循環器トライアルデータベース

IN.PACT SFA
IN.PACT Admiral Drug Eluting Balloon vs Standard PTA for the Treatment of SFA and Proximal Popliteal Arterial Disease I (INPACT SFA I) & IN.PACT Admiral Drug-Coated Balloon vs. Standard Balloon Angioplasty for the Treatment of SFA and Proximal Popliteal Artery (INPACT SFA II)

目的 症候性末梢動脈疾患(PAD)の治療において,経皮的血管形成術(PTA)は初期の成功率は高いものの,再狭窄率が高いなどの問題がある。薬剤コーティングバルーン(DCB)はPTAにくらべ再狭窄や再施行の必要性が少ないことが示されているが,大規模ランダム化比較試験のデータはほとんどない。
IN.PACT SFAは,症候性の浅大腿および近位膝窩動脈疾患のPAD患者において,DCBの安全性と有効性をPTAと比較する,欧州で実施されたINPACT.SFA Iと米国で実施されたIN.PACT SFA IIの2段階から成る試験。

一次エンドポイントは,12か月後の一次開存(臨床的症状による標的病変再血行再建術[TLR]および再狭窄[デュプレックス超音波による収縮期最大血流速度>2.4]の回避)。
コメント 50年以上前にDotterが浅大腿動脈病変に対するEVT(末梢血管インターベンション)を報告して以来,PAD例に対するEVTは広く世界に普及している。大腿膝窩動脈病変例ではPTA(POBA)がまず行われるが,再狭窄率は60%にまで達する。BMSやDESがPTAより適していると考えられるがいまだ議論が多く,PADの場合ステントはすべての病変部位に挿入できるわけではない。英国の2012年NICEのガイドラインでは,間欠性跛行症例に対するprimary stentingは推奨していない。大腿膝窩部位では体動によりダイナミックな力がかかるのでステントフラクチュアやステント内狭窄の問題が生じ得る。ステントを用いない治療手段がPADの場合望まれており,その有力候補が薬剤コーティングバルーン(DCB)である。少数例においてDCBの臨床効果は報告されているが,今回大規模ランダム化試験でDCBとPTAの比較を症候性大腿膝窩動脈病変例で検討した。DCB群は12ヵ月後の一次開存率が有意に高く,TLRを低下させた。機能的転帰は両群同様であるが,PTA群ではTLRを8.6倍施行しており,DCBの優越性が示されている。
PADに対するEVTとして,ステント・アテレクトミー・DCB・cutting balloonなどがあるが,head-to-headの比較試験は少ないので,どの治療法が適切であるかは明らかではない。diffuseなステント内狭窄やステント内閉塞例では再・再狭窄率が1-2年で70%以上と報告され,この点からはDESやDCBへの期待が大きい。PADは慢性的に進行するので,DCB後に再狭窄が生じてもその後の治療選択肢が多いのは魅力である。(1) パクリタキセルDCBの中でも薬物のdoseや溶解剤が異なり,バルーンの性状やコーティング技術は様々なので,どのタイプのパクリタキセルDCBがより有用であるのか,(2) 病変長が長い例(20-30cm),高度石灰化例,RutherfordカテゴリーV/VIの最重症例に対してDCBに長期的効果があるのか,を今後明らかにすることが望まれる。(星田

J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 2329-38.へのコメント
PADは慢性進行性疾患であり,EVT後1年では臨床効果は固定しない。パクリタキセルは脂質親和性でPAD例に最も多く用いられている細胞増殖抑制薬であり,DCB治療後180日間局所にとどまり作用を示す。今回,DCBとPTAの1年後の臨床転帰の差を示したIN.PACT SFA trialの続報で,2年後においてもDCBの効果が持続していた。長い病変例が含まれていないのでDCBでは臨床症状からのTLRはわずか9.1%にとどまっており,1年後から2年後までcatch up現象はみられていない。全死亡率はDCBのほうが高いが,手技やDCBと関連していないので安全性も担保されている。サブグループ解析で糖尿病や完全閉塞例でもDCBの効果が見られたが,重症のRutherfordカテゴリーIVの例のみ効果がなかったのは今後の課題である。20cmを越すような長い病変・高度石灰化病変・血栓を伴う病変例に対するDCBの効果や,DCBとDES・アテレクトミーとの比較試験が望まれる。PAD例に対する新旧種々の治療法の中で,最も有効で安全で,しかも費用対効果がある手段を明らかにする道のりは,欧米でさえまだ長い。(星田
デザイン 無作為割付け,単盲検,多施設(欧州13施設,米国44施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は12か月(予定追跡期間は5年)。
登録期間は2010年9月~’11年4月(IN.PACT SFA I),’12年4月~’13年1月(IN.PACT SFA II)。
対象患者 331例。中等度~重度の間欠性跛行または安静時虚血肢疼痛(Rutherford分類2~4)があり,浅大腿動脈および近位膝窩動脈に病変長4~18cm・狭窄率70~99%の病変,または病変長≦10cmの閉塞を認める患者。
■患者背景:平均年齢(DCB群67.5歳,PTA群68.0歳),男性(65.0%, 67.6%),糖尿病(40.5%, 48.6%),高血圧(91.4%, 88.3%),高脂血症(84.5%, 82.0%),現喫煙(38.6%, 36.0%),冠動脈疾患(57.0%, 55.0%),Rutherford分類(2:37.7%, 37.8%, 3:57.3%,  55.9%, 4:5.0%, 5.4%)。
・血管造影背景:新規病変(95.0%, 94.6%),膝窩動脈下runoff血管(1枝:13.7%, 26.8%,2枝:41.5%, 33.0%,3枝:41.5%, 35.7%;p=0.04),近位膝窩動脈病変(6.8%, 7.1%),病変長(8.94cm, 8.81cm),完全閉塞(25.8%, 19.5%),重度石灰化(8.1%, 6.2%),狭窄率(81.1%, 81.3%)。
・手技背景:前拡張(96.4%, 85.6%;p<0.001),後拡張(26.8%, 18.9%),バルーン数/患者(1.4, 1.1;p<0.001),解離(0:36.2%, 38.9%,A~C:63.8%, 60.2%),provisional(暫定)ステント(7.3%, 12.6%),手技後狭窄率(19.9%, 19.1%)。
治療法 病変通過後(IN.PACT SFA I),前拡張後(IN.PACT SFA II),2:1にランダム化。
DCB群(220例):paclitaxelコーティングDCB(IN.PACT Admiral DCB)を使用。
PTA群(111例):標準的PTAバルーンを使用。IN.PACT SFA IIでは参照血管径より1mm小さくした。
バルーン拡張時間は≧180秒とした。標準的PTAによる後拡張は術者に一任。PTA不成功(残存狭窄率≧50%あるいは≧グレードDの血流制限性解離)の場合は暫定ステントを許可。手技前24時間または手技後2時間以内にローディングドーズとしてaspirin 300~325mg,clopidogrel 300mgを投与。手技中は活性化凝固時間≧250秒でheparinを投与。手技後はaspirinとclopidogrelなどによる抗血小板薬2剤併用療法をステント非留置例は≧1か月,留置例は≧3か月実施。
結果 [手技成績]
aspirinとその他の抗血小板薬の処方率は退院時97.6%,30日後87.6%,12か月後51.5%で,両群同等。
デバイス成功(デリバリー・拡張・減圧・回収成功かつ<定格破裂圧で破裂なし)は,DCB群99.0%,PTA群98.5%。
手技成功(残存狭窄率≦50%[ステント非留置例],≦30%[ステント留置例])は,99.5%, 98.2%。
臨床的成功(死亡,標的肢大切断,標的病変血栓症,標的血管再血行再建術[TVR]回避)は,99.1%, 97.3%。
[一次エンドポイント]
12か月後の一次開存率はDCB群がPTA群より有意に高かった(82.2% vs 52.4%, p<0.001)。
DCB群は臨床症状によるTLRが有意に少なく(2.4% vs 20.6%, p<0.001),症状の持続的改善(標的肢切断,TVR,Rutherford分類悪化の回避)を認めた患者の割合が有意に高かった(85.2% vs 68.9%, p<0.001)。
足関節・上腕血圧比はDCB群が有意に高かった(0.951 vs 0.886, p=0.002)。
[安全性]
30日後のデバイス・手技関連の死亡,標的肢の大切断は発生しなかった。
12か月後の血栓症は両群ともに少なく(1.4% vs 3.7%),全死亡はDCB群の4例のみ。
[機能的転帰]
歩行障害は両群で改善。EuroQOL(EQ)-5D Indexのベースラインからの変化にも有意差はなく(0.1059 vs 0.0730, p=0.095),IN.PACT SFA IIのみで評価した6分間歩行距離も,両群で改善した(38.7m vs 59.1m)。
★結論★症候性大腿膝窩動脈疾患患者において,DCBはPTAより1年後の転帰が良好で,安全性も良好であった。
Clinicaltrials.gov. No.: NCT01175850 & NCT01566461
文献
  • [main]
  • Tepe G et al for the IN.PACT SFA trial investigators: Drug-coated balloon versus standard percutaneous transluminal angioplasty for the treatment of superficial femoral and popliteal peripheral artery disease: 12-month results from the IN.PACT SFA randomized trial. Circulation. 2015; 131: 495-502. PubMed
  • [substudy]
  • 2年後の結果-DCB群での1年後の良好な一次開存は持続。PTA群より再施行率が低いが,機能的改善は同等。
    24か月後の結果:一次開存率はDCB群がPTA群より有意に高く(78.9% vs 50.1%),臨床症状によるTLR施行率が低かった(9.1% vs 28.3%;ともにp<0.001)。30日後の安全性の主要評価項目(デバイス・手技関連の死亡・標的肢大切断と24か月後の臨床症状によるTVRの回避率)もDCB群が高かった(87.4% vs 69.8%, p<0.001)。デバイス・手技関連の死亡と大切断は両群ともにみられなかったが,全死亡率はDCB群のほうが高かった(8.1% vs 0.9%, p=0.008)。血栓症は少なく(1.5% vs 3.8%),2年目の発生はなかった。
    EQ-5D質問票で評価したQOLと6分間歩行距離は両群ともに同等に改善。DCB群はPTA群より低いTVR施行率で,同等レベルのQOLと機能的改善を達成した:J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 2329-38. PubMed

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収載年月2016.04