
  • Ueki K et al for the J-DOIT3 study group: Effect of an intensified multifactorial intervention on cardiovascular outcomes and mortality in type 2 diabetes (J-DOIT3): an open-label, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017; 5: 951-64. PubMed

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収載年月2018.01