循環器トライアルデータベース

DAPT
Dual Antiplatelet Therapy

目的 薬剤溶出性ステント(DES)植込み後の患者において,チエノピリジン系薬剤(clopidogrel・prasugrel)+aspirinによる2剤併用抗血小板療法(DAPT)を1年以上継続した場合の有効性および安全性を評価する。
本試験はFDAの要請に応じて,FDA,ステントメーカー・製薬会社8社,Harvard Clinical Research Institute(HCRI)の官民連携で実施されたもの。共通のDAPT試験プロトコールを使用してHCRIの1試験と4つの市販後調査(TL-PASなど)が行われている。

有効性の一次エンドポイントは,12~30か月後のARC定義によるdefiniteまたはprobableステント血栓症(ST)と,主要有害心・脳血管イベント(MACCE;死亡,心筋梗塞[MI],脳卒中の複合エンドポイント)。
安全性の一次エンドポイントは,12~30か月後のGUSTO基準による中等度~重度の出血。
コメント N Engl J Med. 2014; 371: 2155-66. へのコメント
本試験は,薬剤溶出性ステント(DES)植え込み後の患者において,2剤(aspirin/thienopyridine)の抗血小板療法(DAPT)投与期間12ヵ月と30ヵ月を比較する,無作為割り付け,プラセボ対照,多施設試験である。9,961例が無作為割り付けされ,30ヵ月DAPT 群でステント血栓症の発症リスクおよび主要有害複合エンドポイント(MACCE)が有意に低かった。一方で,出血性合併症の発症リスクは30ヵ月DAPT群で有意に高かった。
DAPT投与期間の長短を比較する試験はこれまでにいくつか実施されているが,これらの試験では出血性合併症の発症リスク増加はDAPT試験と同様にみられるが,虚血性イベントの顕著な抑制はみられていなかった。DAPT試験の結果は,これらの先行研究の結果と大きく乖離しており,実地臨床でDES 植え込み後のDAPT 期間をどうすべきかについて大きな混乱が生じている。
DAPT試験の結果をどのように解釈すべきかについての私見を述べたい。DAPT試験における長期のDAPTによるMACCEの抑制は,すべて心筋梗塞イベントの抑制によるものである。一方で,死亡率は長期のDAPT群で明らかな増加傾向がみられ,この死亡率の増加傾向はLancetに報告されたメタ解析においても示されている。複合エンドポイントはそれを構成する個々のイベントの重要性が同等であるという前提で設定されるべきであるが,バイオマーカー上昇で規定される心筋梗塞と死亡を同等として取り扱うことができないことは明白である。さらにDAPT 試験のMACCEには出血性合併症が含まれていないが,心筋梗塞をMACCEに含めるのであれば,出血性合併症も含めなければならない。
さらにDAPT 試験では,aspirin 単独で治療された患者の年間の心筋梗塞発症率が2.7% と他の試験の結果(0.6-1.6%)に比べて著しく高いことも指摘しておかなければならない。FDA 主導で企業がデータ収集を行った試験であり,他の研究者主導の試験とは event detection の方法論は大きく異なる。研究者主導の試験における心筋梗塞の under-reporting の問題が指摘される訳であるが,一方で研究者主導の試験において臨床的に重要な心筋梗塞が一様に見逃されていた可能性は考えにくい。従って,DAPT 試験における心筋梗塞はバイオマーカー上昇で規定された小さな心筋梗塞を広く拾い上げた可能性が示唆される。DAPT試験の研究者には心筋梗塞サイズについてのデータ開示が求められる。
DAPT期間延長による出血性合併症の増加や死亡率の増加傾向を考えると,DAPT 試験の結果を踏まえても,DES植え込み後の至適DAPT 期間は 基本1年以内であり,心筋梗塞のリスクが極めて高く,一方で出血リスクの高くない患者においてはオプションとして,DAPT期間の延長も考慮される。
今回のDAPT試験の結果は臨床試験における心筋梗塞イベントの位置づけや複合エンドポイントのあり方について大きな問題を提起したと考えている。(木村
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,多施設(11か国452施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は33か月。
登録期間は2009年8月13日~’11年7月1日。
対象患者 9,961例。>18歳,FDA承認DES*植込み後72時間以内のDAPT適応例(22,866例)のうち,植込み後にDAPTをオープンラベルで12か月間施行し,MACCE,再血行再建術,中等度~重度の出血を認めず,抗血小板薬のアドヒアランスが良好だったもの(処方量の80~120%を服用・>14日の休薬なし)。
* sirolimus(SES;Cypher), zotarolimus(ZES;Endeavor), paclitaxel(PES;TAXUS), everolimus(EES;Xience, Promus)溶出ステント。
■患者背景:平均年齢(30か月群61.8歳,12か月群61.6歳),女性(24.7%, 26.0%),非白人(8.9%, 8.6%),BMI(30.5 kg/m² 30.6kg/m²),糖尿病(31.3%, 30.1%),高血圧(75.8%, 74.0%),現在/過去1年間の喫煙(24.6%, 24.7%),PCI歴(30.4%, 31.0%),MI既往(22.0%, 21.1%),PCI適応(安定狭心症:37.5%, 37.8%;不安定狭心症:両群とも16.7%;非ST上昇型MI:両群とも15.5%;ST上昇型MI:10.6%, 10.3%),STリスク因子保有(50.7%, 51.0%)。
・手技背景:使用DES(EES:46.7%, 47.7%;PES:26.9%, 26.6%;ZES:12.8%, 12.6%;SES:11.5%, 10.9%),治療病変数(1.30, 1.29),ステント数(1.47, 1.45),最小ステント径≧3mm(53.4%, 53.6%),ステント長(27.70mm, 27.43mm),固有冠動脈(97.1%, 96.8%),治療血管(左前下行枝:41.2%, 40.4%;右冠動脈:32.7%, 32.1%;回旋枝:22.4%, 23.5%),clopidogrel/prasugrel(DAPT開始時:65.2/34.8%, 65.4/34.6%;ランダム化時:63.5/34.7%, 65.2/34.8%)。
治療法 DES植込み後,DAPTをオープンラベルで12か月間施行後にランダム化。
30か月群(5,020例・6,594病変):DAPT継続。
12か月群(4,941例・6,413病変):プラセボ+aspirinに切り替え。
治療期間は18か月。終了後,チエノピリジン系薬中止の影響を評価するため全例にaspirinを3か月投与。
結果 試験治療中止は21.4%, 20.3%(p=0.18)。
[有効性の一次エンドポイント]
12~30か月後のSTの発生率は30か月群が少なかった(0.4% vs 1.4%:ハザード比0.29;95%信頼区間0.17~0.48, p<0.001)。
MACCEの発生率は30か月群が有意に低かった(4.3% vs 5.9%:0.71;0.59~0.85, p<0.001)。これはMIの低下によるもので(2.1% vs 4.1%:0.47;0.37~0.61, p<0.001),死亡(2.0% vs 1.5%:1.36;1.00~1.85)と脳卒中(0.8% vs 0.9%:0.8;0.51~1.25)には差を認めなかった。
追跡期間33か月での解析結果も同様であった。
[安全性のエンドポイント]
中等度~重度の出血は30か月群のほうが多く(2.5% vs 1.6%, 1.61;1.21~2.16;p=0.001),30か月群の非劣性は示されなかった(p=0.70)。重度の出血は同等であった(0.81% vs 0.56%, p=0.15)。
[その他]
一次エンドポイント,MIにおけるサブグループ解析の結果も同様であった。
STとMIのリスクは,両群ともにチエノピリジン系薬中止後3か月間に増加した(30か月群におけるランダム化治療終了前3か月間→終了後3か月間のハザード比:ST:0.12→ 0.31, MI:0.43→ 1.12)(supplementary appendix)。
★結論★DES植込み後1年以上のDAPT継続は,1年後にaspirin単剤に切り替えた場合にくらべ,ステント血栓症およびMACCEのリスクが有意に低かったが出血リスクは増加した。
文献
  • [main]
  • Mauri L et al for the DAPT study investigators: Twelve or 30 months of dual antiplatelet therapy after drug-eluting stents. N Engl J Med. 2014; 371: 2155-66. PubMed
  • [substudy]
  • チエノピリジン系薬剤中止後の心筋梗塞リスクは,DAPT期間12か月,30か月ともに大半がステント血栓症非関連。PCI後12~15か月のリスクが高く,非PES例で低かった。
    PCI施行後のDAPT 12か月実施例におけるチエノピリジン系薬剤投与中止後の心筋梗塞(MI)の危険因子は明確になっていない。
    ランダム化から3か月(DAPT 開始から12~15か月後)および試験薬投与中止後3か月(aspirinのみの投与30~33か月後)の累積MIを評価し,それぞれの時期のMIハザードを検証した。
    月ごとのMI発症累積発症率は,12~15か月後(;15~30か月後)はチエノピリジン系薬剤継続投与群がプラセボ群より有意に低かった(0.12% vs 0.37%;0.12% vs 0.20%)が,30~33か月後は継続群のほうが多かった(0.30% vs 0.15%;0.18% vs 0.17%)。
    非PES群はそれぞれ,0.13% vs 0.27%;0.12% vs 0.17%,30~33か月後は0.18% vs 0.17%。
    MIの大半がステント血栓症非関連であった(12~15か月後:74%,30~33か月後:76%)。
    多変量解析後の有意なMI予測因子は,12~15か月後がチエノピリジン系薬剤投与継続(ハザード比0.32),MI既往(2.12),PES vs 非PES(2.11),腎機能不全(2.91),BMI≧中央値30.4kg/m²(0.57),30~33か月後がPCI歴(2.25),PES vs 非PES(2.09),投与継続(1.93),腎機能不全(2.39)。
    12~15か月後のMIリスクはDAPTスコアにかかわらず継続治療群のほうが低かった(DAPTスコア≧2:0.16% vs 0.51%, <2:0.08% vs 0.24%)。一方,30~33か月後は≧2例で継続群のMIリスクが高かったが(0.43% vs 0.18%),<2例では違いはみられなかった(0.16% vs 0.13%):Circulation. 2017; 135: 1720-32. PubMed
  • 心筋梗塞既往とDAPTスコア-既往例は虚血イベントリスクが非既往例より高い。既往のみでの評価よりもDAPTスコア使用でベネフィット-リスク予測能は改善。
    DAPT実施期間決定ツールであるDAPTスコア(JAMA. 2016; 315: 1735-49.)の有用性を,心筋梗塞(MI)既往の有無で検証した結果:MI既往例(5,340例;ステント留置前のみ1,764例,ステント適応MIのみ2,884例,両MI 692例)は非既往例(6,308例)にくらべ12~30か月後のMI発症が多く(3.8% vs 2.4%, p=0.01),GUSTO中等度~重度出血が少なかった(1.6% vs 2.2%, p=0.02)。DAPT継続群はMIの既往を問わず,プラセボ群より12~30か月後のMIリスクが低く(ハザード比:既往例0.46,非既往例0.60),出血リスクが高かった。
    DAPTスコア中央値はMI既往例1(≧2は35%),非既往例2(69.4%)。DAPTスコア≧2例は,DAPT継続群のほうがMI,ステント血栓症がMI既往にかかわらず有意に少なかったが(既往例:2.7% vs 6.0%,非既往:2.6 % vs 5.2%;交互作用p=0.68),出血に差はみられなかった(2.2% vs 2.0%, 1.5% vs 1.1%)。一方,スコア<2例ではDAPT継続群のほうがMI既往を問わず出血リスクが高かったが(3.2% vs 1.2%, 2.9% vs 1.6%;交互作用p=0.38),MI,ステント血栓症に有意差はなかった(2.1% vs 3.2%, 1.5% vs 2.0%;交互作用p=0.76):J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 2492-502. PubMed
  • 糖尿病例でのDAPT>1年の継続-心筋梗塞は減少するが,そのベネフィットは非糖尿病例とくらべ小さい。
    事前に計画された糖尿病(DM)例(3,391例[平均年齢62.7歳])と非DM例(8,257例[60.8歳])でのサブグループ解析の結果:DM例は非DM例より12~30か月のMACCE(6.8% vs 4.3%),死亡(2.5% vs 1.4%),心筋梗塞(MI)(4.2% vs 2.6%)のリスクが高かったが(全p<0.001),ステント血栓症(0.8% vs 0.9%),中等度~重度出血(2.1% vs 1.9%)に差はなかった。DAPT継続によるMACCEの有意な低下は非DM例のみで認められた(DM例:30か月群6.6% vs 12か月群7.0%,非DM例:3.3% vs 5.2%[p<0.001];交互作用p=0.03)。MIの低下も非DM例のほうが大きかった(3.5% vs 4.8%[p=0.058], 1.6% vs 3.6%[p<0.001];交互作用p=0.02;ステント血栓症非関連MI:3.3% vs 3.8%, 1.2% vs 2.3%[p=0.001];交互作用p=0.04)。中等度~重度出血,ステント血栓症,死亡にはDM合併の有無による違いはみられなかった:Circulation.2016; 133: 1772-82. PubMed
  • DAPT継続と至適薬物治療(OMT)-OMT実施の有無を問わず,DAPT 30か月群で心筋梗塞・MACCEリスクは低下,出血リスクは上昇。
    2剤併用抗血小板療法(DAPT)>12か月継続の有効性にランダム化時のOMTが影響するかを検討したpost hoc解析の結果:OMT(ACC/AHA class I適応患者でのスタチン,β遮断薬,ACE阻害薬・ARBの併用)実施例は7,363例(63.2%;平均年齢60.9歳,女性23.7%),非実施例は4,280例(62.0歳,27.4%)。OMTの有無を問わず,DAPT 30か月群は12~30か月後の心筋梗塞リスクが低かった(実施例:2.1% vs 12か月群3.3%,ハザード比0.64[95%信頼区間0.48~0.86];非実施例:2.2% vs 5.2%, 0.41[0.29~0.58];交互作用p=0.103)。主要有害心脳血管イベント(MACCE)も同様だったが(4.2% vs 5.0%, 0.82[0.66~1.02];4.5% vs 7.0%, 0.63[0.49~0.82];交互作用p=0.250),GUSTO中等度~重度の出血リスクはOMTの有無を問わず30か月群のほうが高かった(2.2% vs 1.0%, 2.13[1.43~3.17];2.8% vs 2.2%, 1.30[0.88~1.92];交互作用p=0.073):Circulation. 2016; 134: 989-98. Epub 2016 Aug 30. PubMed
  • DAPT>1年継続の虚血・出血リスク予測モデルとベネフィット-リスク差予測スコア-モデルの予測精度は中等度。
    DAPTコホート(11,648例;平均年齢61.3歳,女性25.1%)において,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)>1年継続の虚血,出血リスクを予測するモデルを作成,さらに両者の差(ベネフィット-リスク差)を予測するリスクスコアを作成して,PROTECT(Patient Related Outcomes with Endeavor versus Cypher Stenting Trial)コホートで外部検証した。
    [モデルとリスクスコアの作成]PCI後12~30か月で虚血(心筋梗塞[MI],ステント血栓症)は348例(3.0%),中等度~重度の出血(GUSTO基準)は215例(1.8%)発生。多変量解析の結果,虚血・出血関連因子として試験治療,年齢,末梢動脈疾患,高血圧,腎不全,虚血のみの関連因子として,MI現病,MI・PCI既往,うっ血性心不全・EF<30%,静脈グラフト病変,ステント径<3mm,paclitaxel溶出ステント,喫煙,糖尿病などが同定された。虚血モデルのc統計量は0.70,出血モデルは0.68だった。モデルの変数から9因子を選択し,ベネフィット-リスク差を予測するリスクスコアを作成(スコア範囲:-2~10)。DAPTコホートにあてはめると,高スコア例(≧2;5,917例)はDAPT継続群のプラセボ群にくらべた虚血イベントの低下(2.7% vs 5.7%;リスク差-3.0%, p<0.001)が,低スコア例(<2;5,731例;1.7% vs 2.3%;-0.7%, p=0.07)より大きかった(交互作用p<0.001)。一方,出血リスクの増加は高スコア例(1.8% vs 1.4%;0.4%, p=0.26)が低スコア例(3.0% vs 1.4%;1.5%, p<0.001)より小さかった(p=0.02)。
    [外部検証]このモデルをPROTECTコホート(8,136例;平均62歳;女性23.7%)にあてはめると,c統計量は虚血,出血ともに0.64とやや低下。高スコア例(2,848例)は低スコア例(5,288例)よりPCI後12~30か月の虚血リスクが高かったが,出血リスクには差はなかった:JAMA. 2016; 315: 1735-49. PubMed
  • MIとDAPT期間-MI例は約3割。MIの有無を問わず30か月群は12か月群よりステント血栓症・MIリスクが低く,出血リスクが高い。
    登録時のPCIの適応が心筋梗塞(MI)か否かによりDAPT 30か月群と12か月群の一次エンドポイントを比較した結果(MI例3,576例[30.7%・平均年齢58歳],非MI例8,072例[63歳]):MI例の47%がST上昇型で,非MI例の22.6%が心臓マーカー非上昇の不安定狭心症。MI例は喫煙率が高かった一方,非MI例は女性,糖尿病,末梢動脈疾患,PCI既往が多かった。
    全例では,MI例は非MI例にくらべ12~30か月後のステント血栓症が有意に多かった(1.2% vs 0.7%)。MACCE(死亡+MI+脳卒中)は同等であったが(5.4% vs 4.9%),PCI後のMIはMI例のほうが多かった(3.7% vs 2.8%)。出血はMI例が有意に少なかった(1.4% vs 2.1%)。
    治療群別では,ステント血栓症はMIの有無を問わず30か月群が12か月群より有意に少なかった(MI例:0.5% vs 1.9%;非MI例:0.4% vs 1.1%)。MACCEも同様であったが,低下はMI例のほうが大きかった(3.9% vs 6.8%;4.4% vs 5.3%;交互作用p=0.03)。PCI後のMIもMI例,非MI例ともに30か月群が少なかったが(2.2% vs 5.2%;2.1% vs 3.5%),出血は30か月群が多かった(1.9% vs 0.8%;2.6% vs 1.7%):J Am Coll Cardiol. 2015; 65: 2211-21. PubMed

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収載年月2014.12
更新年月2017.06