循環器トライアルデータベース

CLARIFY
Prospective Observational Longitudinal Registry of Patients with Stable Coronary Artery Disease

目的 治療下の高血圧患者の至適目標血圧値については議論が続いている。とくに冠動脈疾患(CAD)を有する患者では,拡張期血圧(DBP)が低下しすぎると心筋灌流が低下する可能性があるため,J型現象が懸念される。
標準ケアを受けている外来通院中の安定CAD患者のレジストリであるCLARIFYのデータを使用して,降圧治療中の高血圧合併CAD患者における達成血圧と心血管転帰の関係を検証する。

一次エンドポイントは,心血管死,心筋梗塞(MI),脳卒中の複合エンドポイント。
コメント この観察研究は登録時および観察中の血圧が120mmHg以上では,心血管死,心血管合併症は増えるが,120mmHg未満であっても予後は悪化するという,最近では否定されつつあるJカーブの存在を示唆する結果を示している。しかし,やはり観察研究の域を出ておらず,Jカーブの存在を否定したSPRINTなど最近のランダム化比較試験の信頼性には及ばない。
冠動脈疾患合併の高血圧症例では,過度な降圧によってかえって心血管予後が悪くなるという,いわゆるJカーブ論争というのが古くから存在していた。しかし,昨年発表された米国からのSPRINTで,中等度以上のリスクを有する高血圧症例では,収縮期血圧120mmHg未満への降圧が140mmHg未満よりも心疾患予後の点で優れているという,J-カーブ仮説を否定する結論を示した。CLARIFYはそれに反するような結果であったが,登録観察研究の大きな欠点である交絡因子を除外しきれていない点が大きな難点である。
すなわち,血圧が低い群における心血管死の増加は,降圧が原因なのではなく,最初から重症心疾患であったため血圧が低かった。つまり因果が逆転しているのである。
具体的には,収縮期血圧120mmHg未満の群では,登録時すでに心筋梗塞症例が66%で,他の血圧群(120~129:60%, 130~139:57%, 140~149:56%, >150mmHg:53%)よりも明らかに多い。また,登録時の左室駆出率も120mmHg未満の群では52.7%と他の群の56~57%よりも低い。つまり,登録時および観察時収縮期血圧が低い群は,すでに冠動脈疾患が重症であり,かつ心機能が低下していることを意味し,登録時点で予後不良であったことを意味する。このことは,登録時の心不全合併率が高いことからも明らかである。つまり,血圧が下がったから心血管予後を悪くしたのではなく,最初から冠動脈疾患が重症だったから血圧が低かったのである。
しかも,血圧測定はたった5分間安静にしただけの診察室血圧であり,さらに年に1回の測定である。医師のいないところで自動血圧計での3回測定で,3ヵ月に1回測定したSPRINTとは大きな違いがある。
ちなみに,私はJカーブ論争はそろそろ打ち止めとすべきであると考える。元々,この仮説はCruickshank氏が,冠動脈疾患合併症を有する高血圧では拡張期血圧を85mmHg以下に下げると冠動脈死が増えるといって一時話題になったものであるが,今では完全に否定されている。高齢化社会となった現在では,むしろ収縮期血圧が重視されており,拡張期血圧はかなり低いレベルでも問題にならない。血圧と死亡の関係には必ずJカーブは存在するのである。致死的疾患では死に近づくほど,血圧は0になることは明白で,死と血圧の関係はJカーブとなるからである。Jカーブ論争には終止符を打つべきである。(桑島
デザイン 前向き観察研究,多施設(45か国)。
期間 追跡期間は5年(中央値)。
登録期間は2009年11月26日~’10年6月30日。
対象 22,672例。安定CAD(登録3か月以上前のMI,冠動脈血管造影上の>50%狭窄,心筋虚血の根拠[ストレス負荷ECG,望ましくは画像所見]のある胸痛,登録3か月以上前のCABG・PCIのいずれか)で,降圧薬≧1剤による治療下の高血圧(≧140/90mmHg)患者。
除外基準:過去3か月間の心血管疾患による入院,血行再建術予定など。
■患者背景:平均年齢65.2歳,男性75%,BMI 27.7kg/m²*,糖尿病33%,過去喫煙45%,喫煙歴なし44%,血圧133.7/78.2mmHg,心拍数68.5bpm,MI既往58%,PCI歴57%,CABG歴25%,一過性脳虚血発作(TIA)4%,脳卒中5%,心不全による入院5%,心不全症状(なし:83%,NYHA心機能分類II度:14%,III度:3%),EF 56.1%,HbA1c 6.9%,クレアチニン0.994mg/dL*,総コレステロール166.28mg/dL*,HDL-C 44.08mg/dL*,LDL-C 91.65mg/dL*,トリグリセライド124.0mg/dL** 中央値
調査方法 血圧は年1回診察室で5分安静後に座位にて測定。追跡期間中の平均血圧値を解析に使用。収縮期血圧(SBP),DBPをそれぞれ5群に層別し,イベントとの関係を解析:SBP<120(2,693例),120~129(6,946例:対照),130~139(7,586例),140~149(3,584例),≧150mmHg(1,863例);DBP<60(214例),60~69(2,838例),70~79(10,816例:対照),80~89(7,681例),≧90mmHg(1,123例)。
結果 [血圧]
追跡期間中の血圧の変化は<2mmHgであった。
[一次エンドポイント]
発症は2,101例(9.3%),うち心血管死5.3%,全死亡8.3%,MI 3.6%,脳卒中2.3%,心不全による入院5.8%。
多変量調整後,SBP,DBPと一次エンドポイントの関係は明確なJ型曲線を示した。
SBP 120~129mmHg群と比較した<120mmHg, 140~149mmHg, ≧150mmHg群の調整ハザード比(HR)は,それぞれ 1.56(95%信頼区間1.36~1.81), 1.51(1.32~1.73), 2.48(2.14~2.87);いずれもp<0.0001。
DBP 70~79mmHg群と比較した<60mmHg, 60~69mmHg, 80~89mmHg, ≧90mmHg群のHRは,それぞれ2.01(1.50~2.70), 1.41(1.24~1.61), 1.41(1.27~1.57), 3.72(3.15~4.38);いずれもp<0.0001。
[二次エンドポイント]
心血管死,全死亡,MI,心不全による入院それぞれとの関係もJ型を示したが,脳卒中との関係はJ型ではなく,リスクが有意に高かったのはSBP高値(140~149mmHg群,≧150mmHg群),DBP高値(80~89mmHg群,≧90mmHg群)のみであった。
[サブグループ解析]
SBP,DBPと一次エンドポイントの関係には年齢の影響がみられた(それぞれ交互作用p=0.0176, p=0.0180)。SBPとの関係は≦75歳では全例と同様であったが,>75歳では140~149mmHg群でのリスク増加はみられなかった。DBPとの関係も≦75歳では全例と同様であったが,>75歳では60~69mmHg群でリスクは増加しなかった。
★結論★日常臨床での高血圧合併CAD患者において,SBP<120mmHg,DBP<70mmHgはいずれも死亡を含めた有害心血管転帰と関連したことから,J型の関係が裏付けられた。CAD患者の降圧治療には注意が必要なことを示唆する結果である。
文献
  • [main]
  • Vidal-Petiot E et al for the CLARIFY investigators: Cardiovascular event rates and mortality according to achieved systolic and diastolic blood pressure in patients with stable coronary artery disease: an international cohort study. Lancet. 2016; 388: 2142-52. Epub 2016 Aug 26. PubMed
    Mancia G: Should blood pressure reduction be aggressive in patients with hypertension and coronary artery disease? Lancet. 2016; 388: 2061-2. Epub 2016 Aug 26. PubMed
  • [substudy]
  • 慢性冠症候群*患者において,MIの既往のある狭心症症例は最も高リスクな集団であり. モニタリングおよび治療をより強化すべき対象である。
    対象は,CLARIFY レジストリの登録患者のうち. 中央値5年の追跡調査を終了した32703例。
    慢性冠症候群(CCS)における患者特性,長期予後決定因子などを検討。一次エンドポイントは,CV死,非致死性MIの複合。
    * chronic coronary syndrome(CCS)。2019年の欧州心臓病学会において提唱された,従来の安定冠動脈疾患を含む新し
    い疾患概念。

    [複合一次エンドポイント:CV死,非致死性MIの5年発症率]
    • コホート全体:8.0%(95%CI 7.7~8.3%)。男女別の発生率に違いはみられなかった。
    • MI既往 vs. MI非既往:9.1%(8.7~9.5%)vs. 6.4%(6.0~6.9%)
    • 狭心症症状あり vs. なし:9.8%(9.1~10.5%)vs. 7.5%(7.1~7.8%)
    [複合一次エンドポイントの独立した予後予測因子:多変量解析の結果]
    • 心不全による入院歴(HR 2.13; 95%CI 1.87~2.42),現喫煙(HR 1.74; 1.51~1.99),心房細動/心房粗動(HR 1.61; 1.42~1.82),中南米在住(HR 1.61; 1.38~1.88),MI既往(HR 1.50; 1.37~1.65),脳卒中既往(HR 1.45; 1.20~1.76),糖尿病(HR 1.40; 1.28~1.53),狭心症(HR 1.30; 1.18~1.45),末梢動脈疾患(HR 1.29; 1.15~1.45),喫煙歴(HR 1.29; 1.17~1.42)。
    [狭心症とMI既往の相関と複合一次エンドポイント5年発生率]
    • <MI既往> 狭心症患者 vs. 非狭心症患者:11.8%(95%CI 10.9~12.9)vs. 8.2%(7.8~8.7)
    • <MI非既往> 狭心症患者 vs. 非狭心症患者:6.3%(5.4~7.3)vs. 6.4%(5.9~7.0)
     以上より,狭心症とMI既往には相関関係(P =0.0016)があると認められる。
    Sorbets E, et al: Long-term outcomes of chronic coronary syndrome worldwide: insights from the international CLARIFY registry. Eur Heart J. 2020; 41: 347-56. PubMed

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収載年月2016.09
更新年月2020.02