循環器トライアルデータベース

USRDS
United States Renal Data System

目的 透析を受けている末期腎不全(ESRD)患者の30~60%が冠動脈疾患(CAD)を合併しており,PCIの施行率は増加している。腎機能が保持された患者では,薬剤溶出性ステント(DES)はベアメタルステント(BMS)より再血行再建術が少ないことが示されているが,死亡や心筋梗塞(MI)に対する効果は一貫していない。また,ESRD患者は臨床試験から除外されることが多く,ESRD患者においてDESとBMSを比較したエビデンスは非常に少ない。
米国でDESが初めて承認された2003年4月から2010年までにステントを留置した維持透析中の末期腎不全患者において,DESとBMSの転帰を比較した。
評価項目は,PCI後1年以内の全死亡;全死亡・MI;全死亡・MI・再血行再建術の3つ(MIは退院後)。
コメント 透析症例は動脈硬化症の最もハイリスクなカテゴリーであり,冠動脈疾患罹患率が高く予後に直結することが知られている。その多くは高度石灰化病変を有しPCIの成績は不良で,血栓症・出血性合併症のリスクも高い。それゆえか冠動脈ステントに関する多くの大規模臨床試験では透析症例が除外されてきた。従ってBMS vs DES・第一世代DES vs 第二世代以降DESの優劣など,当該症例に対してはこれまで培ってきた『ルール』が通用するのかどうか,十分に検証されていない。
本研究は米国の透析症例データベースを基に,同国でDESが承認された2003年4月から7年間にわたって,初回ステント留置症例35,000例以上を抽出した,これまでで最大規模の透析症例PCIの後ろ向き登録研究である。患者ベースの解析ではないためpropensity scoreやIPTWなどの統計学的手法を用いて解析し,イベント(死亡・心筋梗塞・再血行再建)に関するDESの優位性を示した。さらにDESが最も頻用(85%)されたliberal期にイベント発生率が最小であることも,その傍証として示した。
筆者も指摘するように,本研究にはlimitationが多い。また日本での日常臨床とはかけ離れた数字が並ぶ。特に驚くべきは,両群の予後の悪さである。平均年齢64歳・透析歴3年の1年間の死亡率;38%,死亡+心筋梗塞;55%は,にわかには信じ難い。日本透析医学会統計に示される一般透析症例の生存率データでは,導入3年次から4年次の死亡率は6~7%である。PCI症例で高率なのは当然としても,日本を含むアジアからの報告では初年度死亡率は15%前後である。医療制度を背景にした透析文化の違いか,あるいは人種の違いか,いずれにしろこの結果をそのまま本邦に当てはめるのは危険であろう。
高度腎機能障害を除外して検討された様々な大規模臨床試験では,第一世代のDESに予後改善効果は見出せず,第二世代DESになってその優越性が示されつつある。これを覆す形となった本研究のlimitationの多くは,患者ベースの解析でないことに起因する。心機能などの臨床指標,冠動脈病変の重症度や病変指標,DESの種類,薬物療法などは不明である。エンドポイントに関しても死因や心筋梗塞の責任病変が不明で,再血行再建術もTLR/TVR以外の他枝へのPCIも含まれており,BMS/DES留置との関連性が明確ではない。従って,例えばBMSを入れざるを得なかった患者背景が予後に直結したのでは?とか,DES留置そのものよりlong DAPTが奏効したのでは?など邪推してみたくなる。
透析患者にもDES betterなのか?…この解答にはやはりランダム化比較試験が必要である。しかし今さらBMSを持ち出しての臨床試験は困難であろうから,この命題は解けないまま時代が過ぎると思われる。(中野中村永井
デザイン 登録研究。
期間 追跡期間は1年。
登録期間は2003年4月24日~’10年12月31日。
参加者 36,117例(BMS群11,202例,DES群24,915例)。18歳以上,末期腎不全,2003年4月24日~’10年12月31日に初回ステント留置を施行した患者で,入院前6か月以上継続してメディケア part A・Bに加入しており,PCI施行時に維持透析を受けていたもの。
除外基準:入院中の心臓手術,DESとBMS両方の植込みなど。
■患者背景(マッチコホート;両群とも10,751例):平均年齢(BMS群64.6歳,DES群64.5歳),男性(58.1%, 58.0%),人種(白人:64.3%, 64.8%,黒人:30.4%, 30.0%),透析期間中央値(3.0年,2.9年),末期腎不全の原因(糖尿病:53.1%, 54.0%,高血圧:27.5%, 27.3%),腎移植待機(15.2%, 14.9%),多枝治療(13.6%, 13.7%),PCI適応(安定CAD:59.4%, 59.6%,非ST上昇型MI:30.5%, 31.3%,ST上昇型MI:9.7%, 8.7%),CABG歴(26.1%, 26.2%),PCI歴(13.4%, 13.9%)。
基礎疾患:MI(52.9%, 53.3%),狭心症(56.3%, 56.6%),心不全(78.6%, 79.0%),高血圧(99.9%, 99.8%),心房細動(30.1%, 29.8%),その他の不整脈(34.0%, 33.8%),脳卒中・一過性脳虚血発作(25.4%, 26.4%),弁膜症(45.8%, 45.4%),末梢動脈疾患(56.6%, 56.8%),脳血管疾患(26.1%, 26.6%),糖尿病(77.9%, 79.2%),高脂血症(73.2%, 74.3%),消化管出血(30.8%, 30.5%),慢性肺疾患(47.4%, 48.0%),喫煙歴(17.7%, 17.5%),うつ病(23.3%, 24.4%),悪性腫瘍(14.9%, 14.6%),肥満(17.4%, 18.1%)など。
調査方法 プロペンシティスコアにより1:1にマッチさせたマッチコホート(10,751組)で転帰を比較。プロペンシティスコアの逆数による重み付け解析(inverse probability of treatment weighting:IPTW)も行った。さらにDESの使用パターンの変化を考慮し,下記3期に層別した解析も実施:transitional期(2003年4月24日~’04年6月30日;5,372例),liberal期(’04年7月1日~’6年12月31日;12,349例),selective期(’07年1月1日~’10年12月31日;18,396例)。
結果 [転帰]
コホート全体(DES使用率69%)での1年以内の死亡は38,死亡・MIは55,死亡・MI・再血行再建術は71/100人・年。
プロペンシティスコアマッチコホートにおいて,DESはBMSにくらべ死亡リスクが18%,死亡・MIリスクが16%,死亡・MI・再血行再建術リスクが13%有意に低かった。
IPTW解析の結果も同様で,腎移植施行時に患者の追跡を打ち切りとした感度分析でも大きな違いはみられなかった。
[時期別解析]
DES使用率はtransitional期56%,liberal期85%,selective期62%。
transitional期のPCI施行例はliberal期,selective期にくらべ,非ST上昇型MI(24.1% vs 25.8% vs 33.1%),多枝治療例(9.2% vs 16.0% vs 18.2%),介護施設入所者(5.7% vs 7.1% vs 8.2%)が少なく,ほとんどの併存疾患の有病率が低かった(糖尿病:76.9% vs 79.1% vs 82.4%,高脂血症:61.8% vs 69.5% vs 80.0%など)。
DESの転帰はtransitional期のほうがliberal期より不良であったが(死亡:調整ハザード比1.02;95%信頼区間0.96~1.09,死亡・MI:1.15;1.00~1.11,死亡・MI・再血行再建術:1.08;1.03~1.13),selective期とliberal期で有意差を認めたのは死亡・MIのみであった(1.05;1.01~1.09)。
★結論★米国の透析患者におけるDES留置は安全だと思われ,死亡,MI,再血行再建術の発生率が低かった。

[主な結果]
  • Chang TI et al: Drug-eluting versus bare-metal stents during PCI in patients with end-stage renal disease on dialysis. J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 1459-69. PubMed
    Bavry AA and Park K: Drug-eluting stents: capable of saving lives in dialysis patients? J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 1470-1. PubMed

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収載年月2016.07