循環器トライアルデータベース

ADVANCE

目的 高リスクの症候性大動脈弁狭窄患者における経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)の施行が急速に増加しているが,ランダム化比較試験の結果から,薬物治療や従来の開胸手術(SAVR)とくらべた神経学的イベント(脳卒中,一過性脳虚血発作[TIA])リスクの増加が懸念されている。
自己拡張型人工弁(Medtronic社CoreValve)を用いたTAVR施行患者の臨床転帰を実地臨床で評価することを目的としているADVANCE研究で,神経学的イベントの特徴を解析する。
評価項目は,初発神経学的イベント(脳卒中,TIA)の発症率,発症時期,病型,予測因子。
コメント 手術適応のある重症症候性大動脈弁狭窄(AS)のうち1/3は開胸手術(SAVR)が出来ない病態である。このようなハイリスク例に対してTAVRが行われつつあり,標準的内科治療よりもすぐれSAVRと同等の臨床転帰と考えられている。手術が出来ない重症AS例にSapienを用いたPARTNER試験では30日後までに6.7%の脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)を生じている。この数字は標準的内科治療1.7%, SAVR 2.4%よりも高いことが危惧されている。一方,CoreValveを用いたUS CoreValve Pivotal High Risk試験ではSAVRよりTAVRの方が1ヵ月後のstroke/TIAの発生率は逆に低い(6.2% vs 4.9%)。TAVRがさらに対象を拡大するには脳卒中/TIA発生率をより低くする必要があり,その予測因子を明らかにするためリアルワールドでのCoreValveの登録研究であるADVANCE研究のsub-studyが今回行われた。
全体の30%を占める周術期の脳卒中に対する有意な予測因子はなく,カテ操作による大動脈弁/大動脈弓の石灰化・粥状硬化病変が塞栓子となることが考えられ,塞栓防止デバイスの使用が考慮される。術後30日以内の脳卒中例は予後不良であり,その50%は術後2日以内に生じており,2日以内とそれ以降で発生予測因子が異なるかもしれない。2-30日後の脳卒中では女性(血管径が小さく血管合併症が多い),急性腎障害,重篤な血管合併症(低血圧持続)が予測因子であり,この対応が今後の課題である。術後1ヵ月-2年間の脳卒中に関連する予測因子はCABGなので,各個人が持つ固有の動脈硬化進展因子が関与しているのであろう。
ADVANCEと比べて症例のハイリスク度がほぼ同等でリアルワールドでのSapien XTを用いたSOURCE XT Registryでは2年後の脳卒中発生率がより高い。その理由は,アクセスルートがADVANCEではほぼ大腿部であること,デリバリーサイズ・脳卒中判定基準が違うことに由来する。SAVRに比してTAVRの脳卒中発生率がそれほど高くないことを示したと思われるが,以前のTAVRの試験よりもADVANCEでは軽症例が多いので脳卒中発生率が低くなりその予測因子が出にくいこと,activeに脳卒中発生を調査していないため見かけ上脳卒中発生率が低いだけとも考えられる。それでもデバイス・手技の向上スピードが目覚ましいTAVRのような治療法に対して,少し前に行われた研究論文の臨床結果がその時代のリアルワールドを反映出来ないことに注意が必要である。TAVRでは周術期に脳卒中を起こさせない工夫が重要であることがこの論文のメッセージと考えたい。(星田
デザイン 登録研究,多施設(欧州,コロンビア,イスラエルの12か国44施設)。
期間 追跡期間は2年。
登録期間は2010年3月~’11年7月。
参加者 996例。TAVR施行実績40例以上の施設(ラーニングカーブの影響を排除するため)。ハートチーム(TAVR経験のあるインターベンション心臓専門医1名以上,胸部心臓外科医1名以上からなる)が患者の手術リスクと適格性を評価した。
■患者背景:平均年齢81.1歳,女性51%,NYHA III~IV度79.6%,脳血管疾患13.1%。
手技背景:18Fカテーテル,弁サイズ26・29mm,弁輪径20~27mm。
調査方法 手技中はheparinを投与し,手技後は6か月間のaspirin+clopidogrelによる抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を推奨。warfarinの投与とDAPTの期間は各施設の医師の裁量とし,施設の標準治療に準じた。
初発神経学的イベント(周術期[0~1日後],早期[2~30日後],遠隔期[31~730日後])の発症と予測因子を評価。脳卒中,TIAの重症度はVARC-1基準に従った。予測因子の解析では,手技合併症,有害事象を時間依存共変量とし,ステップワイズ法により変数を選択。
結果 [脳卒中/TIAの発症時期,病型,患者背景]
脳卒中発症率は周術期1.4%,早期3.0%,遠隔期5.6%,重度脳卒中は0.5%, 1.2%, 2.9%で,いずれの時期も大半は虚血性脳卒中であった(それぞれ12/14例,15/16例,16/21例)。
周術期の脳卒中,脳卒中/TIA発症例と非発症例の患者背景に有意差は認められなかった。
早期の脳卒中発症例は女性が多く(81.3% vs 49.8%, p=0.02),Society of Thoracic Surgeons (STS) スコアが高く(8.7% vs 6.3%, p=0.04),主要血管合併症が多かった(31.3% vs 11.1%, p=0.01)。脳卒中/TIA発症例も同様の結果であった(STSスコア:8.5% vs 6.3%, p=0.04,主要血管合併症:29.4% vs 11.0%, p=0.02)。
遠隔期の脳卒中発症例はCABG既往が多く(47.6% vs 21.0%, p=0.003),脳卒中/TIA発症例も同様であった(35.3% vs 21.0%, p=0.047)。
脳卒中,脳卒中/TIAの発症に手技時の血管アクセスの影響はみられなかった。
[生存率]
早期脳卒中発症例は非発症例にくらべその後の生存率が有意に低かった(1年後:59.6% vs 83.1%,2年後:52.2% vs 75.1%;log-rank p=0.002)。脳卒中/TIA発症例も同様であった(63.3% vs 83.1%, 56.7% vs 75.0%;p=0.004)。
[脳卒中,脳卒中/TIAの予測因子]
多変量解析で,早期脳卒中発症の予測因子は,女性(男性のハザード比0.26;95%信頼区間0.07~0.92, p=0.037),急性腎障害(4.32;1.19~15.64, p=0.026),主要血管合併症(3.12;1.04~9.31, p=0.042),脳卒中/TIA発症の予測因子は心房細動既往(3.02;1.12~8.17, p=0.030),主要血管合併症(3.99;1.41~11.34, p=0.009)であった。
遠隔期の脳卒中,脳卒中/TIAの予測因子はともにCABG既往のみであった(脳卒中:3.26;1.38~7.67, p=0.007,脳卒中/TIA:1.96;0.97~3.95, p=0.062)。
★結論★高リスク大動脈弁狭窄症患者において,自己拡張型人工弁によるTAVR後の脳卒中発症率は早期,遠隔期ともに低かった。神経学的イベントの予測因子は発症時期により異なった。

[主な結果]
  • Bosmans J et al for the ADVANCE study investigators: the incidence and predictors of early- and mid-term clinically relevant neurological events after transcatheter Aortic Valve Replacement in Real-World Patients. J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 209-17. PubMed
    Thourani VH et al: The heart and the head: neurological implications of transcatheter aortic valve replacement. J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 218-20. PubMed

▲pagetop
EBM 「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収載年月2015.11