循環器トライアルデータベース

GARY
German Aortic Valve Registry

目的 ドイツ全域で大動脈弁狭窄の侵襲的治療を受けた患者の詳細なデータが登録されているGerman Aortic Valve Registryを用いて,
(1)2011年登録例の入院中の転帰を検討する(文献1))。
(2)2011年登録例の1年後の転帰を検討する(文献2))。
(3)2011~’13年に登録された経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)施行例の入院中の合併症とその経時的変化を調査し,ラーニングカーブによる合併症発生率の推移と合併症予測因子を検証する(文献3))。
コメント GARY(German Aortic Valve Registry)ではドイツ全域で大動脈弁狭窄の侵襲的治療(外科手術もしくはTAVI)を受けた患者が対象となっており,(1)では2011年登録例13,860例の入院中の転帰が,(2)ではその1年後の転帰が検討されている。(3)ではTAVIに焦点が絞られ2011-2013年にTAVIが施行された15,964例の急性期治療成績の検討がなされている。いずれも観察研究であるが,(1),(2)においては外科手術との比較がなされており意義深い報告となっている。
まず(1)であるが,登録症例のうちTAVIは3,875例(経血管アプローチ[TV-TAVI]2,694例,経心尖アプローチ[TA-TAVI]1,181例)に対し,外科手術は9,985例(AVR単独 6,523例,AVGR+CABG 3,462例)であった。このことからドイツにおいて2011年度のTAVI選択率は約30%であったことがわかる。患者背景はTAVI群でより高齢,また手術リスクが高く,入院中の死亡はAVR 2.1%, AVR+CABG 4.5%, TV-TAVI 5.1%, TA-TAVI 7.7%であった。本治療成績は同じく欧州から発表されているFRANCE 2レジストリでの30日後死亡率9.7%,UK TAVIレジストリでの30日後死亡率7.1%とほぼ同等の成績である。本邦においても2013年10月からTAVI治療が保険診療下に開始,全例登録を義務付けられたNCD(National Clinical Database)レジストリが稼働しており,2015年9月のJTVT(日本経カテーテル心臓弁治療学会学術集会)2015において600例の30日転帰が報告されたところである。本邦における30日死亡率は1.2%であり,この成績はGARYと比べると明らかに良好であった。
(2)は(1)と同じコホートの1年後予後の解析である。1年死亡率はAVR 6.7%, AVR+CABG 11.0%, TV-TAVI 20.7%, TA-TAVI 28.0%でありAVRと比べTAVI施行例のほうが死亡率は高い。観察研究であり単純な比較は当然困難であるが著書らはEuroscore,German AVスコアを用いて層別化を行い,Euroscore>20%,German AVスコア>6の症例群ではAVRとTAVIの間に差はないとし,高リスク患者においてTAVIは外科手術の良い代替になると結論付けた。しかしながら裏を返せば低リスク群においては外科手術の成績がTAVIに勝るとのメッセージとして捉えることも可能であり,低リスク群まで適応を拡大しつつあるTAVIの適応を慎重に考える必要性を提示している。
(3)はTAVIに焦点を絞っており,2011-2013年に登録された症例を解析対象としている。全症例を解析対象とした結果では,院内死亡は5.2%,重度の生命に関わる合併症(SVC)は5.0%,技術的合併症(TCO)は4.7%,胸骨切開による開胸手術への切り替えは1.3%であった。2011-2013年の継時的な変化をみるとSVC(6.8%→4.9%→3.9%),TCO(5.3%→5.0%→4.0%),開胸手術への切り替え(1.6%→1.2%→1.1%),死亡率(5.9%→5.0%→4.9%)といずれも減少傾向を認めた。この結果から欧州においてもTAVIは発展途上の治療であり,治療成績の改善が今後も続いていくものと考えられる。本邦でのこれまでのTAVI治療成績は極めて良好であるといえるが,適応の拡大,施行施設の拡大が進むことを考えるとGARYと同様に継続的に改善するかどうかは興味深いところである。(京都大学医学部循環器内科 齋藤成達,木村
デザイン 登録研究,多施設((1),(2)ドイツの78施設,(3)88施設)。
期間 登録期間は,(1),(2):2011年1月1日~12月31日,(3):2011~’13年;2015年終了予定。
追跡期間は(1),(3)入院期間中,(2)1年;予定追跡期間は5年。
対象 (1),(2)大動脈弁狭窄に対する侵襲的治療施行連続症例13,860例(外科的大動脈弁置換術[AVR]群6,523例,AVR+CABG群3,462例,経血管的[TV]TAVR群2,694例,経心尖的[TA]TAVR群1,181例)。
(3)15,964例。TAVR施行例。
■患者背景:(1),(2);平均年齢(AVR群68.3歳,AVR+CABG群72.5歳,TV-TAVR群81.1歳,TA-TAVR群80.3歳),女性(39.0%, 28.4%, 58.8%, 49.8%),NYHA心機能分類(II度:30.3%, 25.2%, 11.0%, 10.9%,III度:57.1%, 62.6%, 73.1%, 74.8%;IV度:5.1%, 6.4%, 12.5%, 10.9%),冠動脈疾患(CAD)(18.6%, 97.1%, 53.6%, 56.1%),PCI歴(8.0%, 17.3%, 29.0%, 29.5%),心臓手術歴(9.4%, 6.4%, 17.7%, 29.6%),肺高血圧症(10.8%, 11.1%, 39.8%, 23.4%),高血圧(79.5%, 86.1%, 86.4%, 90.0%),心房細動(15.9%, 15.0%, 28.9%, 29.5%),EF 30~50%(21.2%, 28.1%, 30.3%, 35.4%),12か月以内の非代償性心不全(16.5%, 21.2%, 44.9%, 39.5%),アテローム性疾患(20.1%, 27.5%, 27.3%, 42.8%;うち末梢:4.6%, 11.6%, 16.4%, 28.4%),待機的インターベンション(85.1%, 79.4%, 77.5%, 85.4%),大動脈弁口面積(0.86, 0.85, 0.68, 0.68cm²),重度石灰化(57.3%, 62.0%, 63.9%, 65.9%),僧帽弁逆流合併(グレードI:44.7%, 48.2%, 57.8%, 54.4%)(すべてp<0.001),log EuroScore(8.8%, 11.0%, 25.9%, 24.5%)。
(3)平均年齢80.9歳,女性54.1%,log EuroScore中央値 18.3%,German Aortic Valve(AV)スコア*中央値5.6,Society of Thoracic Surgeons(STS)スコア中央値5.0,NYHA心機能分類III~IV度86.1%,CAD 55.1%,心臓手術歴21.0%,肺高血圧症35.7%,薬物治療を要する慢性閉塞性肺疾患(COPD)14.2%,EF<30% 9.5%,末梢動脈疾患(PAD)19.5%。
* 15因子(年齢,性別,BMI,NYHA心機能分類,3週間以内の心筋梗塞[MI],術前の重篤状態,肺高血圧,リズム,EF,再施行,心内膜炎,PAD,COPD,腎不全,緊急治療)から算出。
調査方法
結果 (1)2011年登録例の入院中転帰
[患者背景]
TAVR施行例はAVR施行例より高齢で,リスクが高かった(患者背景参照)。
TAVR施行例のほとんど(TV-TAVR群86.1%,TA-TAVR群90.4%)が,ハートチーム(循環器医1名,心臓外科医1名を含む)の判断によりTAVRを選択された。選択理由は高齢(69%, 72%),フレイル(44%, 48%),手術高リスク(log EuroScore>20%・STSスコア>10%)(64%, 65%),porcelain aorta(5%, 11%),併存疾患(8%, 11%),患者の希望(29%, 15%)。
[周術期パラメータ]
手技時間はAVR群183分,AVR+CABG群242分,TV-TAVR群92分,TA-TAVR群100分。ハートチームによる治療はTV-TAVR群40.3%,TA-TAVR群69.4%。
[手技合併症]
TAVR例の胸骨切開への切替え(TV-TAVR群1.4%,TA-TAVR群2.0%),予定外の心肺バイパス使用(0.7%, 2.1%)などの合併症は少なかった。
血管合併症は1.8%, 2.3%, 15.9%, 4.1%。
[入院中の転帰]
死亡はAVR群2.1%,AVR+CABG群4.5%,TV-TAVR群5.1%,TA-TAVR群7.7%,脳卒中は1.3%, 1.9%, 1.7%, 2.3%。
手技後の房室ブロックによるペースメーカー植込みはTAVR例のほうが多かった(5.2%, 4.5%, 25.0%, 11.3%)。
TAVR例での大動脈弁逆流の残存は少なかった(逆流なし:TV-TAVR群37.2%,TA-TAVR群57.3%,グレードIの逆流:55.5%, 38.6%,グレードII:7.0%, 3.4%)。
[リスク別解析]
予測死亡リスクと実際の死亡リスクを比較すると,EUROScoreは死亡リスクを著しく過大評価した。一方,German AVスコアは全群で低~中等度リスク例の識別能に優れていたが,TV-TAVR群とAVR群では高リスク例の実際の死亡率が予測を有意に下回った。
★結論★外科的大動脈弁置換術後の入院中の転帰は良好であり,またTAVRは手術高リスクおよび高齢患者における代替治療法であることが示された。

(2)2011年登録例の1年後の転帰
[死亡]
1年後のバイタル状態が確認できたのは98.1%。
30日死亡率はAVR群2.4%,AVR+CABG群4.5%,TV-TAVR群5.6%,TA-TAVR群9.0%,
1年死亡率は6.7%, 11.0%, 20.7%, 28.0%とTAVR施行例のほうが死亡率が高かった。ただし,EuroSCOREおよびGerman AVスコアで4群に層別すると,EuroSCORE>20%,German AVスコア>6の症例ではAVRとTV-TAVRの有意差はみられなかった。
[その他の転帰]
1年後の評価終了は89.5%。
脳卒中は3.0%, 4.5%, 4.8%, 3.6%,新規ペースメーカー植込みは7.7%, 7.3%, 26.2%, 14.1%で,いずれもほとんどが入院中の発生であった。
AVRまたはTAVRの再施行は1.5%, 1.1%, 0.7%, 0.3%。
[QOL]
1年後の健康状態について全群の>80%が不変または改善と回答し,治療の満足度も高かった(very good:55.2%, 50.5%, 50.2%, 43.1%, good:32.6%, 35.9%, 36.5%, 35.9%)。
★結論★外科的大動脈弁置換術は,低リスクの患者において1年後の転帰が良好であった。手術高リスクまたは高齢の患者ではカテーテル治療が有効な代替治療法であった。

(3)2011~’13年に登録されたTAVR施行例の入院中の合併症
[手技]
経大腿アプローチ70.7%,経心尖アプローチ27%, 2.3%は別のアプローチを使用。
使用弁はバルーン拡張型52.6%,自己拡張型CoreValve 37.7%,その他の自己拡張型9.7%。
[入院中の合併症とその経時的変化]
死亡は828例(5.2%),重度の生命にかかわる合併症(SVC)発生は792例(5.0%),技術的合併症(TCO)は748例(4.7%),胸骨切開への切り替えは201例(1.3%)。
SVC(2011年6.8%→’12年4.9%→’13年3.9%;p<0.001)とTCO(5.3%→ 5.0%→ 4.0%;p=0.003)は年々減少したが,胸骨切開(1.6%→ 1.2%→ 1.1%),入院中の死亡(5.9%→ 5.0%→ 4.9%)の減少はわずかで有意ではなかった。
合併症発生例の生存率はSVC 59.2%,TCO 82.9%,胸骨切開57.7%。
[合併症の予測因子]
各合併症の独立した予測因子は下記の通り。
死亡:≧2度の大動脈逆流の残存,PVD,僧帽弁逆流>2度,EF<30%,肺高血圧症,NYHA IV度,BMI<22kg/m²,心拍出量低下,心原性ショック,術後の透析開始,術後のMIなど。
SVC:女性,NYHA IV度,EF≦30%,術前の強心薬静注,動脈血管疾患,高度石灰化,高度狭窄。
TCO:施行年,男性,EF≦30%,神経学的機能障害,心代償不全,術前の強心薬静注。
胸骨切開の予測因子は特定されなかった。
★結論★TAVRの転帰は良好で,合併症は年々減少していることが示された。SVC発現または胸骨切開を要した患者の生存率が約60%であったことは,TAVR施行患者の管理をハートチームが行うことの重要性を示している。
文献
  • [main]
  • 1) Hamm CW et al for the GARY-executive board. The German aortic valve registry (GARY): in-hospital outcome. Eur Heart J. 2014; 35: 1588-98 PubMed
  • 2) Mohr FW et al for the GARY executive board: The German aortic valve registry: 1-year results from 13,680 patients with aortic valve disease. Eur J Cardiothorac Surg. 2014; 46: 808-16. PubMed
  • 3) Walther et al on behalf of the GARY executive board: Perioperative results and complications in 15,964 transcatheter aortic valve replacements: prospective data from the GARY registry. J Am Coll Cardiol. 2015; 65: 2173-80. PubMed

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収載年月2015.08