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PARTNER 2 SAPIEN 3 Observational study

目的 手術不適応・高リスクまたは中等度リスクの重症大動脈弁狭窄症(AS)患者において,第3世代デバイスSAPIEN 3を使用した経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)の安全性と有効性を検証する。本研究はPARTNER 2試験*に組み入れられた観察研究。
ここでは,中等度リスク者における,1)30日後の転帰,2)1年後の転帰とPARTNER 2の外科的大動脈弁置換術(AVR)群との比較結果(propensity score解析)を示す。
2)の主要評価項目は,全死亡,脳卒中,手技再施行,中等度~重度の大動脈弁逆流の複合エンドポイント。
* 第2世代デバイスSAPIEN XTを使用したTAVRとAVRを手術不適応・高リスク患者(コホートB),中等度リスク患者(コホートA)において比較するランダム化比較試験。
コメント Eur Heart J. 2016; 37: 2252-62. へのコメント
重症ASに対するTAVRはSAPIENが第一世代から第三世代へと進化し,周術期の脳卒中や弁周囲逆流の程度が低下し,ハイリスク例だけでなく中等度リスク例にもSAVRと同等に十分適応可能となっている。本研究は,プロスペクティブに多施設で,重症AS高リスク例と中等度リスク例に対して第三世代SAPIEN 3システムの30日後の良好な臨床転帰を示した。具体的には,(1) 30日後の死亡率,脳卒中頻度,再入院率が低下,(2) 症状,QOL, NYHAクラスの改善,(3) 冠動脈閉塞,弁塞栓,valve-in-valve挿入などの手技に伴う合併症の頻度低下,(4) 大動脈弁逆流程度の改善,(5) 平均在院日数(3日)の低下,を認めている。特に,30日後の死亡率は第一世代では5%であったが,今回1-2%と低下したのは,手技に伴う血管合併症や脳卒中頻度(6%から3%へ)の低下と関連している。デバイス治療には術者の熟練度,患者の適切な選択,術前の画像検査(弁輪サイズの決定)の進歩も重要であるが,デバイスやデリバリーシステムの改良が必須である。他のアプローチよりもQOLや予後が良いとされる経大腿アプローチが87%の例で可能になったのも,弁システム(14-16 Fr)の改良と関係している。これまでの報告と違って脳卒中は神経学者が評価しており,SAVRでも注意深く評価すると脳卒中が17%に生じるとの報告もある。SAPIENの場合,後拡張の際に脳卒中を生じやすい。弁周囲逆流が少なくなり,後拡張の必要性が少なくなったため(今回12.5%のみ),脳卒中頻度が低下した可能性がある。弁周囲逆流は予後と関連するが,SAPIEN 3はステントフレームの改良が功を奏している。問題点は,SAPIEN 3ではステントフレームが少し長くなり,ペースメーカー植込み頻度が10-13%と以前より増加していることである。今後はステントの挿入部位を変えることでペースメーカー植込み頻度は低下するであろう。実際,最近のヨーロッパの報告ではSAPIEN 3でもペースメーカー植込み頻度は4%と低くなっている。
TAVRは死亡率や弁周囲逆流・血管合併症頻度が非常に低いので,高リスク例においてclass I適応と考えられる。中等度リスク例でも長期予後が問題なければ,TAVRはSAVRと同等であろう。実際all-comerのランダム化比較試験で手術リスクスコア(STS)が低い例(平均3%)を対象としたNOTION試験(J Am Coll Cardiol. 2015; 65: 2184-94. PubMed)ではSAVRとTAVRは1年後の有害イベントは同等と報告されている。手術リスクがより低い例でのTAVRの位置づけが今の課題である。(星田

Lancet. 2016; 387: 2218-25. へのコメント
重症ASの中等度リスク症例に対するTAVR(第三世代SAPIEN 3)とSAVRの1年後予後を比較し,死亡/脳卒中の頻度はTAVRに軍配が上がった(弁周囲逆流はSAVRの方が少ない)。最近の目覚ましいSAPIEN 3の成績は,弁システムの改良により経大腿アプローチがより可能となり,手技・血管合併症が生じにくくなったことに関連している。重症ASで高リスクではない症例に対するTAVRの臨床効果は報告されつつあるが,これまで厳密に検証した研究はなかった。本研究でのTAVRとSAVRの比較において症例登録期間は1年以上ずれているが,傾向スコア解析を用いて対象を基準化し,さらに対象・除外基準,心エコーやイベント評価方法,評価施設・術者が同一であることは結果の妥当性を強固にしている。
当初TAVRは周術期の脳卒中が危惧されたが,傾向スコア解析では逆にSAVRよりも頻度は低下している。TAVRのもう一つの懸念材料である弁周囲逆流は,中等度以上の頻度はやはりSAVRよりもTAVRが高いが,以前に報告された発生率よりもSAPIEN 3では大きく低下している。画像検査による弁輪サイズの決定や最適場所への弁留置を可能にする技術の進歩も見逃せない。TAVRにみられる軽度の弁周囲逆流が長期予後と関連するか否かは不明である。TAVRとしてSAPIEN 3と他のデバイスが同等であるかは今後明らかになる。今回対象外の先天性大動脈二尖弁の重症ASでもTAVRが同様の効果を示すかも興味深い。今必要なのは,より若い低リスク症例でのTAVRとSAVRのランダム化比較試験である。(星田
デザイン 観察研究,多施設(米国とカナダの29施設[手術不適応・高リスク]・51施設[中等度リスク])。
期間 追跡期間は1年。
登録期間は,2013年10月~’14年2月(手術不適応・高リスク例),’14年2月17日~9月3日(中等度リスク例)。
対象 1)1,661例(手術不適応・高リスク例583例,中等度リスク例1,078例)。
2)中等度リスク者1,077例(as-treated population),PARTNER 2コホートAのAVR群944例。選択基準はPARTNER 2に準ずる。
手術リスクはハートチームが評価し,手術不適応・高リスク(Society of Thoracic Surgeons[STS]スコア>8%または臨床的理由による),中等度リスク(STSスコア4~8%,またはスコア<4%で他の危険因子[肝疾患,フレイル,肺高血圧など]を保有)と判断。
除外基準:先天性二尖弁,重度の大動脈弁逆流,EF<20%,重症腎機能不全など。
■患者背景:1)(手術不適応・高リスク例のみ)平均年齢82.7歳,男性58.0%,STSスコア8.7%,NYHA心機能分類III~IV度90.1%,冠動脈疾患(CAD)76.2%,CABG歴33.1%,PCI歴34.1%,末梢動脈疾患(PAD)35.2%,糖尿病34.5%,慢性閉塞性肺疾患(COPD) 44.6%,心房細動(AF)43.7%,フレイル(歩行・握力・日常生活動作・血清アルブミンのうち3項目が低下)30.9%。
2)平均年齢(TAVR群81.9歳,AVR群81.6歳),男性(62%, 55%, p=0.002),BMI(28.7, 28.4kg/m²),STSスコア中央値(5.2%, 5.4%, p=0.0002),NYHA III~IV度(73%, 76%),CAD(70%, 67%),CABG歴(28%, 26%),PCI歴(32%, 27%),PAD(28%, 32%),COPD(両群とも30%),AF(36%, 35%),フレイル(5m歩行時間>7秒)(41%, 46%), 大動脈弁弁口面積(AVA)(両群とも0.7cm²),圧較差(46.1, 44.7mmHg),EF(58.5%, 55.4%, p<0.0001),左室重量係数(116.27, 118.7g/m²),中等度~高度僧帽弁逆流(9%, 18%, p<0.0001)。
調査方法 SAPIEN 3*(Edwards Lifesciences社)を使用したTAVRを施行。術前の末梢血管評価により経大腿動脈・経心尖・経大動脈アプローチを選択。
* SAPIEN XTにくらべ弁周囲逆流を低減するスカートデザイン,異なるコバルト合金フレーム,より正確な位置への弁留置が可能なロープロファイルのデリバリーシステムを採用。
2)のAVR群との比較は,propensity score法によりスコアを5分位に層別して比較。
結果 1)[手技]
経大腿アクセスは中等度リスク例88.3%,手術不適応・高リスク例(以下,高リスク例)84.2%。
開胸術への変更は6例(中等度リスク5例,高リスク1例),弁塞栓2例,弁輪破裂2例。
手技中の死亡は中等度リスク5例(0.5%),高リスク6例(1.0%),入院日数中央値はともに3日であった。
[30日後の転帰]
30日死亡率は中等度リスク例1.1%,高リスク例2.2%,心血管死は0.9%, 1.4%,主要・障害を伴う(modified Rankin score≧2)脳卒中1.0%, 0.9%,大出血10.6%, 14.0%,主要な血管合併症6.1%, 5.1%,永久ペースメーカー植込み10.1%, 13.3%。
Kansas City Cardiomyopathy Questionnaireスコアはともに増加(中等度リスク例:54.7→ 74.0;高リスク例:47.8→ 67.8;ともにp<0.0001)。
弁周囲逆流なし・微量は55.9%,軽度40.7%,中等度3.4%,重度0.0%,平均圧較差は低下(45.8→ 11.4mmHg),AVAは増加(0.69→ 1.67cm²)した(ともにp<0.0001)。
★結論★SAPIEN 3を用いたTAVRは30日死亡率,主要・障害を伴う脳卒中の発生率が低く,中等度~重度の弁周囲逆流が少なかった。

2)手技後の入院期間中央値はTAVR群4日 vs AVR群9日,自宅退院は85% vs 46%。
[TAVR群の1年後の転帰]
死亡は79例(Kaplan-Meier推定7.4%),うち経大腿アプローチ例が61例(7%),心臓死は47例(4.5%)。
脳卒中は49例(5%)で,ほぼ半数(24例[2.3%])が障害を伴うものであった。
死亡,障害を伴う脳卒中の複合エンドポイントは90例(8.4%)。
手技・大動脈弁関連による再入院は119例(11%),TAVR再施行は6例(0.6%),中等度~重度の大動脈弁逆流は13例(2%),永久ペースメーカー植込みは132例(12%),新規AF発症は63例(5.9%),心内膜炎は8例(0.8%)。
症状は有意に改善し,94%が1年後のNYHA I~II度であった。
[その他]
30日後に認められたAVA(1.7cm²),大動脈弁圧較差(11.4mmHg)の改善は1年後も持続していた。
中等度~重度の弁逆流は1.5%のみで,軽度が40%。30日後に弁逆流なし・微量であった症例の1年後死亡率は4.5%で,軽度例(6.4%)と同等であったが,中等度~高度逆流例は有意に高かった(13.3%, p=0.018)。
[AVR群との比較]
propensity score解析(TAVR群963例,AVR群747例)で,主要評価項目の発生率は,propensity score五分位のいずれにおいてもTAVR群のほうが低く(両群間差:第1五分位-14.5%~第5五分位-4.3%),TAVR群のAVR群に対する非劣性(pooled weighted proportion difference-9.2%;90%信頼区間-12.4~-6, p<0.0001;非劣性マージン7.5%),さらに優越性(複合エンドポイント:-9.2%;-13.0~-5.4, p<0.0001,全死亡:-5.2%,脳卒中:-3.5%)が認められた。
中等度~重度の弁逆流はAVR群のほうが少なかった(1.2%;0.2~2.2, p=0.0149)。
★解釈★手術リスクが中等度の重症大動脈弁狭窄症患者において,SAPIEN 3を用いたTAVRの死亡,脳卒中,大動脈弁逆流は1年後も少なかった。また,propensity score解析から,TAVRのAVRに対する有意な非劣性,優越性が示された。
ClinicalTrials gov No: NCT01314313
文献
  • [main]
  • 1) Kodali S et al: Early clinical and echocardiographic outcomes after SAPIEN 3 transcatheter aortic valve replacement in inoperable, high-risk and intermediate-risk patients with aortic stenosis. Eur Heart J. 2016; 37: 2252-62. PubMed
  • 2) Thourani VH et al: Transcatheter aortic valve replacement versus surgical valve replacement in intermediate-risk patients: a propensity score analysis. Lancet. 2016; 387: 2218-25. PubMed
  • [substudy]
  • 中等度リスクの重症AS患者に対する手技5年後の生体弁評価において,SAVRに比べて第二世代の人工弁(SAPIEN-XT)は構造的劣化の発生率が高い一方,第三世代の人工弁(SAPIEN 3)では発生率は同等。
    対象は,PARTNER 2A試験参加者およびPARTNER 2 SAPIEN 3 Observational studyコホート。SAPIEN 3とSAVRの比較は,PARTNER 2A試験のSAVRと傾向スコアによるマッチングを行い解析。
    一次エンドポイントは,手技5年後の弁の構造的劣化(SVD)の発生率[心エコーによる経過観察中のSVDに関連する血行動態的劣化および/または弁の機能不全(BVF)の複合]。SVDのステージは,VARC-3基準によった。
    [一次エンドポイント:手技5年後のSVD発生率(心エコーによる経過観察中のSVDに関連する血行動態的劣化および/またはBVFの複合)]
    〈第二世代SAPIEN-XTとSAVRの比較〉
    • 5年後のSVD累積発生率は,SAPIEN-XTで有意に高かった(SAPIEN-XT 9.5% vs. SAVR 3.5%; P <0.001)。
    • 5年後の100人・年あたりのSVDおよびBVFの曝露調整発生率もSAVRに比べ,SAPIEN-XTで高かった(SVD: 1.61±0.24% vs. 0.63±0.16%,BVF: 0.58±0.14% vs. 0.12±0.07%; ともにP <0.01)。
    〈SAPIEN 3とSAPIEN-XTの比較〉
    • SVDの曝露調整発生率は,SAPIEN-XTに比べ,SAPIEN 3で低かった(SAPIEN-XT 1.76±0.27% vs. SAPIEN 3 0.63±0.16%)。
    • BVFの曝露調整発生率も,SAPIEN-XTに比べ,SAPIEN 3で低かった(SAPIEN-XT 0.65±0.16% vs. SAPIEN 3 0.21±0.09%)。
    〈SAPIEN 3とSAVRの比較〉
    • SVDの曝露調整発生率は,同等(SAPIEN 3 0.68±0.18% vs. SAVR 0.60±0.17%; P =0.71)。
    • BVFの発生率は,数値上はSAPIEN 3のほうがSAVRより大きいものの,統計学的には有意差は示されなかった(SAPIEN 3 0.29±0.12% vs. SAVR 0.14±0.08%; P =0.25)。
    [その他]
    BVFのおもな要因は,SAPIEN-XT,SAPIEN 3,SAVRでそれぞれ異なっていた。
      SAPIEN-XT: ①SVD(64%),②弁周囲逆流(20%)
      SAPIEN 3:①弁周囲逆流(58%),②SVD(32%)
      SAVR:①心内膜炎(50%),②SVD(37.5%)
    Pibarot P, et al for the PARTNER 2 Investigators: Structural Deterioration of Transcatheter Versus Surgical Aortic Valve Bioprostheses in the PARTNER-2 Trial. J AM Coll CArdiol. 2020; 76: 1830-43. PubMed

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収載年月2016.09
更新年月2020.11