循環器トライアルデータベース

GENESIS-PRAXY
Gender and Sex Determinants of Cardiovascular Disease: from Bench to beyond-Premature Acute Coronary Syndrome

目的 社会進出など女性を取り巻く環境が大きく変化しているなか,急性冠症候群(ACS)後の死亡リスクが女性では男性より上昇するという性差に,生物学的性だけではなく,男女の社会的役割や人格的特性を反映するジェンダー的特徴,さらに心理社会的ストレスが関連している可能性が指摘されている。しかし,そのような特徴が心血管転帰に関連するかどうかは明らかでない。
2014年に若年女性の男性とくらべたACS後の治療実施率の低さは,ジェンダー関連の女性的特徴が一因であることを示したGENESIS-PRAXYにおいて,ACSによる入院患者におけるジェンダー的・性的特徴と退院後12か月間の初発のACS再発,主要有害心イベント(MACE;ACS再発,心臓死,血行再建術),全死亡との関連を推定し,その関連経路を探索した。
主要評価項目は,12か月間のACS再発。
コメント 男性,女性とも生まれてきた赤ん坊の時には差異が小さい。思春期の身体的特徴に差異が現れ,成人の思考法にも差異がある。各国の文化に応じて,生活習慣にも差異が生じる。子供の頃に見ていた「奥様は魔女」などのテレビ番組では,アメリカにおける仕事,家庭内の役割の差異もあった。最近の映画などでは家庭内の役割の差異は減少しており,ニューヨークの街を歩いても働いている女性は多く,男女の生活習慣の見かけの差異は減少している。
男性,女性にかかわらず,社会,家庭では各々個人は割り付けられた役割を演じている。自由気ままに生きている人はいない。しかし,女性らしさスコアに代表される「女性」の役割を演じるほうが心理的ストレスは高いのかもしれない。本研究では実態として急性冠症候群の予後に男女差がないことを示した。しかし,女性らしいスコアが高いと予後が悪いとされた。本研究は,われわれが期待する「女性らしいイメージ」を実際に女性が演じることは,「生命を削るほどきつい」場合があることを示した。個人としては,女性には「女性らしいイメージ」を維持して欲しい。しかし,病気に対する医師としては,「女性らしいイメージ」を演じなくてもいいよ,とのメッセージを自分の患者に伝えることも必要かもしれない。(後藤

CMAJ. 2014.; 186: 497-504.へのコメント
急性冠症候群における再灌流療法施行開始は女性の方が結果として遅かった。心筋梗塞の痛みは痛覚神経による痛みではないが,胸痛発症の正確な原因は理解されていない。男性,女性の予後に差異がなかったので,心筋梗塞の重篤度には大きな差異はなかったのであろう。それでも女性では,胸痛が少ないこと,胸痛後大慌てで病院に行って治療を受ける人が少ないことが,何を意味しているのかは興味深い。妊娠,出産があるので,痛みへの耐容性が女性において高いのかもしれない。さすが,「痛みくらい我慢しろ」という暴君的夫はわれわれの祖父くらいの年代で終わりであろうから,痛みも含めた環境変化に対する耐容性が女性において強いというのが私の解釈であるが,如何であろうか?(後藤

J Am Heart Assoc. 2014; 3: e000901.へのコメント
医師としてわれわれは疾病と対峙する。しかし,医師が科学に基づいた治療により予後を改善できる力には限界がある。われわれは,「時に癒し,しばしば助け,常に慰む」を医療の基本と考えている。臨床医の活動の大半は,「患者の話を聞いて不安を減ずる」ことにある。実際に臨床医としての経験でも,疾病発症後の不安は男性よりも女性において強いように思われる。その意味では,人間としての臨床医の必要性は,女性において男性よりも大きいのかもしれない。(後藤
デザイン コホート研究,多施設(カナダ24施設,米国1施設,スイス1施設)。
期間 追跡期間は12か月。
登録期間は2009年1月~’13年4月。
参加者 909例(女性273例,男性636例)。18~55歳のACSによる入院患者。
■患者背景:年齢中央値48歳,既婚(ジェンダー関連スコアの第1三分位群86%,第2三分位群58%,第3三分位群60%),生物学的女性(2%, 20%, 66%);男性(98%, 80%, 34%),白人(89%, 85%, 88%),コカイン使用(3群とも15%),>2ドリンク/日の飲酒(43%, 37%, 30%),違法薬物使用(40%, 41%, 37%),身体活動量が多い(90%, 89%, 88%),現喫煙(37%, 40%, 43%)。
・臨床的特徴:重度の不安(HADS[Hospital Anxiety and Depression Scale]スコア≧8;31%, 41%, 54%),重度のうつ病(HADSスコア≧8);19%, 22%, 29%),2型糖尿病(12%, 13%, 23%),高血圧(44%, 43%, 56%),脂質異常症(59%, 55%, 52%),心血管疾患(CVD)家族歴(21%, 19%, 27%),肥満(40%, 38%, 40%),CVイベント既往(15%, 23%, 28%),ST上昇型心筋梗塞(STEMI)(58%, 60%, 53%),非STEMI(全群34%),GRACE(Global Registry of Acute Coronary Events)スコア(71, 70, 71)。
・治療背景:胸痛発症~救命救急室到着の時間(中央値:3.5時間,3.2時間,3.9時間),12か月後の外来受診回数(1.3回,1.1回,1.3回),カウンセリング:禁煙(40%, 45%, 54%);食生活(69%, 71%, 72%);心臓リハビリテーション(78%, 71%, 72%),退院時処方(aspirin:97%, 97%, 94%,その他の抗血小板薬:85%, 88%, 77%,ACE阻害薬:76%, 71%, 64%,β遮断薬:86%, 87%, 83%,スタチン:97%, 93%, 92%)。
調査方法 ジェンダー関連の特徴(社会的役割など)を自記式質問票で評価し,生物学的な性と独立して関連した7因子(主たる所得者,個人所得,家事労働時間/週,主たる家事労働者,家庭内ストレスレベル,Bem Sex Role Inventoryの男性らしさスコア・女性らしさスコア)を抽出。これらを用いてジェンダー関連スコア(範囲0~100%)を算出して3群にわけ(第1三分位群:0~33.3%[男性的特徴],第2三分位群:33.4~66.6%[男性・女性的特徴],第3三分位群:66.7~100%[女性的特徴]),イベントとの関連を評価した。
次に,その関連経路を探索するため,単変量解析でジェンダー関連スコアと独立して関連した特徴(不安,うつ病,CVD家族歴,喫煙,脂質異常症,高血圧,糖尿病,退院時のACE阻害薬・抗血小板薬・スタチン処方)をモデルに加え,関連への影響を検証した。
結果 [性,ジェンダーと転帰の関係]
12か月後のACS再発は35例(3%;生物学的男女ともに3%),MACEは75例(8%;男女ともに8%),死亡は9例(<1%;男女ともに<1%)で,男女間差はみられなかった(ACS再発:調整ハザード比0.93;95%信頼区間0.45~1.92, MACE:0.71;0.41~1.23)。
一方,ジェンダー関連スコアで比較すると,ACS再発率は第1,第2三分位群の2%に対し第3三分位群5%。性,年齢,民族,CVイベント既往,GRACEスコア,保有CV危険因子数で調整後,ジェンダー関連スコア0~100はACS再発と有意に関連し(4.50;1.05~19.27;p=0.04),女性的特徴を有する患者は男性的特徴を有する患者よりリスクが高いことが示された。
MACEでも有意ではないが,同様の傾向が示された(6% vs 9% vs 9%:1.54;0.90~2.66;p=0.12)。
全死亡は0% vs 1% vs 1%で,検出力不十分のため多変量解析は行わなかった。
[ジェンダー関連スコアとACS再発との関連経路]
第3三分位群に多かった「重度の不安」をモデルに加えると,第3三分位群とACS再発の関係は弱まり,非有意となった(3.56;0.81~15.61;p=0.09)。その他の因子は影響を及ぼさなかったことから,両者の関連は不安の増加を介している可能性が示された。
生物学的女性はACS再発とは関連しなかった(0.50;0.18~1.40;p=0.18)。
★結論★若年成人ACS患者において,ジェンダーの女性的特徴は生物学的な女性とは独立して12か月後のACS再発リスクの増加と関連した。

関連トライアル:VIRGO

[主な結果]
  • Pelletier R et al for the GENESIS-PRAXY investigators: Sex versus gender-related characteristics: which predicts outcome after acute coronary syndrome in the young? J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 127-35. PubMed
    Schiebinger L and Stefanick ML: Gender matters in biological research and medical practice. J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 136-8 PubMed
  • 早発性ACS治療の性差-基準時間内の治療開始率は男女ともに低いが,女性のほうがより低い。女性の低治療率と関連したのは不安,胸痛なし,ジェンダーの女性的特徴など。
    急性冠症候群(ACS)(1,123例)の女性(32%・年齢中央値50歳)は男性(49歳)にくらべ,door-to-ECG(女性21分 vs 男性15分)≦10分:29% vs 38%,血栓溶解開始(36分,28分)≦30分の達成率が低く(32% vs 59%),STEMIでのpPCI・血栓溶解,非STEMIでの非pPCI施行率が低かった。不安は女性のみで治療に影響を及ぼしたが,危険因子数,胸痛なし,low social support,ジェンダーの女性的特徴,家事責任は男女問わず関連(Pelletier R et al for the GENESIS-PRAXY Investigators: Sex-related differences in access to care among patients with premature acute coronary syndrome. CMAJ. 2014; 186: 497-504.)。 PubMed
  • ACS後のHRQLの性差-1年後のHRQLは女性のほうが不良。生物学的性よりも女性的特徴,社会的支援などのジェンダー関連因子の影響が強い。
    ACS(1,213例;年齢中央値49歳)の女性は男性(68%)より1年後の健康関連QOL(HRQL)が身体的,精神的スコアともに低かった。HRQLと強く関連した因子はジェンダー関連の女性的特徴,社会的支援,家事責任で,生物学的性はほとんど関連しなかった(Leung Yinko SS et al for the GENESIS‐PRAXY investigators: Health-related quality of life in premature acute coronary syndrome: does patient sex or gender really matter? J Am Heart Assoc. 2014; 3: e000901.)。 PubMed

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収載年月2016.03