循環器トライアルデータベース

CANHEART Immigrant
Cardiovascular Health in Ambulatory Care Research Team Immigrant

目的 多くの高所得国で少数民族の移民の割合が増加しているが,移民における心血管(CV)イベントの発症やその原因の民族間差についてはほとんどわかっていない。
年間およそ25万人の移民を受け入れ,高所得国でもっとも民族的・文化的多様性に富むカナダで,国民のCV健康の評価と改善を目的として開始されたビッグデータ研究において,オンタリオ州在住の第一世代移民の10年主要CVイベント発症率および古典的危険因子保有状況を長期居住者と比較した。
主要評価項目は,主要CVイベント(急性心筋梗塞[AMI]・脳卒中・血行再建術[PCI・CABG]による入院,虚血性脳心血管疾患死の複合エンドポイント)。
コメント Circulation. 2015; 132: 1549-59.へのコメント
大規模な,カナダへの移民の心血管病の発症率とそのリスクを考察したグローバルな意味で貢献度の高いデータベース研究である。心血管病のリスクを見るうえで,古典的な疫学調査が重要であることは言うまでもない。何十年もかけて影響因子を同定するという観点からみると,環境の変化という比較的短期間で影響因子を解析できる移民研究も効率の良い方法であるが,十分な説得性がないのも事実である。この論文でも取り上げられているNI-HON-SAN研究がよい例である。
しかし,本研究のように大規模かつ200以上の国からの移民研究ということであれば,ある程度の説得性が担保されるものと思われる。古典的な危険因子で説明できるものが多い一方で,それらで調整しても残るリスクがあることが示されており,人種的,もしくは遺伝的な危険因子があることを改めて示唆している。ただし,移住の期間によってもリスクが変化することから,やはり環境因子が強い影響因子であることには間違いなく,リスク因子に関する教育が重要であることを示している。カナダでは,移民に対する健康教育をかなりしっかりしているが,リスクの重みがその人種なりに見られるということは,食習慣や移住前の環境因子,文化的因子など,危険因子の判断についていまだ解明できていないという意味で,謙虚であることの重要性を示唆しているものと思われる。グローバルな意味で,心血管病の予防を考察する際に重要な情報源となる研究といえるだろう。(寺本
デザイン 後ろ向きコホート研究。
期間 平均追跡期間は9.3年(移民コホート)。
参加者 移民コホート:82万4,662人(男性41万2,875人,女性41万1,787人)。1985~2000年にオンタリオ州に到着し,2002年1月1日時点に同州在住の30~74歳の第一世代移民(カナダ移民局の永住権保有者データベースから抽出)。
対照コホート:520万258人(248万4,554人,271万5,704人)。オンタリオ州生まれ,または1985年以前に同州に到着した長期居住者(Ontario Registered Personsデータベースから抽出)。
除外基準:2002年以前のCVイベントによる入院例(一次予防コホート創出のため)。
■移民背景:出生国201か国(母国語179),平均年齢(移住時35.6歳,2002年1月1日44.0歳),教育≦12年48.8%,大学卒業24.2%,出生国(高所得国21.7%,中所得国56.9%,低所得国21.4%)。
参加者背景:現喫煙(男性:移民群24.5%,対照群28.7%[女性:8.6%, 23.8%]),高血圧(17.9%, 20.6%[20.3%, 21.3%]),糖尿病(8.8%, 7.3%[8.2%, 6.0%]),総コレステロール(TC;204.6, 206.5mg/dL[201.1, 206.9mg/dL]),HDL-C(49.1, 49.9mg/dL[59.6, 61.9mg/dL]),TC/HDL-C比(両群とも4.38[3.57, 3.55]),BMI(25.6, 27.2kg/m²[24.7, 26.0 kg/m²]), BMI≧30kg/m²(10.2%, 21.5%[11.3%, 18.5%]),心危険因子スコア(2.18, 2.28[1.79, 2.09])。
調査方法 民族は次の8つに分類:東アジア人(中国,韓国など),東南アジア人(フィリピン,ベトナムなど),黒人(サハラ以南アフリカ,カリブ地方),西アジア/アラブ人(中東,西アジア,旧ソビエト連邦),ラテンアメリカ人(中南米),南アジア人(パキスタン,インド,スリランカ),東欧系白人,西欧系白人(米国,オーストラリア,ニュージーランド,南アフリカも含む)。
9つの一般住民健康関連データベースとの照合によりCVイベント,危険因子に関する情報を収集。改善可能な4つの危険因子(喫煙,糖尿病,高血圧,高脂血症)の有無をポイント化する心危険因子スコアを作成し,移民および対照コホートで算出した。
結果 [年齢調整10年主要CVイベント]
767万4,691人・年追跡で主要CVイベント発症は19,127件。
発症率は移民のほうが対照にくらべ30%低かった(男性:移民群5.6,対照群8.1[女性:2.4, 3.4/1,000人・年])。イベント別でも移民のほうが低かった(AMI:2.1, 3.0[0.8, 1.2],脳卒中:1.0, 1.3[0.8, 1.0],血行再建術:3.6, 4.8[1.1, 1.5],CV死(0.8, 1.5[0.4, 0.7/1,000人・年])。
・民族別
発症率がもっとも低い東アジア人(おもに中国人)ともっとも高い南アジア人には約4倍の差があった(男性:2.4 vs 8.9;女性:1.1 vs 3.6/1,000人・年)。
AMI/脳卒中比は東アジア人,黒人の男性(ともに1.0/1,000人・年)にくらべ南アジア人の男性が3倍高かった(3.0/1,000人・年)。東アジア人では居住期間≧10年の移民は<10年よりリスクが高かったが(男性40% ,女性60%上昇),他の民族ではほとんど差がなかった。
・出生国別
移民数≧5,000人の出生国29か国で年齢調整主要CVイベントを比較すると,男性のほうが女性よりばらつきが大きかった。一般に同一地域内での国による違いはみられなかったが,中東・西アジアではイラク,アフガニスタン生まれの移民は近隣国生まれよりCVイベント率が高かった。両国は近隣国より難民の割合が高かった(61%・79% vs 19%)。
[CANHEART心危険因子スコアとCVイベントの関係]
心危険因子スコアと年齢調整10年主要CVイベントの相関係数は,民族別では男性0.76,女性0.92,出生国別ではそれぞれ0.81,0.75で,危険因子保有状況の差がイベント発症率の差の一因であることが示された。
[社会人口統計学的因子・危険因子の影響]
年齢・社会経済的状況,古典的危険因子で調整後,民族別のCVハザード比のばらつきは縮小したが,南アジアの男性を除く全民族でリスクは依然として対照より有意に低かった。
ただし,一部の民族間の差は調整後も有意であったことから,出身民族(ethnic origin)はCVイベントの独立した予測因子であることが示された。
★結論★カナダへの多民族移民におけるCVイベント発症率には顕著な差がみられた。この差を古典的危険因子のみで説明することはできなかった。

[主な結果]
  • Tu JV et al: The Incidence of major cardiovascular events in immigrants to Ontario, Canada: the CANHEART Immigrant study. Circulation. 2015; 132: 1549-59. Epub 2015 Aug 31. PubMed
  • HDL-Cは低値でも高値でも死亡リスクが上昇。社会経済的,ライフスタイル,合併症など多くの因子と関係し,健康不良のマーカーであってCV特定の危険因子ではない可能性がビッグデータから示された。
    HDL-Cと心血管(CV)死,非CV死の関係を再評価するために,2008年1月1日に40~105歳のCVあるいは重篤な合併症非既往例63万1,762人の平均4.9年追跡後の死因別死亡と2007年の空腹時HDL-C値との関係を検証した。背景:平均年齢57.2歳,女性55.4%,HDL-C 55.2mg/dL:男性48.9mg/dL,女性60.2mg/dL,トリグリセライド(TG)134.2mg/dL,非HDL-C 146mg/dL。
    HDL-CとLDL-C間に一貫した関係はみられなかったが,HDL-C高値例はTGが低値だった。
    死亡は17,952例。標準化全死亡率は男性8.1例/1,000人・年,女性6.6例/1,000人・年。CV死4,658例,癌死亡6,850例,その他の死亡6,444例。
    HDL-C低値(≦30, 31~40mg/dL)例は,低収入,非健康的なライフスタイル,TG・その他の危険因子高値例などが多く,対照例(男性:41~50,女性:51~60mg/dL)とくらべCV死や癌死亡率などの高リスクと独立して関連した。一方で,HDL-C高値例(男性:>70,女性:>90mg/dL)でも非CV死リスクが有意に高かった(Ko DT et al: High-density lipoprotein cholesterol and cause-specific mortality in individuals without previous cardiovascular conditions: the CANHEART study. J Am Coll Cardiol. 2016; 68: 2073-83.)。 PubMed

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収載年月2016.02
更新年月2017.01