循環器トライアルデータベース

e-MUST
Evaluation en Médecine d’Urgence des Stratégies Thérapeutiques des infarctus du myocarde

目的 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の死亡率は,主に入院中の死亡率の低下により著明に低下しているが,院外での死亡率は依然として高い。その主原因は突然心停止(SCA)だが,病院到着前のSCAの包括的な評価はこれまで行われておらず,現時点のデータでSTEMI患者のSCAリスクを正確に予測することは困難である。
フランス・パリ都市圏(人口1,170万人)で2003年から院外発症STEMI患者を登録しているe-MUSTから,救急医療サービス(EMS)を利用したSTEMI患者データを使用して,病院到着前のSCAの関連因子を同定し,それらの因子を用いて作成したリスク予測スコアの有用性を検証した。
コメント ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の病院到着前心停止を予測するリスク予測スコアを作成しようとする意欲的な研究である。対象とした8,112例のSTEMIのうち,452例(5.6%)で突然心停止が発生し,突然心停止を発生した患者の退院時生存率は63.9%と低かった。
リスク予測スコアの作成には,年齢,糖尿病,肥満,息切れ,胸痛発現から救急サービスコールまでの時間が予測因子として使用できるとしている。また,冠動脈疾患の古典的危険因子が少ないほうが,突然心停止を起こしやすいという結果が得られたと報告している。古典的危険因子が少ない患者では,最近進んだ冠動脈疾患によって発症したSTEMIであり,側副血行路の発達が乏しかったことをその理由としてあげている。
日本国内では,自動体外式除細動器(automated external defibrillator: AED)の設置が進んでいるが,こうしたリスク予測スコアを救急の現場でどのように活用するかの工夫もさらに検討が求められる。(中村中野永井
デザイン 前向き,一般住民研究。
期間 登録期間は2006年1月~’10年12月。
参加者 8,112例。主にEMSによる処置を受けたもの,EMS到着時生存例,過去24時間に硝酸薬を投与しても>20分持続する典型的胸痛を発現した患者で,ECG上の隣接する2誘導で≧2mmのST上昇または新規左脚ブロックを認めたもの。
■患者背景:年齢中央値(SCA患者57歳,非SCA患者60歳)*,男性(79.4%, 78.0%),冠動脈疾患既往(17.0%, 19.0 %),現喫煙(51.1%, 53.0%),糖尿病(9.2%, 15.4%)*,高血圧(30.3%, 40.5%)*,脂質異常症(31.8%, 35.9%),肥満(16.6%, 25.3%)*,息切れ(19.4%, 2.7%)*,胸痛発現からEMSコールまでの時間中央値(34分,63分)*,EMSコールからEMS到着までの時間中央値(18分,20分[p=0.03])。* p<0.0001
調査方法 データはEMS指令員が最初の電話で,さらに現場に到着したEMSが標準化質問票を使用して収集した。SCAは,病院到着前に発生し,EMSにより目撃された心臓以外の明白な理由がない突然の無脈と定義した。
対象を,スコア作成サンプル(4,902例)と内部検証サンプル(2,520例)にランダム割り付け。スコア作成サンプルでSCAと強く関連する因子を同定し,それらを用いてリスクスコアを作成。内部検証サンプルと外部検証サンプル(606例;フランスの別地域で2005年1月1日~’12年1月31日に同様のデータを収集したSTEMI患者)で予測能を評価した。
結果 SCAはコホート全体で452例(5.6%),スコア作成サンプルで297例(5.5%),内部検証サンプルで155例(5.6%)。
SCA患者は非SCA患者にくらべ退院時生存率が有意に低かった(63.9% vs 95.9%, p<0.001)。
[関連因子]
多変量解析でSCAと有意に関連したのは,下記の5因子:若年齢(>70歳とくらべた61~70歳,51~60歳,41~50歳,≦40歳のオッズ比[95%信頼区間]:それぞれ1.4[0.9~2.1], 1.5[1.0~2.2], 2.1[1.4~3.1], 2.5[1.5~4.4]),非糖尿病(1.6[1.0~2.6] vs 糖尿病),非肥満(1.7[1.2~2.3] vs 肥満),息切れ(10.5[7.1~15.4] vs 息切れなし),胸痛発現からEMSコールまでの時間(>120分とくらべた61~120分,31~61分,≦30分のオッズ比:1.7[1.1~2.7], 2.3[1.5~3.4], 2.8[1.9~4.0])。
[リスクスコア]
年齢を0~9ポイント,非糖尿病を5ポイント,非肥満を5ポイント,息切れ23ポイント,胸痛発現からEMSコールまでの時間を0~10ポイントとしてリスクスコアを算出。
スコア中央値はコホート全体で18,SCA患者23,非SCA患者18(p<0.001)。
SCA発生率は,スコア<10(748例;1.6%)にくらべ,10~19(3,793例)は2倍(3.2%),20~29(2,642例)は4倍(6.9%),≧30(239例)は>18倍(28.9%)(傾向p<0.001)。
スコアの感度,特異度は20~29の範囲では良好であったが(65.4%, 62.6%),≧10(96.9%, 10.5%)と≧30(18.0%, 97.6%)では両者の差が大きかった。
[外部検証]
リスクスコアを外部コホートに当てはめると,SCA発生率はスコア<10の2%から,10~19の5.2%,≧20の9.1%へと増加した。
AUCは内部コホート0.7033,外部コホート0.6031であった。
★結論★急性期のSTEMIにおいて,病院到着前のSCAリスクはルーチンに評価されている5つの予測因子を使用した簡便なスコアで推定できる。

[主な結果]
  • Karam N et al for the e-MUST study investigators: Identifying patients at risk for prehospital sudden cardiac arrest at the early phase of myocardial infarction: the e-MUST study (Evaluation en Médecine d'Urgence des Stratégies Thérapeutiques des infarctus du myocarde). Circulation. 2016; 134: 2074-83. PubMed

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収載年月2017.04