循環器トライアルデータベース

TASMIN-SR
Targets and Self-Management for the Control of Blood Pressure in Stroke and at Risk Groups Study

目的 血圧の自己測定は英国では高血圧患者のおよそ1/3が実施しており,TASMINH2試験で,血圧の自己管理と降圧薬の自己調節により1年後の収縮期血圧(SBP)が通常ケアにくらべ5.4mmHg低下することが示された(Lancet. 2010; 376: 163-72. PubMed)。しかし,この試験には,心血管疾患(CVD)や糖尿病,慢性腎臓病(CKD)などの高リスク例がほとんど含まれていなかった。
本試験では,CVD高リスクの患者において,血圧の自己管理と降圧薬の自己調節が通常ケアにくらべ血圧が低下するかを検討する。

一次エンドポイントは,12か月後の診察室収縮期血圧(SBP)。
コメント 日本では,家庭血圧計が非常に普及しており,降圧薬の投与開始あるいは増減の判断は,患者自身が自分で測定した血圧値をもとに行うことが多くなっている。このことで白衣高血圧に対する不要な降圧薬処方を避けることができるとともに,仮面高血圧を発見し適切な治療を行うことができるようになった。
家庭血圧はまた診察室での血圧測定に比べて,季節による血圧変化やストレスによる血圧変化を的確にとらえるのに優れている。そして,患者自身が医師による診療に先んじて,自分の普段の血圧値を知ることの利点はきわめて大きい。
一方,外来患者数が多いこともあり降圧薬は2ヵ月あるいは3ヵ月ごとの長期処方を行う医師が多くなっており,季節や環境変化に応じたきめ細かな対応が行いにくい状況もある。
したがって,医師が的確な指導を行うことで,患者自身が家庭血圧に基づいた血圧変化の把握と降圧薬の自己調整を行い,これまでよりもきめ細かな血圧調整が可能となる可能性が高い。本論文は,まさにそのことを実証した点で,興味深い。
本試験のプロトコルは,高リスクの高血圧症例で,家庭血圧目標を120/75mmHgと設定して降圧薬をあらかじめ決められた3ステップ法で増減してもらう群と,従来のように診察室血圧で血圧管理する群にランダム化して1年間追跡,1年後の診察室血圧を比較するというものである。一次エンドポイントは,1年後の診察室での両群の血圧値の差である。
その結果,ベースラインから1年後の収縮期/拡張期血圧低下は,介入(自己調整群)群のほうが通常診療群よりも9.2/3.4mmHgも大きかったというものである。介入群での1年後の血圧平均値も128.2/73.8mmHgであり,通常診療群の137.8/76.3mmHgより明らかに低い。当然,自己管理群のほうが有意に多くの降圧薬を服用していた(2.22剤vs 1.73剤)にもかかわらず,有害事象には差がなく,安全に自己管理ができていたという。
しかし,本試験は,血圧が極端に高い症例や,起立性低血圧,認知症のある症例,降圧薬を3剤以上処方されている症例は除外されていることには注意が必要である。また,糖尿病,慢性腎臓病,心疾患などを合併する高リスク群が対象でありながら,降圧によるこれら合併症の悪化など,個々の症例で管理すべきことには触れられていない。さらに,家庭血圧が途中で下がりすぎた場合の対処などにも触れられていない。現実には,家庭血圧が極端に下がってきた場合には降圧薬を減らすように指示することはよくあるが,その点についての解析は述べられていない。また両群における左室肥大や蛋白尿などの臓器障害の進展程度を比較してはいないことにも注意が必要である。
しかし限られた症例のなかでは,降圧薬自己調整によってよりより細かい血圧管理が可能になることを示唆している点で貴重で,家庭血圧計が普及した今,高血圧診療のあり方を見直す重要なエビデンスではある。(桑島
デザイン 無作為割付け,オープン,多施設(英国の59施設)。
期間 追跡期間は12か月。
登録期間は2011年3月~12月。
対象患者 552例。35歳以上,CVD・糖尿病・ステージ3のCKD・冠動脈疾患(CAD)のうち1つ以上を有し,血圧≧130/80mmHgで専門医による治療を受けていないもの。降圧薬処方の有無は問わなかった。
除外基準:認知症またはshort-orientation memory concentration testスコア>10のため血圧の自己管理不可能,血圧>180/100mmHg,起立性低血圧,SBP低下>20mmHg,降圧薬3剤以上服用,TASMINH2試験参加例,急性心血管イベント後3か月以内など。
■患者背景:年齢(自己管理群69.3歳,通常ケア群69.6歳),男性(60.1%, 59.4%),白人(96.4%, 96.7%),BMI(30.2kg/m², 30.5kg/m²),既婚(76.1%, 69.9%),貧困度スコア(index multiple deprivation[IMD]2007:17.4, 16.5),喫煙(6.2%, 6.9%),不安スコア(STAI-6:13.7, 13.9),既往:CAD(30.8%, 30.1%),脳血管疾患(18.8%, 17.4%),糖尿病(44.6%, 46.4%),CKD(31.2%, 32.6%),併存疾患が2つ以上(21.4%, 21.7%),降圧薬服用量(2.2, 2.4)。
治療法 家庭医が電子カルテ検索により特定した参加可能な患者のうち,登録基準を満たした患者をランダム化。
自己管理群(276例):家庭血圧計を用いたトレーニングを2~3回実施後,患者自身が毎月第1週に朝2回血圧を測定。2か月連続して4回以上の測定値が目標(120/75mmHg)を超えた場合は,予め設定した3段階のスケジュールに従い降圧薬を調節。血圧>180/100mHg, SBP<100mmHgとなった場合,3段階の調節を終了した場合は家庭医に相談。
通常ケア群(276例):家庭医の判断で定期的に血圧を測定し,降圧薬を調節。
血圧は6,12か月後の来院時の診察室血圧を用いて評価。1分おきに6回測定し,主解析には2回目と3回目の平均値を使用したが,カフ膨張の変化の影響を軽減するため,2~6回目の平均値を用いた評価も行った。
結果 12か月後の追跡終了は81%(自己管理群220例,通常ケア群230例)。
[一次エンドポイント]
ベースラインから12か月後の血圧の変化は,自己管理群143.1/80.5→ 128.2/73.8mmHg,通常ケア群143.6/79.5→ 137.8/76.3mmHg。ベースライン血圧で調整した12か月後の血圧の群間差は,SBPが9.2mmHg(95%信頼区間5.7~12.7),拡張期血圧(DBP)が3.4mmHg(1.8~5.0)。
[感度分析]
(多重代入法による解析)143.5/80.2→ 128.6/73.6mmHg, 144.2/79.9→ 138.2/76.4mmHg;12か月後の群間差:SBP 8.8mmHg, DBP 3.1mmHg。
2~6回目の平均値を用いた解析結果も同様であった。
[降圧薬服用量]
両群で増加したが,増加は自己管理群のほうが大きかった(12か月後の平均降圧薬服用量:3.34 vs 2.61,平均差0.9;0.7~1.2)。
[その他]
サブグループ(年齢,性別,ベースラインSBP,糖尿病,CKD,脳卒中,CAD,貧困度)解析の結果も同様であった。
有害事象(関節のこわばり,疼痛,疲労感など)には有意な群間差を認めなかった。
★結論★高リスクの高血圧患者において,血圧の自己管理および降圧薬の自己調節により,12か月後のSBPが通常ケアにくらべ低下した。
文献
  • [main]
  • McManus RJ et al: Effect of self-monitoring and medication self-titration on systolic blood pressure in hypertensive patients at high risk of cardiovascular disease: the TASMIN-SR randomized clinical trial. JAMA. 2014; 312: 799-808. PubMed

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収載年月2014.11